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20本目

「アロハー」

「もしもし、吉田さん? 多々木ですけど、いま、どこですか」

「アロハと言ったろう。いまハワイに()る、ワイハーじゃ。常夏のビーチで、あられもない姿で寝そべっておる」

「気持ちわるい気持ちわるい」

「し、失敬な! これでもワシは、このなかで50歳は誰でしょうイン20代水着女子に出られるくらい、ナイスバデなんじゃぞ?」

「……それより吉田さん、聞いてください。去年のあの事件が蒸し返してきたみたいなんです」


 多々木所長が女性占い師めんそーれ吉田さんに電話すると、国際電話につながり、なんと彼女はハワイでヴァカンス中だという。

 とりあえず所長は占い師にことの経緯を電話で話した。

 青山という男性が今日、事務所を訪れたこと。彼が水戸さんに昨夜会ったと語ったこと。


「ふん、1年前に殺された女に会ったとは……。その男の見た水戸かず子は幽霊かの」

 所長は吉田さんとの会話が私にも聞こえるよう、電話をスピーカーモードに切り換えてくれた。

「どこまで信じていいものか、わかりません。それと、もしかして青山にはあの星影が取り憑いている可能性も」

「うひひ、」と占い師が笑う。「それは鳥肌ものじゃの。じゃが、星影がまた(あらわ)れたとして、きゃつが探偵をいまさら攻撃する理由があるかの?」

「あくまで可能性のひとつ、です」


 そして所長は、世界線が変動した可能性についても言及した。

 それを示唆するひとつは、去年私たちが新聞広告を出したという事実そのものが消滅したこと。

 もうひとつは青山という男性の出現である。彼がやってきたのは、世界線の変動による遡行(ループ)とも考えられる。


「なるほどの。こりゃあ、日本へ緊急帰国したくなるほどに面白そうじゃ」

「いや、それだけは本当にヤメてください」所長は懇願した。「青山が星影かもしれないこの状況で、ヤツをあなたに会わせるわけには行きません」

「ふん、ワシを心配してくれているのか……ありがとうよ。とりあえず、そうじゃな、青山という男との接点はどうなっておる」

「いちおう彼の住所と電話番号は控えています。彼からお金をもらって、表面上は水戸さんの調査をすることになっていますので」

「商売繁盛でけっこう」

「こっちは命がけですから、釣り合いませんよ?」

「まあまあ」吉田さんは(なだ)めるように言った。「明日にでもワシのアシスタントをそちらへ向かわせよう。野村という男じゃ」

「アシスタント?」

 なんだか、よくわからない雰囲気のまま所長は受話器を置いた。


 翌日。13時すぎに来客があった。インターホンが鳴り私が事務所のドアを開けると、そこに立っていたのは小太りな男性だった。

 いや、むしろ、ずんぐりむっくりと言ったほうがいい。身長は150センチくらいなのに横幅がかなりある。さらに童顔で年齢不詳な感じだった。

「はじめまして、オラ、野村茂男といいますど」

 オラ? ど? ……喋り方までヘンだった。しかし、たぶん彼が吉田さんのアシスタントということなのだろう。


「ようこそ、いらっしゃいました」所長が愛想よくソファをすすめた。「若林くん、すまんがお茶を」

「は、はい」

「これ、つまらないものですがどうぞ、だど」彼は菓子折り的なものを差し出して言った。

「これはご丁寧に」

「オラが食べたかったんだど」言って少年のように、にかっと笑う。

 ……この人、大丈夫なの? 所長と私は目を合わせ、ぽかんとした。


「ここの所長をしている多々木といいます、よろしくどうぞ。こっちは助手の若林さん」

 所長の紹介にしたがって私は頭を下げた。彼らにお茶を出したあと私も同席させてもらった。

「こちらこそ、だど。吉田先生からアンタらのことはよく聞いているど、優秀な探偵さんたちだって」

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