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王女の私は婚約相手になったハイスペックな女の子の騎士に悩まされています!  作者: すきゆり
王女、夏休みなのに振り回される
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濃厚な熱いスープ

 二人の名目上の公務期間も終わり、次に会えるのは夏休み明けとなる。

 まだまだ見てもらいたいものがたくさんあったが、これ以上は一緒にいる時間を延ばすことはできない。

 また学園で会えるのを楽しみにしよう………



 そしてまた、私も次のお役目のための準備をする―――






「ユリア様。身支度がお済みになりましたらお声をお掛け下さい……」



 メイドは頭を下げて静かに部屋を出た……。


 私はこれから城を出て遠方に出発する。そのために正装を着なくてはならず、その後もう一度使用人を呼んで今度は顔のメイク、髪の手入れ、肌のケアなどまあまあやることがいっぱいあるわけで、公務の面倒事の一つだ。


 でも、次の公務の日まではまだ数日あり、本来なら城でゆっくりしていても問題はない。

 それでも、私には出発日を前倒ししてまでやらなければならないことがある。




 それは…………




「仕立て直して正解だったね、ユリア。よく似合っているよ。今からデートが楽しみだね」

「あんまりジロジロ見ないでよ。恥ずかしいじゃない……」

「いつもとは少し違う雰囲気のユリアを見ないほうが無理な話だよ。特に私には、ね?」



 もぉ、ケイはまたおかしなことを言うんだから。気に入っていた正装が入らなくなったから、ついでに装飾を変えただけなのに。



 大げさに喜ぶケイに呆れと気恥ずかしさを感じながら、残りの荷物を鞄に入れる。


 そう、私はケイに罰と言う名のデートを課せられていた。自分の失態が招いた結果故に拒否権はない。でもそれで失態が許されるのだから、特に悩むことでもないだろう。


 私としても久しぶりにケイとデートできるのは、別に嬉しくないわけでもないことだし……



 デートをするのになぜ正装なのかというと、一応王女が他国に入ることは公務に限らず礼儀として相応の身なりが求められる。

 そのため、入国する際は正装、その後は軽い服装に変えるという二度手間が発生する。これも王女の性というものだ。



 今回私たちが向かうのは北の国。寒冷な気候帯に属していて、通年低い気温が続くと聞いている。

 公務で他国に訪問するのは今回が初めてで、未知の場所ということもあり少し緊張している。




 にしても、寒さ対策に厚手の衣服を鞄に入れたくても上手く収まらない……。



「ケイ~、どう工夫をしてみても、衣装が鞄からはみ出してしまうわ……」

「……?そういう時こそメイドさんを呼ぶべきじゃないかな?」



 その瞬間、私に衝撃が走った。

 

 自分のことは自分でしなければならない環境である学園に慣れてしまっていたために、メイドの使い方まで忘れていた。


 あろうことか、メイドなどいないケイに王女である私がその使い方を教わるなんて。


 これは何でも出来てしまうケイと私の立場が逆転してしまう国家的緊急事態に相違ない……!



 そう、私は王女なのよ。自覚を持ちなさいユリア・グレース・ルイス!



「私は王女私は王女私は王女私は王女……………」


「ユリア、どうしたの?次はメイクだよ」



 それから城を出発するまでに3時間を要した。




    ☆




「はぁ……もう疲れたわ。帰りたい……」

「何を言ってるの、ユリア。さっき出発したばかりでしょ。眠いなら私を枕にしていいから」



 ケイはひざをぽんぽんと叩いて笑顔で誘う。そんなことをしても簡単に来ると思っていたら大間違え。



 …………と、普段の私なら抵抗していただろうけど、今日は朝からリルたちとお別れの挨拶をしたり、出発の準備をしたりで既に疲労感が溜まっている。


 そこにケイの膝枕の誘惑。ケイの膝枕は日頃体験していて、その気持ちよさを体が覚えている。

 それらの結果、私はどうなるか…………



「はい、いらっしゃい。ふふっ、ユリアは甘えたがりだね」

「うるさいわよ。仕方なくよ、仕方なく」

「ふーん……じゃあどうして私に抱き着いてるのかな?」



 わ、私としたことが、クッションを抱く感覚でケイに手を回していた……っ!



