休める場所
「ごめんユリア、私……」
「やってしまったものは仕方ないわよ。その間、クロエさんとイヴちゃんが一緒にいていいと言ってくれたんだし」
ケイは校内で騒動を起こした罰として、一週間放課後に指定された場所の掃除を課せられた。
その間にまた例の子が襲ってくるかもわからないからと、カトレアさんが鼻息を荒くして提案してくれた。
最初はその提案に安心感は持てなかったけど……。
クロエさんにあの子の素性が判明したと言われ、クロエさんとリルの部屋に集まった。
初日に一目見た瞬間に疑念が生じ、即座に母国の情報班に調べさせたという。
流石はクロエさん……。
「今の名前は偽名で、本名はドリー・ホーン。幼い頃に父親が借金の請負人になってから生活が一変。母親は離婚届を残して夜逃げ、父親は酒と賭博に溺れたそうよ。ある時に実家から消息を絶ち、辿り着いたのがケイさんの養成学校ね。素行が荒く、周囲に人も寄せ付けず、正に一匹オオカミと言ったところかしら。あとはケイさんが話した通りよ」
あの子、ドリーさんも相当辛い過去を背負っていたんだ……。
毎日あれだけ笑顔が明るかったのに、あれは全部演技だったというの……?
「だからと言って、ユリアさんに手を掛けていい理由など断じてありませんわ!」
カトレアさんは腰に手を当ててその場に立った。
「カトレアさんの言う通りだよ!ユリアちゃん怖くない?今日は一緒に寝よ?」
え?
「何ですって!?でしたらわたくしもご一緒しますわ!」
「あはは……二人ともありがとう、でもケイがいないわけじゃないから、大丈夫よ」
そうだ、私にはケイがいる。ケイは私を護ると言ったんだから、あまり心配することはない。
……でも、見たことのない位に怒りに満ちたケイは、怖くてしばらく声が出なかった。
☆
騒動の一件以来、ケイの殺気はより強くなった。朝起きた時から、授業中も、食事の時間も、寝る時でさえも眉間にしわを寄せて剣の鞘に手を添えている。
もしかしたら私が眠っているときにも……?
いくら何でもそれはないだろう…………………ないと信じたい。
「ケイ、まだ寝ないの?」
「うん、ちょっと寝付けなくて……。しばらくしたら眠気が来るだろうから、ユリアは先に休んで…………ユリア、どうしたの?」
嘘だ。ケイはとっくに眠気があるのに、わざと起きているんだ。
証拠に、ケイが寝ている姿を私は見ていない。
どうしてもケイが寝ている姿を確認するまでは、私だって落ち着かない。
だから、ケイが眠気に逆らえないようにするまで……!
「ユリア、これは……!?」
私はケイのベッドの中に入り、頭を抱きかかえた。
お母様が私にしてくれたように、これならきっと落ち着くはずだから。
「ケイはいつも私のために頑張ってるから、寝る時くらいはゆっくり休んで……。もしケイが倒れたりしたら、誰が私を護ってくれるの……?」
「……ふふっ、ユリアには敵わないな…………しばらくこのままでいてくれないかな?」
「ううん、今日はこのままいてあげる。頑張り屋のケイに、私からのご褒美……」
「こんなことなら…………ううん、何でもない……」
ケイは腰に手を回すと間もなく小さな寝息を立て始め、回した手の力が弱まった。




