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王女の私は婚約相手になったハイスペックな女の子の騎士に悩まされています!  作者: すきゆり
王女、夏休みなのに振り回される
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見えない場所で動くもの

「え…………?」


「前々から言おうと思ってたんだ。初めこそクロエさんや突出した生徒たちに劣らないレベルまで引き上げようと考えてた。けど成績で言えば首席同然、剣術や体術は中等部で必要とされる範囲は1年時にはクリアしてる。それでもユリアは母様に訓練を頼んだり、私と同じ鍛錬に挑戦してたよね」



 だってそれは、私を護るケイの負担を少しでも減らすためで。

 せめて自分の身くらいは守れるようにと思って……



「でも、これ以上は危険なんだ。ユリアの体には負担が大きすぎる。実際、大怪我しかけたじゃないか……。ほんの僅かでも、護りの全て任せたい気持ちがあるのなら、迷わずに言ってほしい…………それとも、今の私はまだ不安……?」




 手を握り瞳を潤ませる。

 こういう時のケイは、か弱い少女になる。


 自分で言うのも何だが、私は体が弱い。それが原因で、現状まで仕上げる間に自分の限界を感じさせられる瞬間が何度もあった。


 だから限界を確かめる意味でも、レイラさんにお願いしたりケイの鍛錬方法を試した。


 結果的に、限界点はここに来る前に気づかされてしまった。もっと技術を教わるつもりだったのに……。



 でも、ケイのためを思って勝手に始めたことが、むしろ余計な心配と迷惑をかけている。


 出会った時から言ってくれていたように、身を護ることに関しては全部任せておけば良かったんだ。

 命をかけて護るとまで言ってくれて、そのお願いがケイの心配をなくし、重荷を減らすことに繋がるのなら頑なに拒む理由はなかったのに。




「ありがとう、ケイ。そこまで私の事を考えてくれて、物凄く嬉しいわ…………なら、私からもひとつ、お願いしてもいいかしら……」





 でも………





「何があっても、私を護って…………」



「うん、約束する……っ!」




 私がケイにしてあげられることって、他に何が残ってるの……?



      ・

      ・

      ・




 出発前にお婆様に一言挨拶しようと小屋に寄ってみた。


 しかしそこにお婆様の姿は無く、代わりに中央の大きな丸テーブルの上に私宛ての置手紙があった。


 突然帰ってきたと思ったらまたどこかに消えて、それは長い時で一年以上にもなるらしい。

 ケイたちはもう慣れていて驚きもしないという。


 本当に煩雑と言うか、自由奔放な人だ……。





 荷物を馬車に運びまれている間、ふとソフィーさんが視界に入った。

 その表情はどこか物寂し気にケイを見つめていた。



 荷物が全て運び込まれケイが戻って来ると、ソフィーさんが前に出た。



「ケイ……これからもっと忙しくなって、頑張らないといけない場面が沢山出てくると思う。けどこれだけは約束して、取返しが付かないような事だけはしないで。昔から無茶ばかりして、傷だらけになってたじゃない?こんなこと言おうか迷ってたんだけど、あなたは私たちの大事な娘なんだから。私、それだけが心配よ……」



 若干声を震わせながらケイを包みこむ。



「お母さん……心配かけてごめんなさい。でも私、護りたい大切なものが沢山あるから、お母さんが心配しているような無茶だけはしないって約束するよ……」



 ケイもソフィーさんの後ろに手を回した。

 そして今度はエミルちゃんが横側から近づいていった。


 いつの間にか赤く腫れた目で見上げるエミルちゃんに顔の向きを移し、頭に手を乗せる。



「エミル、私は学園に行くこと自体は賛成しているんだよ?でも、まだ小さくて私の跡をいつも追いかけてたエミルが私の中に残ってて、どうしても心配なんだ……」


「お姉ちゃん…………」


「正直言ってしまうと、家族のエミルが近くにいてくれるとすごく嬉しい。まだ決まったわけじゃないけど、学園でエミルが来てくれるのを楽しみにしているよ」



 ケイの励ましを受けて、毎度のように大喜びする。

 そう思ってエミルちゃんを見ると…………




「…………っ……お姉ぢゃぁんっ……!」




 すすり泣きながら大粒の涙を流していた。


 ケイの胸に顔を埋め、震えた大きな声を出す。

 泣いている姿ではあるけど、私には心の底から嬉しそうに見えた。




 家族思いで数多くのできる事があって、誰でも隔てない優しさを配る。

 そんなケイが、やっぱり大好きだ。



 だからこそ、私にしかできないことを見つけて、ケイの喜ぶ顔がもっと見たい。

 帰ったら何か新しく挑戦してみようかな……





      ☆





 王室御用達の馬車が見えなくなるまで見送り、二人は家に戻っていく。しかし、緑のアーケード手前で足を止めていたレイラに、ふと気づいたソフィーが戻らないのかと声をかける。


 声に反応し、一時虚空に置いていた意識を即座に現実に引き戻したレイラは、ついでに街の中心部に出てくるように伝えた。



 ソフィーが家に入るのを確認すると、レイラは街の中心部とは反対側へと足を進めた。


 一つ目の角を曲がって間もない場所に、一頭の黒い馬と、赤髪で王国の紋章が入った軽装をした女性立っていた。


 レイラは様子を変えることなく女性に近づく。



「やっぱり隊長のご息女だったんですね」

「隊長ではないと何度も言っているだろう。娘とは遭遇していたのだな」

「随分と前の話です。あの時、一目見た瞬間にわかりました。あの真っ直ぐな目と嘘がつけないような言葉選び、隊長にそっくりでしたのでっ」



 女性は嬉しそうにほくそ笑みながら話す。

 レイラもしばらく同調した後、話題を切り替える。



「前の件はどうなっている」

「はい、正直芳しくありません。私たち以外の部隊にも協力を要請してはいるんですが、こちらの計画よりも進行が早く、接触するのも時間の問題かと……」



 レイラは眉間にしわを寄せ、深刻そうに話す。



「そうか……状況は理解した。お前たちは引き続き、事に当たってくれ。引退したというのに、いつも悪いな」

「いえ、こうして隊長に会えるのは、任務時の刺激になりますので!」

「お前も相変わらずだな…………では頼んだぞ、イリス……」

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