貴方様をお慕い申しております
大陸より南の国の首都サースマーレ。ここの中央に象徴のごとく大きくそびえ立つお城に、私は仕えております。
ですが現在、私にはあまりにも光栄なお役目を頂いております。
なんと王女様であらせられるカトレア様の専属メイドとして仕えることになったのです。
カトレア様は身分などお気になさらない寛大な御心の持ち主で、私たちメイドにもお優しく接して下さいます。
そしてその様なカトレア様を、私は密かにお慕いしております。
近日、カトレア様が行かれている学び舎の園にお迎えに上がった際に、カトレア様はご学友の方ととても仲良くされているようでした。
学び舎では勉学と同等に、そこで出会う方たちとの人間関係の育みも大事だとお聞きしていたので、仲良くされているお姿を見た時はとても安心しました。
ですが、私はそのお姿を見た時に、同時に心がもやもやした気持ちになりました……。
そしてあろうことか、触れ合って楽しまれているところに、割って入り馬車に乗るように催促してしまったのです。
私は何と不遜で失礼この上ないことをしてしまったのでしょう。悔いても悔止み切れません。
お城に戻ればすぐにでも楽しんでいられた時間のお邪魔をした報いが下ると覚悟していたのですが、カトレア様は変わらない優しさで接してくださいます。
まさかお気になさっていないのでしょうか…。いえ、そのような甘い考えなど許されません。
このような考えさえ出てしまうということは、カトレア様への尊敬と忠誠心が軽薄になっているに違いありません。
先ずは何ともカトレア様に心からの謝罪と敬意を示しませんと!
「あの……カトレア様っ!」
「……?どうかしまして、ミリー」
「えっと、そのぉ……」
「うふふ、そんなに硬くなる必要なくてよ。一度深呼吸をなさい、落ち着きますわよ」
「は、はいっ!すぅーっ……はぁーっ…………落ち着きました。ありがとうございます、カトレア様」
「それで、わたくしに何か言いたいことがあったのでしょう?」
カトレア様は背の低い私の為に、腰を落として目線を私に合わせてくれます。何とお優しい方なのでしょう。より一層、前の犯してしまった行為が悔やまれます。
「はい。先日、カトレア様をお迎えに上がった際に、ご学友と親しく楽しまれているところに私が馬車に乗るようお邪魔してしまったことを謝罪したくて…………本当に、申し訳ございませんでした!私はどのような処分も受ける覚悟をしております。ですので、どうか私目の軽率な行動をお許し下さい……!」
「…………うふふ、何を言うかと思えば…………ほら顔を上げなさい。わたくしがそのような事で不快を表にする女とでも思っていたのですか?」
「滅相もございません!カトレア様は私たちメイドにも寛大で、そのお気遣いに毎日救われております!」
「でしたら、謝る必要など何一つなくてよ。あなたはわたくしの専属メイドなのですから、むしろ無礼など気にせず言っていただいた方が心強いですわ。さあ、涙を拭きなさい。次のお役目が待っていますわ」
カトレア様はそう言って、ハンカチで拭ってくださいました。メイドの不遜な態度にも揺れず、凛々しく煌びやかに歩まれるそのお姿は、まさしく王女に相応しい限りです。
私は今日、この身を一生カトレア様に捧げよう、そう誓いました―――――




