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13本目

『おまえ、探偵に尾行(つけ)られているぞ』

 メガネザルの声が聞こえてきて、オレのテンションはぶわーっと上がる。

 この、ほかの人には見えずオレだけに見える子猿が肩の上に乗ると、オレのなかの「星影アキラ」が目を醒ます。オレはボクになるのだ。

 星影アキラは、とにかく最高。できればずっと星影(ボク)でいたいが、そうは行かないところが玉に瑕と言える。



 ボクとメガネザルは、宿主の身体を借りなくては生きられない。ふだんは眠っていて、だいたい週一くらいのペースで(めざ)め宿主の身体を乗っ取る。

 乗っ取っていられるのは最長6時間で、宿主にはその間の記憶はない。つまり最長6時間の記憶の空白が生まれることになる。これって、けっこう怖いよね。


 例えば、その空白期間に電話がかかってきたとする。ボクは電話に出たりしないよ、めんどくさいし宿主の事情なんてしらないから。

 すると不在着信履歴が残る。乗っ取りが終わって素にもどった宿主はその履歴を見て、あれ、この時間オレは何していたっけ? と考えはじめる。ふつうはね。

 だがボクはこの宿主にあらかじめ暗示をかけてある。「気にするな」、と。


 これで大概うまくいく。社長さんとか芸能人とか、つねに他者からスケジュールを管理されているような人間でもないかぎり、その日の行動記録なんてアバウトでかまわないのだ。

 あ、もちろんボクはアフターファイヴと休日にしか顔を出さない。誰が好き好んで仕事なんかするかよ。

 しょっちゅう絡んでくる友だちや恋人がいると、ちょっと面倒だが、この宿主さまは正真正銘の非リア充ときたからもう最高ーぅ!



 ボクがこの世界に顔を出している間はできるだけ愉しみたいと思っている。が、メガネザルが伝えてくれたのは、あまり愉快なニュースじゃなかった。


 探偵がボクを尾行……そうか、このあいだ獲り逃がした女だな。あいつめ、「オフ状態」のボクを発見して探偵に調査を依頼したのか。

 まあ、あの女を獲り逃がしたこと自体はまったく問題ない。彼女は頓智を利かせて逃げおおせたつもりかもしれないが、ノンノンノン、そうは行かないよ。


 とりあえず、あわれな探偵さんを始末してしまおう。会社帰りにボクはちょっと大きめのカフェに入った。

 定石どおり探偵はボクの後方に席を取った。

 そこからボクを見張るつもりだろうが、ボクもきみが丸見えなんだよ? うしろを振り返らずともメガネザルがきみの挙動を報告してくれるからね。


『探偵がトイレに立ったぞ』

 はいはい、ありがとう。ボクは何食わぬ顔で探偵のテーブルに名刺代わりの紙ナプキンを置き、また自分の席にもどって食事をつづけた。

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