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私にできた初めての人(2)

 中央の門からだと人目につくため、西にある抜け道から出ることとなった。出口は城の西側に広がる森の中だった。

 初めて自分の足で、四方を騎士たちに守られることなく出る城外……。

 昔から見えてはいたが、実際に出てみるとかなり大規模な森だ。奥の方は薄暗くなっていて不気味。この抜け道も、こんな森の中だと探すにしても一苦労だろう。


 少し感動しつつ周囲を見ていると、騎士に先を急ぐように促された。

 道と呼べるようなものはなかった。落ち葉や雑草、枯れ木が地面に落ちており、水辺には苔が生え滑りやすくなっていた。

 何度も騎士に支えられながらひたすら歩く。こんなに歩いたのは恐らく初めてだろう。


 しばらく進み、開けた場所で小休憩をとった。


「…………」


 騎士は大きな岩の上に立ち、周辺を見まわしている。

 この騎士、流石はお父様専属といったところだろうか。立ち居振る舞いもさることながら、冷静沈着で少しの段差もすぐにサポートする気配りの良さと危機察知能力の高さ。

 しかもこれが女性騎士というからまた驚きだ。どこか雰囲気が剣闘の時のケイにも似ている気がする……。


 私、どうして今ケイを照らし合わせた……?


 歩き始めて小一時間。ようやく街の一画が見えた。

 ここからは一般人に見つからないように帽子を深く被り、顔にも自然なメイクを施す。


 私たちはケイを探すために自分たちの立場を設定した。

 私はケイの妹役で姉のケイとはぐれてしまい、そんな私を騎士が見つけた。そして町の人に聞きながらケイを探すというものだ。

 私は泣くフリをしながら騎士の手を握り、町の人に聞き込みを行った。

 

 それにしても町は平和そのもののように感じられる。とても何か不満がありそうな人間がいるようには見えない。これもお父様の統治あってのものだろう。誇らしく思う。

 普段は煩雑な性格で、時々お母様にも怒られてるけど……。




 聞き込みを開始してから正午になろうとした頃、狭い路地を抜けた小さな広場で持参した弁当で昼食をとることにした。

 中には小分けにされたサンドイッチが入っていた。


 サンドイッチなんていつぶりだろう……。

 昔はピクニックの時に毎度頼んで喜んでたっけ。でも今はとても喜んで食べられる気分じゃない。一刻も早くケイに……。


 とその時、騎士が食べるのを止めた。同時に周りの時間が止まったように静かになり……。


「私が合図したら、奥の道に全速力で走ってください…」


 そう言うと騎士は自分の剣に手を添えて、誰もいない路地を睨んだ。

 すると奇妙な仮面をつけた複数の大人がどこからともなく現れた。


 向こうは短剣、弓矢、斧など様々な武器を持っている。まさか本当に襲ってくる人たちがいるなんて。お父様の言う通りだった。


 空気が張りつめていて息が詰まりそうになる。

 少し足を動かせば向こうも合わせて足を動かす。

 仮面をつけているせいで表情が分からないが、殺気だけがひしひしと感じられる。そしてじわりじわりと距離を詰めてくる。


 弓矢使いが矢にそっと手を伸ばそうとしたとき、騎士が鞘を人差し指で二回小突いた。


 私はとっさにそれが合図だと察し、反対の路地の奥へと全力で走った。


 同時に、相手側も追ってこようとしたようだが女騎士が道を塞ぎ剣を抜いた。





 ―――――――どうしよう、どうしよう、どうしようっ!!どこに逃げればいいの!?


 道も今どこにいるかも分からない。

 ひたすら目の前にある道を走るだけ。女騎士は無事なのか。もうあの人たちは追ってきていないか。

 怖い、苦しい、辛い……!

 もともと体力に自信がなかったため、走って数分もしないうちに足が震え、走れなくなってしまった。


 私はただケイに会いたいだけなのに……。

 もう一度会って、今までの事ちゃんと謝りたいだけなのに……!

 どうしてこんなことに!!



「っ……!!」



 壁を伝いながら歩いていると、後ろから人の気配を感じた。立ち止まり、突き当りにあった木箱の後ろに隠れ、息を最小限にまで殺した。


 全力で走った後で呼吸が荒い。でもここで見つかったらそれどころじゃ…。

 足音が消え、確認のためそっと目を開ける。




 ふと見上げると、そこには短剣を持った仮面の人間が今にもそれを振り下ろそうとしていた。



 その瞬間、見るもの全てがゆっくりと動いているように見えた。


 耳からは強風が吹いた時のような鈍い音が聞こえ、体は石になったかのように全く動かない。そして今までの記憶が脳内で一気に駆け巡った。


 そうか、これが走馬灯というやつなんだ……。


 あぁ、私の人生ってなんだったんだろう……。


 生まれてからほぼ城内で暮らし、本の中にあったともだちや恋人というものを作ったり、海や草原といった自然を直接見ることなく。

 人には冷たく接し、我がままも言いたい放題。そしてそれを悔いて、一人の女の子に謝ろうとした結果がこれか…。



 ほんっっっっっとうに……嫌な人生だったわ……





 …………ん。痛く、ない……?

 恐る恐る目を開けると、地面に仮面の人間が倒れていた。

 一体なにが起き、て………



「大丈夫ですか、王女様?」



 そこにはよく見知った、優しい表情をした黒髪でポニーテールの女の子がいた。頭の中が真っ白になっていて、女の子の名前が思い出せない。


 何が起きたのかわからなかったが、助かったという事実だけは理解できた。すると自然と涙が溢れ出し、私は無意識に女の子にしがみついていた。


「怖かったね……苦しかったね……。もう大丈夫。後は私にまかせて。王女様は少しお休みになっててください……」


 女の子は甘い声で囁き、もろく崩れやすいものに触れるように優しく頭を撫でた。直後、私は強烈な睡魔に襲われ視界が真っ暗になった――――




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