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王女の私は婚約相手になったハイスペックな女の子の騎士に悩まされています!  作者: すきゆり
{高等部篇}春風と共に集う花々
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妹ができました!

「エミルちゃんを呼んで来てほしいって頼まれたんだけど……」

「? あ、あなたはっ――――!?」





       ☆





「ユリア、お待たせ」



 持ってきたバスケットの被せていた布をとり、ケイお手製の昼食セットがテーブル上に広げられていく。



「ありがと!」



 天気がいい日の昼休みは、私たちは屋外にある芝生の広場で過ごすことが多い。

 今日は特に晴天に恵まれていて、いつものように会話しながら昼食をとることに物足りなさを感じてしまう。



 何が起こることもなく、平穏でのんびりとした生活を私は常々望んでいる。

 そのはずなのに、いざそれに近い状況に身を置いてしまうと、刺激を欲しがり出す。


 この感覚は何と言うのだろう……好奇心?それとも単に落ち着きがないだけ?


 どちらにせよ、同じような毎日に退屈しだした私に、新鮮な空気を運んで来てくれる何かが起こらないものだろうか…………もちろん平和的に。




「お姉ちゃーーんっ!!」




 おっといけない、耳に馴染みのある声を聞いた瞬間、待ってましたとつい喜んでしまった。


 いつもはちょっぴり賑やかな子だからと一歩後ろに下がっている私も、今日は足をぶらつかせる。

 さて、今日はどんな風に盛り上げてくれるのか。


 弾む心を目に宿し視線を移す。


 おや?今日は珍しくもう一人お客様がいるようだ。


 でも隠れるように後ろを歩いているせいで顔がよく見えない。

 けれど、時折見え隠れする白く透き通りふわっとした髪が、いつしかのぼんやりとした記憶の解像度を上げる。


 ふとケイの顔を見ると、ケイもまた私を見ていた。

 どうやら同じ事を思っていたようだ。




「今日はユリアさんにお客様を連れてきました。さあ、言わていたユリア王女ですよ!」



「…………あの……突然の面会……お許しください…………ユリア様っ……」




 スカートの両端を摘まみ、たどたどしく言葉を紡いで頭を下げる。

 驚きこそしたものの、ここにいるという事はそういう事だろう。


 何よりも、新品同然の制服に身を包んでいることが、私を納得させる証拠としては十分だった。




「まさかアリス王女まで学園に入園されていたなんて……。またお会いすることが叶ってとても嬉しいです!」




 両手だと包みこんでしまいそうな、あどけなさが残る小さな手をそっと握る。

 相変わらず感情を表に出すことが苦手なようだ。


 表情の変化が全くと言っていいほどに表れず、少し見ただけでは考えを汲み取るのが難しい。

 それでも、今の私にはアリス王女が喜んでくれているのがわかる。


 前に帰りの馬車に乗ろうとした私を止めて、握手したときも……。




「私……ユリア様に、もう一度……会いたくて……」




 こうして私の手を強く握ってくれた。でも今回は上目で私の目をじっと見つめて、一生懸命に何か伝えようとしてくれているのがわかる。


 アリス王女はこんなに積極的な子ではなかったはず、今日までの間に何か変化でもあったのだろうか。


 理由は何であれ、自分の考えを行動に移せるようになったのはいいことだ。

 これは前よりも関係を深めるにはいい機会かもしれない。




「アリス王女、ううん、アリスちゃん。ここでは王女とか気にせず、自由に振舞っていいのよ?だから私のことも王女よりも先輩として接してくれると嬉しいわ」


「……自由にして、よろしいのですか……?」


「ユリアは逆に、もう少し王女としての自覚を持ってほしいところだけd……」




 ケイが全てを言い終わる前に振り向くと、私の顔を見た瞬間、逃げるように別方向へと向いた。

 ケイには後で私特製の『碧の宝玉』を皿から零れる程プレゼントしてあげよう。



「っ…………」



 アリスちゃんの握る力が弱くなった。しかも今度は震えている……。

 いきなり自由に振舞うように言われても困るのは当然だ。


 私としたことが、緊張を解してあげようと変に焦って段取りを省いてしまった……。



 今からでもさっきの事は忘れるように言って――――




 直前、私はアリスちゃんが口籠っているのを確認し、開きかけた口を閉じた。





「ユ…………ユリア、お姉……様っ」


「お、おねっっ……!?」





 誰が……私が?私には姉妹なんていないし、そんなことも一切聞いてない。


 あ、誰かと言い間違えたんだ、そうに違いない。


 にしてもあどけない女の子に、上目遣いで姉として呼ばれるのもなかなかに悪くない……。




「えーと……アリスちゃん、誰かと間違えてないかしら……?」



 アリスちゃんは首を横に振り、震える手を抑え込むように胸に手を当てる。



「……前にお会いした時のユリア様は……頂戴した本に登場した主人公の姉のように優しく……温かかったです…………。それで、私は……ユリア様が姉だったなら……どれだけ素晴らしいだろう、と…………」



 ケイにドレス姿を拝む機会をくれたお礼のつもりで渡した小説、読んでくれたんだ……。


 あとからかわいい物好きと知って、用意するもの間違えたと後悔していたんだけど、気に入ってくれたみたいでよかった。




「……なので、ユリア様さえよろしければ……私をユリア様の……妹にしてくださいません、か……?」




 なんだろうこの気持ち……。


 かわいいものを見た時とは違う、何かしてあげたくなるような、護らなきゃという使命感みたいなものがこみ上げてくる…………。



 気づいたら私は、アリスちゃんを抱いていた。


 ふわふわとしてて抱き心地がよく、癒しという名の水が器から溢れ出てくるような………。



 これ…………いい…………



 毎晩寝る時に抱いたまま、深い眠りに就きたい…………




「うん、いいわ……私はアリスちゃんが喜ぶなら、姉でも母にでもなるわ……」


「っ……!ありがとう、ございます……お姉様……っ!」


「こうしてお二人は末永く幸せに暮らしたのでした、めでたしめでたし!じゃあ次は私たちの番だね、お姉ちゃん♡結婚式どこでする?ウェディングドレスはお揃いのがいいな~。あっ、お母さんたちに報告しないと!」


「なぁっ!?ちょ、待ちなさぁぁぁいっっ!!!!」

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