私たちの部屋
春が訪れ、この時期は一年で門を出入りする人が最も多くなるだろう。
私もその一人で、中等部から高等部に上がるのだ。
中には家のお手伝いで、中等部で故郷に戻る友だちもいた。
もっと一緒に過ごしたかったと悲しい気持ちになる……。
でも、ケイが友だちでなくなるわけじゃないと言ってくれた。
私もこれを機に新しい自分を見つけてやる!
と、意気込んでいると、何かが遠くから叫びつつ、土煙を立てながら爆速で向かってくる。
普通ならここで逃げ出すのだろうけど、私はその声に覚えがあった。
ケイも特に移動する様子がなく、一緒に辿り着くのを待った。
「おぉーーーー姉ぇーーぇーーちゃーーぁーーん!!!!!!」
ケイの胸に飛び込むと、すりすりと顔を左右に振り始めた。
「待ってたよエミル!と言っても、私たちは中等部を離れてしまうけどね」
「そんなの、実家からの距離を考えたら問題じゃないもん!あぁ^~お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん~♡」
行き交う生徒たちが微笑ましそうに見てくる。
公でも通常通りのエミルちゃんには改めて感心してしまう。
「あー!その子が前から言ってたエミルちゃん?かわいいねー!ほら、お姉ちゃんは怖くないよ~、おいで~」
リルは幼い子でも扱うように手を叩いて誘う。
いくら小さく見えるからって、これから中等部に入るんだし、流石に甘く見すぎだと思うけど……。
「怪しさしかないじゃないですか。私は、お姉ちゃんから離れる気など全くありませんから」
抱く着く腕の力を強めて主張され、リルは顔を下に向けた。
よろよろと私に近寄り、慰めてほしいと涙を含んでお願いしてきた。
「もぅ、エミルちゃんを子ども扱いしたのがいけないのよ?反省しなさい」
「ユリアちゃんまで慰めてくれないよ~!でもこれはこれでありかも♪」
この時、ケイから物凄い視線を感じられたけど、面倒に感じたのでそのままスルーした。
☆
高等部は中等部のすぐ横にあるためわかり易い、というのは地理的な話。
一度敷地に入るとそこは小国も同然。
山を削って建てられた校舎や遺跡……挙げ出したら切りがない。
言えることは中等部よりも確実に広大ということ。
色々落ち着いたら早速探検に行こう。
「ところで……どうしてエミルちゃんが一緒に来ているのかしら……?」
「あ、お構いなくー」
笑顔なのに構うなという威圧がすごい……。
でもここは高等部だし、エミルちゃんは今日来たばかりで荷物の整理とか残っているはず。
それに何より、私の横で周りに見せつけるように腕を組んでいるのが気に食わない。
ケイも少しは自重するように言いなさいよ!
不満を抱えつつ歩いていると、噴水の近くでちょこんと座っていたイヴちゃんが手を振って私たち呼びつけた。
カトレアさんの私物が届くからと、ここで待つように言われたらしい。
イヴはペットじゃないぞ!と、ご機嫌斜めな様子。
イヴちゃんも振り回されて大変そうだ。
「ん?ケイの横にいるのは誰だ?ははーん、さてはユリアだけじゃ飽き足らず、他にも手を出したんだな?これだからモテる女はよー!」
私がその口を止めようとした時にはもう遅かった。
妹様は変わらず笑顔だったが、禍々しく燃える炎のような何かが確かにこの目には見えた。
「イヴさんと言いましたか?私をその辺の有象無象と一緒にしないでくださいます?私とお姉ちゃんは、姉妹という切っても切れない血縁関係にあり、姉妹愛のさらに深い、それはもう深ぁ~~い愛で結ばれた、言わば愛の共同体なんです!わかりましたかっ!!」
「イヴちゃん?あとでお茶会でも開きましょうか。その『他』について時間の許す限りゆっくりと聞かせてもらおうかしら~……」
エミルちゃんと追いつめると、イヴちゃんは狼狽して逃げていった。
まったく、油断するとすぐ適当な事を言うんだから。
「そういえば、私たちの部屋の場所確認していなかったね」
「配布された紙があったわね……」
手元のバッグから高等部への移動の資料を確認すると、私たち二人の名前がなかった。
ケイにも探してもらうと、すぐに私の名前を見つけたけど、同じ部屋番号にケイの名前がなかった。
少し遅れて、エミルちゃんがケイの名前を見つけた。
でも名前があったのは、階数も異なった部屋番号だった。




