北の国の白き妖精、アリス王女
「紹介しますね。この子は私たちの娘のアリス・レイナードです。ほら、会いたがっていたユリアさんとケイさんよ。挨拶しなさい」
「っ……………」
私たちを見るとすぐに女王様の後ろに隠れてしまった。
「ごめんなさい、この子かなりの人見知りで………予定では一緒にお迎えするはずだったんですけど、突然わがままをこじらせてしまって………」
「………………」
女王様の後ろから顔を覗かせ、私たちをじっと見つめる。その蒼く光沢のある大きな目を見ていると、吸い込まれてしまいそうだ。
身長はエミルちゃんと同じくらいだろうか。女王様の服を小さな手でぎゅっと掴み放しそうにない。
人見知りと言うからにはこちらが親しみやすいように対応が必要だろう。そのためには、この最初の出方次第で今後の付き合い方も決まると言っても過言ではない。
これ以上警戒させないように慎重に歩み寄らなければ…………
「初めましてアリス王女。私はユリア・グレース・ルイスです。よろしくお願いします」
「………………よろしく…………お願い、します」
アリス王女は前に出した私の手をゆっくりと握った。
「ぬいぐるみ、好きなんですか?」
「っ…………すき…………」
部屋には動物や何かのキャラクターを模したぬいぐるみがたくさんあり、大きなベッドの上にも柔らかそうなクッションやぬいぐるみが置かれていた。
部屋全体が空想的なふわふわとした温かみのある空間になっている。このメルヘンチックな空間が、アリス王女のかわいらしさをより引き立てている。
かわいらしいと言えば、カトレアさんのメイドの子もとてもかわいかった。最近は小さくてかわいい子によく遭遇する。癒しが増えていいことだ。
「もしかして、かわいいものが好きだったりするんですか?」
「……っ…………かわいい」
そう言ってケイのドレスをじっと見つめた。
なるほど。だからケイにドレスを着るように要望を出したと。やっぱりなかなかいいセンスをしている。
「今回はうちのケイにもドレスで来るようにお願いしてくれてありがとうございます。お陰でもう一度ケイのドレス姿を見る事ができました。本人も着る機会がなかったので喜んでいます」
「待ってユリア!私は喜んでなんか―――――」
言い訳をしようと声が大きくなったケイに驚いて、アリス王女は顔まで女王様の後ろに隠してしまった。
「いきなり大きな声を出したらだめじゃない、ケイ」
「うっ……申し訳ありません、アリス王女…………」
アリス王女は静かに顔を出して小さく頷いた。
「ユリアさん、ケイさん。今日はもう暗くなりますし、せっかくですから泊まっていってください。それに、まだ話したいこともたくさんありますし」
そうだった。ハリスベン公国は他国と比べて日照時間が短いのを忘れていた。
暗い道のりの中を帰るのは気が滅入るし、何よりせっかくのお誘いを断るわけにもいかない。
「それではお言葉に甘えさせていただきます。お二人のお気遣い、王族を代表して心より感謝いたします」
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自分たちの荷物をこちらのメイドに預けると、夕食までの間お話しようとの提案を受けた。
案内された食堂は私たちのとは異なり、床やテーブルがシックな木製でできておりほんのりと木の香りもする。
国境の町の宿と同じような造り、ということはハリスベン公国では間取りに木材を扱うことが主流なのだろう。
確かに温もりが感じられて落ち着く。帰ったらお父様に増設するように頼んでみよう。
「今日は公務で来たというのに、こちらはお恥ずかしい所ばかり見せてしまって本当にごめんなさいね。お詫びと言っては何だけど二人が望むことがあれば出来る限り協力するわ」
女王様はお酒を自分でグラスに注ぎながら軽い調子で話す。
「あ、そうそう。これからはプライベートの時くらいは気軽にリンツと呼んでいいから」
「私も、遠慮なくダリアって呼んでくれると嬉しいかな」
今日対面したばかりというのにここまで距離感の近い大人の人、それも女王様とパートナーの人に会うのは初めてだ。
このお二人の親しみやすさには調子を狂わせられる……。
「ちなみにね、私たちはユリアさんがまだ2歳の時に一度会ったことがあるのよ?あの時の小さくて可愛らしい女の子がこんなにも立派になって……しかも将来の結婚相手と一緒に来るなんて、時の流れは残酷ね…………」
あぁ……一気に暗い顔になった…………
返事しにくいことを言うのやめてほしいんですけど!
「あははー……リンのことは気にしないでいいから……そういえば二人は両陛下から何か聞いてたりする?」
「いえ、特にこれといって言伝は聞いておりませんが、何か大事なことでも?」
「そうか…………うん、わかった。ごめんね変なこと聞いてっ…………」
え、今のいかにも何かあり気な感じを含んだの何……!
すっっっごく気になるんですけど!?
「そうだ!二人のなり染め話でも聞いちゃおっかな~~」
ダリアさんはニヤつきながら私たちを交互に見た。
「長くなりますがいいですか?」
「言わなくていいからぁっ!!」
その後、ケイとダリアさんと、なり染めという言葉に強く反応を示したリンツさんの3人に辱めを受けてしまった…………
☆
来賓者用の部屋に通され、お二人が出ていくとすぐにベッドに向かって走った。
「はぁ~~~~~~疲れたぁ~~~」
「だらしがないよ、ユリア。と言いたいところだけど、私も色んな意味で疲れたよ……」
慣れないドレスを脱ごうとしているけど、やっぱり手こずっている。しばらく奮闘する様でも観察させてもらうとしようか。
「それにしても意外だったわね~。まさかアリス王女があんなに人見知りする子だったなんて。ケイにドレス着てくるように言うくらいだから、てっきり賑やかな人かと思い込んでいたわ」
「そうだね……あと、私はもう二度とドレスは着たくないっ……なっ…………はぁ……」
ドレスを早く脱ぎたい気持ちとは裏腹に、慎重に扱おうとするケイの姿は実に健気だ。
私を性の悪い女と思ってもらっても構わない。でも普段やられっぱなしの私は、こういう所で憂さ晴らしをしなくてはいけないのだ。
……………まあでも、そろそろ手伝ってやろう。
「も~、ケイは不器用なんだからっ」
「こういうのは煌びやかな衣装はエミルが好きだろうね」
確かにエミルちゃんなら目に入れるや否や、飛んでくるだろう。
色んな意味で…………




