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ようこそ愛と恋の夏休みよ  作者: (仮説)
現在
6/30

⑤火と水

 

 ◎


 テストなぞとっとと終わらせた放課後、俺と姉の楓美は庭にてバーベキューの準備をしていた。

 4時間で授業が終わったので時間はたっぷりある。確認しなければならないこともたくさんある。


「そういや何人来るの? 酒店のお爺さんも来るって言ってたんだが?」

「どうだろ、40人はいるんじゃないかな」

「40……庭はやたら広いから足りるとは思うけどさ」


 それならそれで準備しないといけないものもある。箸とかフォークとか、椅子とか。食料は元々余分に買っているので足りないこともないが一応もう少しあった方が良いかもしれない。


 すると、庭先に3人が現れた。

 俺が見たことあるなはその一人のお爺さんだ。夜のバーベキューに現れた老人。

 その後ろに着いてきているのは20代半ば辺りの男女。

 話に出てくる孫というのはこのどちらかで、もう片方が配偶者なのだろう。


「桜橋のお嬢ちゃん、今日はありがとうのぅ」

「いえいえ、私も楽しみにしてますから」


 楓美が一歩前に出て応対する。続いて後ろの二人にも挨拶をした。

 目の細いお爺さんが二人のことを説明する。


「わしの孫じゃ」


 大雑把だしどちらかわからないし。

 お嫁さんと思われる人が爺さんに代わって挨拶をした。


「お爺ちゃんの我が儘に付き合ってくれたありがとうございます」

「いえいえ。おめでたいことですから」


 どうやら彼女の名は宮野嶺南というらしい。

 俺は空気のような影の薄さになりながら庭で作業を行った。他人となんて話したくないオーラを出しているのできっと大丈夫だろう。


「おーい――おーい」


 ぶち壊すような大音量が発せられた。

 姉や、お爺さん達ではないまた別の誰かの声だった。やけにテンションが高いのが印象的だ。

 いや、そんなやつなんてこの村にだって一人しかいない。


「京君!!! お昼一緒にー!!! 食べよー!!!」

「…………」


 本当にやめて欲しいと思ってしまった。

 この無神経さよ。友達として恥ずかしい、って結構ガチで思っちゃうってこれはさ。

 鏡子さんは玄関口から庭に一直線にやって来る。それとお爺さん達に軽く会釈する環奈さん。

 どちらも私服姿だ。夏だから露出が多いのは仕方ない。

 そんな彼女らを流し目で見る楓美――それから俺のことを。それも是非やめて頂きたかった。


「京君、お昼一緒に食べよ」

「それはいいけどさ……」

「あれって桜橋君のお姉さん?」


 環奈さんがそう尋ねてきた。

 そうだよ、と答える。


「あんま似てないね。でも可愛い」


 にやつきながら俺を見てきた。

 何だその目は。俺が美人のお姉さんに恋してるとでもと言いたげだ。

 ついつい睨み返すと、スッと逸らされた。


「京君にお姉さんがいるなんて知らなかったよ」

「そうっすね……言ってないからな」


 そういや環奈さんはすぐに気づいたな。彼女の発言通り、まったく似てないのに。

 都会にいそうな見透かしたような態度の少女だ。


「昼ごはんってのはいいけどさ、その姉も一緒になるけどいい?」

「いいよ」

「私もいいよ」

「じゃあ、話が終わるまでちょっと待ってて」


 楓美はまだ話をしていたので、庭から家に入って待つことにした。二人の女子は自分の家のようにくつろぎ始めた。

 俺もくつろいだ。というかスライムのように堕落しきった。


「料理の準備しなくていいの?」


 環奈さんが横になってゴロゴロしながら訊いてきた。

