表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/30

17本目

 私は電話口で吉田さんにお願いした。

「吉田さん、お願いです。Pメールをつかって水戸さんを助けてあげてください」

「それは構わんが、じつは……の」

 女性占い師は電話の向こうで言葉を濁した。

「水戸が殺されたのは、いつじゃ」

「おととい水曜日の20時頃だそうです」

「……アウトじゃ」

「え、」

「じつは、探偵のために使(つこ)うたPメールターボ、あれには功罪があっての。利点としては、おぬしも見たとおり、過去の人間に直接暗示をかけることができる」

「じゃあ、悪い点は?」

「Pメールターボが送られた日以前には、もう無印もターボも送信することができなくなる。遡行の縛りが発生するんじゃ」


 多々木所長がPメールターボを受け取ったのが木曜の夜。それ以前の過去にメールを送信できないとなれば、もう水戸さんを救う手立てはない。

「すまんの、芽衣。だが探偵を救うにはターボをつかうのがベストじゃった」

「……いいえ、そのとおりだと思います」

 私は、所長と佐須刑事が星影のところへ向かったことを吉田さんに伝え、彼女にお礼を言って電話を切った。



 星影アキラは、いや私たちがそう呼んでいた男は、突然すがたを消した。

 本名・香坂宗雄、32歳。マジメな会社員だった彼はあの金曜日に無断欠勤をして、そのまま行方しれずとなった。

 香坂は水戸かず子殺害事件の重要参考人として全国に指名手配されたが、あれから1年が経とうとしているいまも、まだ見つかっていない。


 あの事件は所長にとっても私にとっても非常に後味の悪いものとなった。依頼人の命を救うことができなかったのだから。

 とはいえ、私たちにはどうしようもなかった。

 ターボをつかわず無印のPメールで過去を変えればよかったのか。あの日、水戸さんの依頼を受けなければ所長が命を狙われることもなかった……。

 しかし、これでは本末転倒というもの。そもそも新聞広告を出せと指示(メール)してきたのは未来の私たちだ。

 それを出さなければ水戸さんが依頼にやってくることもなかった。


 もともとこういう結末だったのかもしれない。

 私たちが調査の依頼を受けても受けなくても、水戸さんは星影(香坂)と接触して死の運命からは逃れられない。

 そう考えるとすこし気がラクになったが、同時に私たちやあの吉田さんですらも無力である気がしてきて、やりきれない。


 星影アキラという存在について吉田さんは独自の解釈をしていて、それを私たちに話してくれた。

 いわく、彼は悪霊でありその名は呪詛の言葉であると。

 星影という悪霊が香坂宗雄の精神と肉体を支配していた。が、その支配にはオンとオフがあり、オンのときだけ悪霊としての本領を発揮する。つまり、香坂から星影へとスイッチする。

 スイッチが入った星影は、とにかく手がつけられない。彼の名前そのものが呪詛の言葉となり、それを見た者に強力な催眠術をかける。


 そして、あの爆弾ネックレス。

 香坂失踪後に警察が彼のアパートを調べたが、爆弾を製造・所持していた形跡は発見できなかった(と佐須刑事が私たちに、こっそり教えてくれた)。

 あの爆弾は、この世のモノではなかったのかもしれない。

 ちなみに、所長は爆弾ネックレスのことをついに佐須刑事に話さなかった。

 それでも警察が爆弾について調べたのは、水戸さんが爆殺されたという何よりの証拠である。


 また吉田さんは、香坂の失踪について、残念だがふたたび彼が戻ることはないだろうと予測した。

 悪霊星影は探偵を始末することに失敗し、結果的に本体である香坂が警察に追われる身となった。

 星影にとって香坂の身体はもう用済みだった。そこで悪霊は宿替(やどが)えしたのではないか、というのが吉田さんの推理である。

 ようするに、星影はべつの人間に取り憑いた。用済みとなった香坂の身体は、始末してしまえば、警察は永久にこの重要参考人を追う羽目になる。

 そして、あたらしい身体を手に入れた星影は、復活の日をひっそりと待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