乙女の花は何色か
交流戦は合図となる発砲より一週間後に行われる。
そして他校の生徒がやって来るというけど、相手となる学校は毎年変わり、前日まで知らされないのが慣例らしい。
準備期間を与えずにその時点での実力で競わせるのが主催側の目的なんだとか。
この交流戦はかなり大々的な行事で、他学年の生徒たちはもちろん学外のそれなりの顔も集まるそうだ。
それだけあって学園の後押しも大きい。
なんと自主鍛錬のために授業を公欠扱いにする上に、出場者には相応の内申点とプレゼントがあるとのこと。
したがって、自薦する生徒は毎年多く、当日まではたった5人という枠を巡り学園の至る所で剣がぶつかり合う音が鳴るという。
でも、ケイやクロエさんに挑む生徒は二日が経った今でもやって来ていない。
そんな花の乙女たちが熾烈な枠取り競争をしている中、ケイとクロエさんは私の目の前で優雅なひと時を嗜んでいた。
「二人とも、いくら余裕だからって、気を抜きすぎじゃないかしら。他の生徒は必死に頑張っているのに……」
「あら、私は自分から参加を表明した覚えはないわ。リルがどうしても出てほしいとうるさかったから、その場凌ぎのつもりで出ると言っただけよ」
そう言ってクロエさんはすました顔でカップにコーヒーを淹れ直す。
「私はユリアのお願いを聞いた以上、ちゃんとするよ。このあとだって鍛錬するつもりだったし」
ケイはお菓子を口に含みながら私にしっかりと参加する意思を伝えた。
「イヴちゃんは……。あの子も参加するんでしょ?」
「ああ、彼女なら……ほら、あそこよ」
芝生の坂になっている場所で、ニャ~と寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ころんでいた。
あろうことか学年、延いては学園を代表する三人が、他の生徒たちを傍目に気ままな時間を過ごしているのだ。
ここは私が動く必要がありそうだ。
私は一度その場を離れ、しばらくして三人で戻った。
「姉ちゃんっ。交流戦出ないってどういうこと!!」
「っ……!リルっ、どうしてっ」
「何故昼寝をしているのですか、イヴ~……。あなたは今やるべきことがあるはずですわよね~?わたくしに恥をかかせるつもりですのっ!!」
「ニャーッ!?ちょっとくらいいいだろー!わかったから下ろしてくれーー!!」
うむ、これでよし。
我ながらいい仕事をして、気持ちのいい汗を爽やかに拭った。
「ユリアの行動も、だいぶ大胆になってきたね……あはは……」
☆
ケイたちの鍛錬も終わり、その様子を見ていた生徒たちに尋ねられた。
「ケイさんたち、やっぱりすごいわね~。何ならあの三人の内一人だけでも全勝したりして!」
「確かにあの三人は強いわ。でもそう簡単にいくかしら?」
他校の中にはかつてのケイの騎士養成校のような、身体的技術を専門とした学校も含まれていると聞く。
普段からレベルの高い技術を教えられている相手とぶつかったら、比較的平穏でゆっくりとした生活を送るケイたちは油断すると厳しくなるかもしれない。
「おやおや、アザレアのユリア様がローズのケイ様の勝利を信じてあげなくてどうするんすか~?」
一人がにやにやとした表情で小突いてくる。
「も~、からかわないでちょうだいっ」
「あはは、ユリアさんは相変わらずかわいいねー。そいえばユリアさんは参加しないの?ユリアさん、中等部のとき剣の腕前はあの三人の次にすごかったし……」
私が出る可能性は全く考えてなかった。
言われてみれば私も意思さえあれば参加することができるんだ。
高等部までのおよそ三年ちょっと、私はケイと鍛錬を重ね、レイラさんにも無茶を言って剣術や体術の努力を惜しまなかった。
できることなら、それまでの努力をこのまま無駄にしたくない。
まだ感覚が覚えているのなら、今までの努力がちゃんと実になっているのか確かめてみたい……!
でも、私はケイに高等部に上がったら剣を握ってほしくないと言われたんだった……。
もう一度だけ、今回だけでも許してくれるかしら……。
私は恐る恐るケイに近づいた。
「ケイ、その~……あのね……?」
「? うかない顔してどうしたの」
「……あ、ううん!やっぱり何でもないわ!」
ケイの優しい笑顔を見た瞬間、怖気づいてしまい考えてたことが言葉に出なかった……