 気が回る人ではあるんだけどね。


「スイカだから切るだけだよ」

「……す、スイカ」

「やはり食べ飽きてるよな」

「スイカを食べるくらいなら自分で作りたいかも」

「作ってもいいよ……4人分」


 キッチンの脇にあるエプロンを着けて、環奈さんは台所に立った。

 いつも楓美が使っているエプロンだけど、それも悪くない。

 冷蔵庫を覗いて「肉ばっか」と呻いていたが、どうやら何を作るか決まったようで作業に取りかかった。

 眠かったはずなのに、クラスメイトがキッチンにいると思うと目が覚めてしまう。

 自分の家で他人が料理を作っているということに罪悪感が生じてしまった。


「……何で寝てないの」

「ついついね」

「じゃあ手伝ってよ」

「わかった」


 何も考えないで他人の指示に従うのは楽だった。



 ◎


「え、えっと私は桜橋楓美です……一応、京都君の姉をやっています」


 楓美がリビングへやったきた頃には手を合わせる準備までできていた。

 数瞬、フリーズしていたが状況を理解してテーブルの空きに座った。そこから俺がクラスメイトを紹介したところだった。

 若干テンパりながらも楓美は後輩に挨拶をする。


「よ、よろしくね」

「よろしくお願いします楓美ちゃん」

「う、うん……よろしく鏡子さん」


 鏡子さんはやっぱり馴れ馴れしかった。

 挨拶はこれくらいにして手を合わせる。「頂きます」とちゃんと皆で言った。

 美味しいけど、どことなく微妙な雰囲気だ。


「環奈さんの料理はお、美味しいなぁ」

「ありがとう。桜橋君の作ったのも美味しいよ」

「それはどうも……」

「二人とも料理上手いなぁ、私も作れるかな?」


 その場のノリで鏡子さんが願望を口に出した。

 答えは決まっている。


「「無理」」

「二人とも酷いよ~!」


 スイカを8等分するくらいが丁度いいと思う。

 チラッ、と楓美を見てみれば少しだが頬が上がっていた。鏡子さんの馬鹿みたいな反応を面白がってくれたようだ。

 道化の才能がありんすね、なんて。


「夜はバーベキューだしあんまり腹を膨らます必要もななさそうだな」

「私達も手伝いましょうか、桜橋さん?」

「あー、じゃあお願いできるかな」


 という訳で休憩の後、4人で準備を取りかかることになった。庭の方は大丈夫なので次は主に食料面。

 俺はとにかく米を炊いた。炊飯器から、鍋まで使って白米を生産するという作業。

 他の方々は食材を串に刺したりしているみたいだ。

 4時頃になると再び新婚さんがやって来て、差し入れを持ってきてくれた。


 時間が近づいてくるに連れて、慌ただしくなってくる。お皿が足りないとか、コードが足りないとか。

 トラブルはあったものの、二人の手伝いのおかげで何とか形にはなった。

 午後5時、わらわらと人が集まってくる。


「……引くほどいるんですが……」


 ここは祭りの会場か。

 俺の家にこんな人が集まるのは非常事態だ。警察を呼びたくなる。

 自宅の前に看板を置く。『宮野家 バーベキューはじめました。』

 最後に取り出したのは拡声器だった。


「では、どうぞ」

「はい、ありがとうございます」


 俺はその拡声器を新婚さんに渡した。

 音頭は主役である二人にやってもらうのは当たり前だ。

 体育祭の前のような特有の浮わついた空気。それが妙に心地好かった。


「今日は私達のために集まって頂きありがとうございます。このような催しを行えたのは、桜橋楓美さん――その弟さんの桜橋京都さんのおかげです。また、他にも協力してくれた方々にも感謝致します。堅苦しい挨拶はこれくらいにして……では」


