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ようこそ愛と恋の夏休みよ  作者: (仮説)
過去
30/30

⑯感想

 

 ◎


「――無駄な部分多過ぎない?」


 まず最初の感想は文句だった。

 聞き終えた水瀬さんは控えめな欠伸をする。

 数十分か、数時間かわからないが、話した回想。俺ですらちょっと黄昏たというのによくずかずかと切れるもんだな。


「だって文化祭とか体育祭とかまったく関係ないじゃん。加藤さんって何? 君のお姉さんとはまったく関係ないじゃん」

「……いや、俺にとってはちょっと思い出深かったんだよ!」


 ちなみに脚色が入っているから、実際にはあそこまで仲良くないっていうね。睨み付けられることがよくあった。

 ラブコメ風に見えたかもしれないが、そんなことは一切ない。

 楓美とは本当に関係ない。


「でも、想像通りだったかな」

「そう?」

「親が死んじゃっても平気なところとか。相当冷めてるよね、どうでも良かった?」

「まあ……彼女の親御さんと仲良くなるくらいには」


 人間としては尊敬できたけど、親としては微妙だった。ラブラブ過ぎたというか、子供よりバートナーを溺愛していたというか。

 そういう倫理観の外側にありそうなヤバさは俺にも多少影響していると思う。


「恋人が義理のお姉さんねえ。それ自体は別に悪いことじゃないよね。同棲して、あれなことしてても私には関係ないし」

「あれなこと、って」

「でも、今は好きじゃないんだっけ?」

「そうなんだよな……」


 別れようとは言っていない。

 だが、とても恋人とは言えない生活を送っていた。俺は戻れるとは思えなかったが、楓美の方はそうじゃなかった。


「でも話を聞く限り鏡子さんって、昔のお姉さんと似てるみたいね。だから好感持ってたの?」

「まあ、そうじゃないと言ったら嘘になるかな。性格は奇想天外じゃなくてポンコツって感じだけど……」


 あの娘は宇宙人とは言えない。

 もっと親近感が沸くものだった。

 二人は明確に違う。前田鏡子と桜橋楓美はベクトルの向きからして違かった。

 ともかく、俺の長いようで短い回想は終わった。一仕事終えて少し眠ければが襲ってくる。


「喋ったらすっきりしたわ。俗人はついついこういうことを知っていると言いたくなるんだな」

「不幸自慢?」

「そんなんじゃないよ。今では俯瞰視し過ぎて他人事だし……強いて言うなら劇的だったからかな。一種の武勇伝みたいな?」

「余裕そうだね」

「今だからだけどな」


 過去は着色されると言うし、整理もできてきたからだ。

 しかし、トラウマが解消された訳でもない。

 それに根本的解決ではない。ただ桜橋夫婦が助けてくれて猶予が生まれただけで、最終的には俺がやらなくてはならないことは山積みだ。

 難しいところでは資産運用とか。


「こうして回想するまで忘れていた記憶もあったな……」

「忘却曲線? もしかして知らない?」


 水瀬さんが馬鹿にするように問う。 


「それくらい知っとるわ。一週間くらいで七割忘れるやつだろ」

「訊いただけ。まあ、記憶は忘れてもいいから忘れるものでしょ」

「そりゃそうだけど、忘れちゃいけないこともあるじゃん。水瀬さんは色々あったと思うけどもうあんな目に遭いたくないだろ?」


 悲劇にことの大小は関係ない。

 本人がどう思うか。優劣をつけられるものじゃない。

 だから、彼女な悲劇と俺の悲劇、どちらが鬱屈しているかは不明だ。


「自分だけが悲劇に見舞われている訳じゃないと思えば、な」

「それで全部納得していいの?」

「いいんだよ。諦めてる訳じゃなくて、勇気をもらってるんだから」


 知らない誰かが、俺よりも不幸に見舞われた誰かが、頑張っているのなら俺はまだ行けると思える。

 一緒に頑張ってくれる人がいれば、立ち止まることはないから。

 彼女はため息を吐きながら言う。


「やっぱ詰まらない話だったわ」

「そんな露骨に言わなくても」

「こんなの忘れるのに一週間かかるし、気分が沈んでストレス溜まりそう。マジ最悪」

「容赦なさ過ぎませんかね!」


 水瀬さんらしい、とも思うがな。

 優しく受け止めて欲しい時もあるが、こうやって遠慮なく踏み込んで欲しい時もある。

 過去として受け入れた俺に同情してくれなくて、肩が軽くなった。


「体調も治ったみたいだし私は帰る」

「少女漫画はいいの?」

「そんなに読ませたいか!?」



 ◎


 炎天下の中、縁側に寝転んだ。

 隣にはスイカを美味しそうに食べている鏡子さんがいる。

 ここは鏡子の親戚がやっている駄菓子屋。かき氷を食べたら頭が痛くなったから日向にて寝ているところだ。


「夏休みも半分くらい終わったな……」


 今はもう八月の半ば。

 田舎に娯楽はない。どうにもならない退屈が延々と続いているようだった。

 こうして可愛い女の子と過ごしているのだが、毎日毎日顔を合わせてると特別感もなくなる。


「まだ半分じゃん」

「鏡子さん、あなた宿題やってないよね」

「まだ時間あるから大丈夫だよ」


 ニコニコ笑顔でそう言うものの、それはお約束ってやつだぞ。最終日に焦るパターンだ。


 横向きにて、喧しい蝉の鳴き声に耳を傾ける。

 背中が汗ばんできたが、じっくりコトコト暖かくなってきて眠気が襲ってきた。


「俺、昼休みしてるから暗くなったら教えてくれ」

「じゃあ私も寝るー!」


 たまには――久し振りに昼寝するもの良いだろう。

 背中合わせで鏡子さんも縁側に横になった。仄かながら彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。ならば俺の心音も伝わるはずだ。


「鏡子さん、起きてる?」

「どうしたの、京君」

「いいや、何でもない」

「京君」

「何?」

「呼んだだけ」


 くつくつ、と笑っているのが背中越しに届いた。

 こんな優しいのに――背中なら首もとが痺れる。やはりどうして、気絶ならともかく俺は人前で眠ることができないらしい。


「じゃあ、お休み」

「うん、お休み……ね……」


 茹だるような暑さと、寝たくても寝れない重たい瞼。

 でも、今は苦ではない。

 生憎時間だけは有り余っていることだ。

 これからのことを考えるにはちと足りないが、ゆっくりでも進まなければならないから。


 初恋か、失恋か、悲恋か、純愛か、親愛か。

 まずは桜橋楓美のことから考えていこう――。



モチベーションが下がって中途半端に……モチベーションがあれば。

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