広いお庭へようこそ
とりあえず書いたものの、初めの想定からずれたものになってしまいました。そういうことはよくありますよね。
◎
夕闇迫る田舎道、住宅の一角から煙が立ち上っていた。追うように、腹が空くような香ばしい匂いも空気に流れる。
そこではバーベキューが行われていた。広い庭で二人の男女が専用のグリルの前で肉や野菜を焼いているのだ。
ジュゥー、と。
頬に垂れる汗を拭いながら少年は言った。
「これくらい焼けばいいのかな?」
質問に対して、エプロン姿の少女は答える。その目はまた別の食材を捉えている。
「食べられるけど、少し焦がした方がよさげだよ」
「そっか。じゃあもうちょっと」
そしてまたジュゥー、と。
二人は近くのスーパーで買ったような肉と野菜を焼く。いつしか少年は集中し過ぎて食材を見つめるだけで動かなくなった。
ふと、ニンニクの香りが辺りに漂った。少女が作った特性のタレの匂いだ。
少女はリビングから縁側に食器を移動していた。炊飯器も運んできて、準備万端だ。
「食器準備できたよ。そっちはどう?」
「丁度良い感じ」
「じゃあ、ぼちぼち頂こうか。では、手を合わせて」
少女がせーの、と促せば二人同時に「頂きます」と言った。
オレンジ色の空の下、食事の感想を言い合って時を過ごす笑顔が垣間見える会話だった。
やがて、匂いに釣られたのか老人が一人現れる。
「いい匂いがすると思ったらバーベキューしていたのかい?」
細い目のお爺さんは、光景に頬を綻ばせながら尋ねる。
口に肉を入れていた少年は答えられないので、少女が愛想よく返す。
「はい、そうなんです。田舎に引っ越しきたのでこういうこともやりたくって」
「そうかい。君らはこの家の主人のお孫さんなのかい?」
「えーっと」少し言葉を詰まらせながらも。「そうです、親族です」
「よく見たら冴子さんに似とる」
「おばあちゃんのこと知ってるんですか?」
なんて田舎らしく世間話が始まる。都会っ子丸出しの少年は黙々と食事を続けるのだった。
腹が膨れてきた頃合い、少女とお爺さんはまだ話し込んでいる。少年が気づかぬ間に思わぬ方向に話題が飛んでいた。
「良ければバーベキューご一緒します?」
「おばあちゃんがご飯準備しとるからのぉ……」
「そうですか」
少女はそんなに落ち込みもせずに頷いた。
お爺さんは少し申し訳なさそうなトーンになりながらこんなことを言う。
「近々、孫が結婚するのだが……」
「へぇ、おめでとうございます」
「その祝いに何か催しにバーベキューするというのも良いと思っての、良ければ手解きして欲しいんだが」
「そういうことなら、任せてください!」少女は満面の笑みで答える。「準備は全て私達がやっときますから、お爺さん達は日付と人集めしてくれればいいですよ!」
「そこまでしてくれのかい?」
「ええ、是非とも素晴らしい会にしましょう」
「おおぉ、最近の若者は優しい!」
「――ということになっちゃった」
お爺さんとの会話を終えて、晩御飯を口にしながらそう言った。
勝手に話を進めたことは少し申し訳ないと思っていた。だが、その顔には後悔してない、と書いてあるようだ。
「相変わらずの突っ走る癖だ……俺がどれだけ振り回さたか」
「ご、ごめん。ダメ、かな?」
ここぞとはがりに上目遣いで少年のことを見上げる少女。心をくすぐる、悶えるような瞳で射抜かれる。
そんなことをされたら、もはや即答だった。
「いいよ、やろうか」
「うんっ! ありがとっ!」
大きな声で頷けば、一っ跳びで少年に抱きついた。あらかじめそうするつもりだったのか手は箸も皿もない。
エプロン越しでも伝わる感触に頬を染めつつ、少年は顔を背ける。
「ちょっと……俺達姉弟でしょ……」
「姉弟なら抱き合うくらいするって」
家族なんだから、と言って体を離した。そうしてすぐにお皿を持って次の食材に箸を伸ばす。
「ふふっ、早く食べないとね。焼いた直後が一番美味しいから」
「そうだね……俺ももう少し食べようかな」
「次は串焼きもやってみようよ」
「次って言うと爺さんの孫の結婚パーティー的なやつで?」
そんな少女笑顔を見て、少年も釣られて笑顔になるのだった。
二人による新天地の物語は始まったばかりだ。これはそのヒトコマに過ぎない。
彼らには、もっと心踊るようなことが待っているのだから。