王女、最後の剣舞
コンッコンッ
あと少しで消灯時間になるのはわかっていたけど、その日に話しておきたくてケイの部屋のドアを叩いた。
ドアを開けて私の顔を見ると、笑顔で入ってと迎えてくれた。
ベッドに腰を掛け少し待っていると、カモミールティーを用意してくれた。
さらに私をリラックスさせようとしてくれているのか、飲んでいる途中、私の頭を何も言わず撫で続けた。
お陰で話さなきゃという変に緊張した気持ちが、ケイの撫でる手に吸い取られていくように和らいでいった。
カップの半分くらい飲んだところで、話せそう? と小声で聞いてきた。
「私ね、もう一度だけ、剣を取りたいと思っているの……」
あれだけ真剣に私を剣から離そうとしたケイだから、きっと怒るだろうと思っていた。
でも、ケイの声のトーンは曇ることなく、むしろ甘く優しい声で、どうしてそう思ったの? と私から理由が言われるのを待った。
「高等部に上がるまで、私はケイと毎日のように鍛錬をしてきたし、レイラさんにも無茶を聞いてもらったわ。もしそのまま今も剣を取っていたら、私の体は限界だったと思う。だからケイの言った事に従った後悔はないわ」
「うん……」
「だけど、長い間鍛錬をしてきた分、ケイと一緒にいる時間も長かった。それで、もしこのまま剣の感覚も忘れていったら、その時間さえも消えていくような気がしたの……。だから今までの感覚を完全に忘れてしまわないうちに、自分がどのくらいまで強くなれたのか確かめたいの……」
「ユリア……」
「お願い、ケイ。これで本当に最後にするから、私を交流戦に出させてほしいの……っ!」
ケイは数秒間だけ黙り、一息だけ吐くと、私をぎゅっと抱きしめた。
「…………わかったよ……でも、これで本当に最後なんだね?」
「うん……」
「私のわがままにつき合わせたせいで、悩ませてごめんね。でも、頑張りすぎたらだめだよ。私の目が届くところで剣を使うこと。いい?」
耳元で囁き、抱きしめる力を強めた。
その腕はどこか震えているようにも感じた。
「うん、わかったわ……ありがとう、ケイ……」
私も静かにケイの後ろに腕を回した。
互いに抱き合ったまましばらく経った。
すると、ケイはゆっくりと私の正面に顔を動かし、じっと見つめた。
不思議に思い待っていると、ケイは唇を重ねてきた。
上と下の唇を交互に挟むように口を動かし、耳たぶをふにふにと触る。
「ユリア、いいかな……」
「……っ。明日も早いから、少しだけなら……」
私のお願いを受け入れてくれたように、お礼も兼ねてそのままケイのお願いも受け入れた。
結局、私たちが落ち着いた時には、時計の針は日を跨いでいた…………




