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2本目

 札束のように見えたそれは、何のことはない、新聞紙を紙幣サイズに切り揃えて束ねただけの代物だった。

 厚さがおよそ5センチなので本物の1万円札だったら500万か、ちくしょう。

 あのレオタード美人は何だってこんなものを置いて行ったのだろう。まさか本当にこれがオレ宛ての荷物だってのか?

 おかしい、あきらかにヘンだ。

 コスチュームのおかしさは百歩譲っていいとしよう、だが、宅配業者ならばふつうに荷物を渡して帰ればいいだけの話。

 ミトさんが現れたときの閃光、部屋の内と外が逆転した超常現象、そして音もなく消え去った彼女……。

 ひとつとして、まともな点がない。もしかして彼女、幽霊? だが幽霊がこんな紙束を持ってくるだろうか。

 いやいや、物理的な接触が可能なオバケだっているさ。某貞子とか。


 心拍数が上がってくるのが自分でもわかる。この紙束には何かが隠されている。オレは調べずにはいられなかった。

 紙幣サイズにカットされた新聞紙は500枚からあったが、特異点はすぐに見つかった。

 理由は簡単、とある1枚だけに赤ペンで丸がされていたからだ。

 紙片なので記事全体を読み取ることはできないが、それでも問題なかった。どうやらこれは広告記事で、社名と電話番号の部分はばっちり読める。


【多々木探偵事務所】04XX-XX-XXXX


 探偵の2文字に思わず目を奪われる。何だよ、ここに連絡して相談しろってこと?

 でも何て言えばいい。ヘンな怪奇現象に悩まされているんですけど、てか。

 そこでオレはふたたび思い起こす。彼女とのやり取り、会話のすべてを。

 ……そうだ、彼女はたいしたことを言っていない。パラグライダースという会社名と、ミトカズコという自分の名を言っただけだ。

 逆に言うと、それをオレに伝えるためにわざわざ部屋に上がり込んだ。


『困ったことになったわ』


 彼女はそうも言っていた。うわー、どう考えてもこれ、SOSっぽいよなあ……。


 翌日、オレは休みだったので朝10時に電話をかけてみた。例の探偵事務所の番号に。

「お電話ありがとうございます。多々木探偵事務所でございます」

 予想に反して可愛らしい声の女性が電話に出た。正直、探偵なんて胡散臭いイメージがあるので、これは導入(はいり)としてはかなりいい感じだ。


「あのう、青山という者ですが、相談したいことがありまして」

「新規のお客様でしょうか」

「……ええ」

「来社をご希望でしょうか」

「そうですね。今日でも大丈夫ですか」

「本日は……13時からであればご予約できます」

「じゃあその時間で、お願いします」

「ご予約、若林が(うけたまわ)りました」

 オレは若林さんから事務所の場所とアクセスを教えてもらって電話を切った。


 事務所は凶祥寺にあった。いかにもな場所と言えば場所だ。

 予想どおりの雑居ビルだったがスナックやバーはひとつも入っておらず、1階がほか弁なのがちょっと癒された。そこの2階が目的の探偵事務所だった。


 13時ちょうどに事務所のインターホンを鳴らすと、これまた可愛らしい女性が出迎えてくれた。彼女がきっと若林さんだろう。

「青山様ですね。お待ちしておりました、どうぞ」

 案内されるままに事務所のなかに足を踏み入れた。


 お世辞にも広い部屋とは言えなかったが、小オフィスにありがちなパーティションがまったくなく、部屋の隅まで見渡すことができた。

 デスクはふたつ。空いているひとつが若林さんのものだとすると、もうひとつの席に座っているおっさんが探偵さんだろうか。

 短髪のごま塩アタマで髭もほぼ白かった。年齢は40代か50代か、わからなかった。


 オレがソファに座るなり、おっさんはつかつかと近寄ってきて、いきなり名刺を渡して言った。


「ここの所長をしている多々木(たたき)と言います。青山さん、でしたね」

「はい」

「失礼ですが、うちの探偵事務所のことを、どこでお聞きになりましたか」

「新聞広告で、しりました」

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