 お嫁さんは手に持ったグラスを掲げた。呼応して皆も続いた。


「それでは乾杯!」


 一気に飲み干す者もいれば、早速コンロに着火して肉を焼く者もいる。40人近くが各々のやりたいこと始めた。

 新婚さんは軽く挨拶回りし始める。見た感じ男の方は完全に敷かれてるな。お嫁さんの方は田舎の力強さがあるから一筋縄じゃないといったところか。

 楓美はお客さんに食器を配っている。

 俺も手伝おうかと思ったが、庭から出ていく人影に気づいたのでそれを追うことにした。


「待ってよ、水瀬さん」

「……何?」


 酷く冷たい返事をしたのは。

 俺よりも早くここに転校してきた少女、水瀬遥。

 お嫁さんの旧姓。

 お爺さんの苗字。

 どちらも水瀬。遥は嶺南の妹らしい。親族らしい。


「ちょっと食べてかない?」

「別にいい」


 素っ気なく答えて、水瀬さんは太陽が沈むようにどこかへ遠く行ってしまった。

 俺はそれを普通だと思った。

 わかりません、と言うような消極さだった。



 ◎


 そこはまさに祭り騒ぎだった。

 近所迷惑かと心配したが、その近所の人もバーベキューしているので問題はなさそう。

 酒盛りとか、飲み会とか、こんな感じなんだろうか。

 忙しくも、目まぐるしく時は過ぎ去った。


 夜は深まってきた頃、お開きの時間となる。高校生だけでなく、小学生も参加しているのであまり遅くなるのはよくないという考慮の上だ。


 新婚さん二人の挨拶で、バーベキューパーティーは終焉を迎えた。また、片付けも村のお婆さん達も手伝ってくれたので速やかに終了する。

 適当なところでクラスメイト達とも別れた。

 残されたのはごみ袋の山とバーベキュー用のコンロと、とある姉弟だけ。

 始終身に付けていたエプロンを外しながら楓美は言う。


「すぐ終わっちゃったね」


 何となく水瀬さんのことを思い出していた。


「――確かに。祭りの後って感じで名残惜しい」

「楽しかった?」

「楽しかったよ」


 楓美が俺のことを見つめていたので、見つめ返す。

 瞳越しに俺の心でも見ているかのようだった。いくら見透かそうとも嘘は吐いていないから問題ない。


「本当?」

「本当だよ。嘘は吐かない」

「それならいいけど。疲れてるだろうし先にお風呂に入ってていいよ」

「いや、俺が片付けておくよ」

「……優しいなぁ、京都君」


 そう言いながら俺の背中に寄りかかったきた。

 俺も疲れているが、楓美だった同じ。俺よりも頑張った分、さらに疲労が蓄積しているだろう。

 首に回された手に、軽く触れる。


「ゆっくり休んでていいよ」

「……ごめんね」

「そういう時はあれなんじゃないのか?」

「そうだね……ありがとう」


 ごめん、よりもありがとう。

 落ち込んだ俺にそんなことを言って励ましてくれた記憶が甦る。

 一足先に家屋に入る姿を見送ってから片付けを始めた。


 田舎と真夏、茹だるような暑さ。熱帯夜。

 蝉の声。鈴虫の声。

 月と星。

 滲み出る汗がシャツとの隙間を埋める。不快感と共に思い出す感触。

 全身濡れる感覚というのは落ち着かなかった。体育着でプールに入った時もそうだ。


「よし……後は明日でいいか」


 ふと、見上げれば夏の大三角を確認することができた。

 1人で見るのは虚しい。今度は、誰かと一緒にこの天体達を見たい。



 ◎


 期末テストも終わり、1学期の授業も残り僅かとなった。

 今日も今日とて暑さと、教科書に対峙する。

 昨日の新婚パーティーの余韻を残しつつも、いつも通りに学校生活を過ごした。


「どったの京君?」

「……この村に祭りってあるのかなと思って」


 星を見てたら、花火大会なんてあれば良いと思ったのだ。こんな田舎ではないだろうけど。

 代わりといっては何だが、そういうのはあるのか鏡子さんに訊いた。


「あるよ。立川祭りはね、8月のね、16日と17日にやるよ」

「へぇ、夏祭りか。楽しそう」


 田舎の夏祭りなんて、フィクションの中では迷子系ラブコメイベントかホラー系行方不明イベントしか見当たらない。

 普通の高校生の俺には普通の祭りとなるに違いない。


「神社でお巫女さんが何かやるんだよ。それがね~、すごいの!」

「巫女……コスプレとかじゃないよね?」

「違うよ! 神社で働いてる人だよ!」


 鏡子さんの巫女服姿を想像してみたが、髪が割と短いので似合わなそう。結構背も高いし、ああいう『静』タイプ服とは相性が悪い。


「やっぱメイドだよな」

「めいど…?」

「いや、何でもない……」


 本当に何でもない。

 オタクっぽいミニスカメイドなら鏡子さんには似合うだろうが、ストッキング全開の足を見せつけられれば悩殺されるだろうが。

 しかし、俺はちゃんとしたメイドが良いと思っているから紛い物はお引き取り願いたい。

 とは思いつつも本物に会う機会なんてないけどさ。


「夏祭り一緒に回る?」


 羞恥心を押し殺して思いきって訊いてみた。

 すると、彼女はにやつきながら俺の肩に手を乗せてくる。


「ふっ、私はお客さん側じゃないよ……主催者側なのだ!」

「主催者?」

「私はね、露店をやるの!」


 作るのはお母さんですか、そうですか。

 まあ、それなら参加することはできないな。環奈さんはどうだろうか、鏡子さんの手伝いしそうだから無理か。

 じゃあ圭介やシロ君とやらか?

 何となく彼らも主催者側に気がする。


「なら仕方ないよな、うん」


 とりあえず姉にでも声をかけてみよう。

 あちらの都合もあるので、拒否される可能性も大いにある。俺と違って美人で人気者だからな、楓美は。

 1人でもいいんだけどさ、虚しい思いはしたくないから。


「――試しに訊いてみるか」


 俺は座席から立ち上がって、少し離れた位置にいる水瀬さんの下へ向かった。

 即答で拒否されるだろうが、一応。


「あのー、水瀬さん」

「何?」


 声をかけただけですごく嫌そうな顔をされた。

 気圧されつつも、俺は言葉を紡ぐ。下手に遠回しに言うと面倒泣ことになりそうなのでストレートに。


「夏祭りさ、一緒に回らない?」

「無理」


 一刀両断。バッサリと斬られてしまった。

 とりつく島もない絶対的な壁だ。

 わかってはいたが、振られるってこんな感じなのか。冷たい態度だからより凹む。

 とぼとぼ自席へ戻ると、クラスメイトの男子達が俺を見ながら深く頷く。気持ちはわかるぞ、と言わんばかりだった。こんな同意は1つもいらないのだが?


 何故か放っておけないんだよな。

 理由は勝手な同属意識なのか、それとも同情なのか。

 たまには、ああいいタイプと話をしてみるのも悪くないだろう。


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