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王女の私は婚約相手になったハイスペックな女の子の騎士に悩まされています!  作者: すきゆり
過去の楔(この章はだいぶシリアスです)
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光ある未来

 月明かりと共に雪がしんしんと降る中、ケイはドリーと対峙していた。



「こんな小細工をして、今度は何を企んでいる……」

「上からだ、ようやく奴らが動いたんだとよ」

「だったら何だ。早くここから出ていけばいいだろう」

「冷てぇな、せっかくだから温かくなる事言ってほしいもんだぜ」



 大仰に手を広げ言うドリーに呆れたケイは、来た道を戻りかけた。



「まだ話は終わってねぇぞ。お前にはもう一人と連携して、ここを防衛する指令だ。出てこい」



 ドリーに呼ばれて出てきたのは、ケイが何よりも大切な一人の少女、ユリアの姿だった。

 ケイは思わず名前を零しそうになったが、言い切る前に止めた。




「……………お前は誰だ。返答次第では……」




 ケイは剣に手を伸ばす。すると、少女は顔のマスクをゆっくりと取り、その顔を露わにした。

 ケイはその顔を見た瞬間、息をのんだ。




「ビリー!君も工作員になっていたのか!?」



 ビリーと呼ばれた少女は肩をすくめて微笑んだ。



「俺は明日、ここを出る。ビリーは予め流しておいたデマ情報通りに馬車に乗って、明朝にこっから出ていく。王女の囮としてあいつらをここから遠ざけて、そこで俺が落とす。本物の王女はこの事を何一つとして知らねーし、てめぇの大嫌いな俺も消えてハッピーエンド、だろぉ?」


「ビリー、君は本当にこれでよかったのか?君はもっといい環境があったはず……」



 ビリーは首を横に振り、またも微笑んだ。



「私はこれでいいんだよ。こうしなきゃいけなかったの。ケイ、もう一度会えて嬉しかったよ。もしまた会えたら、昔みたいに一緒にイチゴジャムのクッキー食べたいな……」



 ビリーはケイの手を握り、声を震わせた。

 ケイは強く握り返し、しばらくビリーの目を見つめた。

 そして、何も言わずに寮へと戻っていった。





「……ねえ、ドリー。本当にこれでよかったの……?ケイには本当の事を……」

「うるせぇぞビリー。あいつは昔からめでたい奴なんだ。俺らとは住む世界がちげー奴に知られたところで、虚しいだけだ」





      ☆





 翌日、言っていた通りにドリーは姿を見せることなく、急用という形で学園を去った。

 無論、ケイは忌まわしい存在が消えたことに、しばらく高めていた緊張を解いた。


 またいつもの平穏な生活が戻って来る。

 これでまた好きなだけユリアといちゃつくことができる、そう思うと心が弾み、自然と口角が上がる……………ことはなかった。



 当然、嬉しいことは嬉しい。しかし、ビリーに対しては罪悪感に似た何かが残っていた。

 ビリーは騎士になる人間にしては控えめで、優しい女の子だった。それが、何故か工作員に所属し、よりにもよって囮にされることが許せなかった。


 せめてビリーだけは平和に暮らしてほしい、その思いが強まった時、ケイは椅子から立っていた。

 ユリアには自分が早退したことを伝えるように頼み、教室を出た。

 馬に(またが)り門を抜けると、すぐさまトップスピードを出した。






 20分ほど走らせると、遠くに馬車とその周りに黒い物体がいくつも見えた。

 距離が近くなるにつれ、現場の状況が段々と見え始めたところでケイは速度を落としていった。



 馬車の周りにあった物体は、ローブに身を包んだ人間が倒れている様子だった。ドリーは体中がボロボロになり、剣と膝で辛うじて体を支えていた。

 ユリアの姿に扮したビリーは、その横で顔を押さえていた。


 非情だが今までの行いの報いだと心で諭し、さらに近づこうとした。




 その時、倒れていた一人がビリーに弓矢を構えていた。

 即座に気づいたケイは、馬を走らせようとした。



 だが、それは余りにも一瞬の出来事だった。



 ドリーがビリーを突き飛ばし、諸に弓矢を受けた。

 ドリーは頭から倒れ、ビリーが叫ぶ。

 弓矢使いはその後からは一切動かなくなった。




 二人に近寄ると、ドリーは遠目でわからなかった深く痛々しい傷がいくつもあった。

 ビリーの無傷で泣き叫ぶ姿と、ドリーの見たことがない安らかな表情でケイは察した。



 ケイに気づいたビリーは、ケイにすがり、顔を見上げた。




「ケイ聞いて!卒業試験の事件、あれは私をいじめていた子たちをドリーが私の為に庇ってくれたからなんだよ!」




 ビリーが何を言っているのか理解が出来なかった。

 いじめ?庇った?

 何の話をしているのか問おうとしたが、正直者のビリーの事を考えると口が開かなかった。




「私、昔から弱虫だったから、一部の子たちにいじめられてたんだ。でも、ある時からドリーが庇ってくれると、いじめが激しくなって……。それで、怒ったドリーが卒業試験でその子たちのチームに一人で向かっていったんだ…………。全部私のせいなんだ、だから、ドリーの事許してあげて!ドリーは悪くない、全部私が悪かったんだよっ!!」




 初めて知った事ばかりで、ケイは頭の整理が追いつかなかった。

 しかし、ビリーの言う事だからと信じ、ドリーの顔を覗いた。




「ドリー、お前が正義の心を残していたことはよくわかった。でも、当時の事とユリアに危害を与えたのは別だ。お前はもう助からない。この事実をもっと早く知っていれば、私たちの関係も大きく変わっていたかもしれないのに、残念だよ」



 俯き話すケイにドリーはかすれた声で手を伸ばした。



「なぁ、ケイ……。お前はめでたい奴なんだよ……俺たちとは住む世界も、見る世界も違ぇ……。だけどよぉ、せめてこいつ(ドリー)だけは……、お前らの世界を見せてやってくれよぉ。俺の最初で最後の頼みだ……」



 声をからし、喉だけで懇願するドリーを、ケイは何も言わずただただ耳に残した。。



「あぁ、そのためにここに来たんだ。だからお前はもう休むんだ……………ただこれだけは言わせてくれ。…………ビリーを助けてくれて、ありがとう……」





 その言葉を聞いたドリーは僅かに歯を見せ、その後再び動くことはなかった。



 ビリーは涙が枯れた後も泣き続け、遅れて到着した王国の騎士たちによって保護された。






     ☆





~数か月後~



 ケイは週末になると、何でもない道の脇に隠れるように立った石版を訪れるようになった。

 この日もまた訪れると、一人先客がいた。




「やっぱり、そういう格好が一番似合うよ」



 ケイの声に振り向いた少女は、嬉しそうに笑顔で駆け寄った。



「えへへ、ありがとう。聞いて!私ね、王都にある花屋さんで雇ってもらうことになったんだぁ~」

「よかったじゃないか!ビリーも頑張ったんだね」

「うん。だからそれを報告しようと思って……」

「……ふふっ、近くの町まで送るよ」




 ビリーを乗せようとした時、この時期にはまだ暖かい風が二人を包んだ。

 二人は顔を見合わせて笑い、その場を後にした…………

かなり重い章でしたが、見ていただきありがとうございました。


次回からは打って変わり、ユリアたちの甘々な高等部篇に入ります!

お楽しみに!

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