「いいんだよ、好きなだけ甘えて……ユリアはいい子いい子……」

「子ども扱いしないでよ!もぅっ!」



 ケイに弄ばれながら数時間が経ち、途中にある宿場町で一泊することにした。


 ここは私たちの国の北端にある町で、北の国との交流が最も盛んということであちらの料理や物品、文化が所々に見られる。


 今回泊まる宿屋の人によると、私たちの国と北の国の色んなものが混在してて、ここで長く暮らしている人の中には、どれがどっちの国のものだったか忘れてしまう人も結構いるという。これも交流が盛んな証拠なのだろう。


 今まで聞いたことのない話が出てきてとても面白い。もっと見てみたい、もっと知りたい!

 北の国、どうなるのかと緊張していたけど、話を聞いたお陰で楽しみになってきた……!



 ここでふと前に同じような感覚を感じたのを思い出した。


 そうだ、私が初めての旅行で王都を出た時にも感じたこの感覚。当時馬車の中で、私の何気ない一言に手を握って真剣な目でケイが言ってくれたあの言葉……。


 私はケイがどうしてデートを国内じゃなくて、他国でしようと思ったのか謎だった。

 もしかしてケイはあの時の事を果たそうとしてくれている……?


 もしこれが本当だとしたら、ケイ、私は貴女を…………




「ふふっ、何かいい事でもあったの?」

「ううん…………何でもないっ♪」



 私はケイの手を取って上の階に上がった。



 私たちの部屋は階段を上がった一番奥。壁や床、家具に至るまで全て木製で木の芳しい匂いが何とも心地いい。


 でもここで問題が、なんと部屋にベッドが一つだけしかなかった。宿の人に聞くと、ここで最高級なのがこの部屋なのだという。


 ベッドについては結婚を控えたカップルのため問題ないと考えていたようで、私が問いただしたせいか酷く頭を下げられた。


 いくら王女と言っても、好意で決めてくれたことにわざわざ変えてくれとは言いにくい。まして今にも泣いてしまいそうな相手にこれ以上何を言うことがあるだろうか。



 とはいえ、ケイと一緒のベッド……

 何だか妙に緊張する………


 思えばケイと一緒の部屋で寝ることはあっても、同じベッドで寝ることは何気に始めてでは……!?


 まずいまずいまずい!!すごくどきどきしてきた……!

 落ち着けー、落ち着けー…………



 まずケイとはもう幾年の関係で将来的に結婚する……


 今まで手を繋いだりキスだってしてきた。


 今となっては両想いになってお互いに求めてさえいる…………ん?


 そ、それでっ、舞踏会の時に言っていた()がそういう事だとしたらっ……!!




 ってぇ!何を考えてるのよ私はぁああああああ!!?!!?!?!!?




「ユリア?」


「ひゃっ!ひゃいっ!!」


「夕食まで時間あるみたいだし、温泉行ってみようか」



 ちょっと……温泉ってことは、ケイの……ぁああああ~~~~~!!!



「ああああの、ケイは一人でゆっくり入ってきて!!私はちょっと疲れが残ってるみたいだからシャワーだけ済ませるから……!」

「疲れてるなら尚更温泉に入ったほうが疲れが取れるよ?ここはまだ国内だけど夜は気温が下がるみたいだし、体を温めておくべきだと思うけど」



 うぅっ……正論……



「……………分かったわよ。行くわよぉ………」




    ☆




 温泉を堪能したのはよかったが、入る前より疲れが増した気がした……。


 夕食には北の国の料理が出された。寒冷地では体内消費が激しいらしく、それに合わせて料理も肉料理が多かった。


 どれも美味しかったのは確か。ただ、全て食べるきる前にお腹の限界が先に来てしまった。現地の料理はちゃんと残さず食べられるか不安だ……。



「温泉で疲れはとれたし、美味しい料理でお腹も満たしたし、今日は少し早いけどこのまま寝ようか、ユリア……」


「ねね、寝るっ!?」


「うん、明日も早いし、ユリアも疲れてるでしょ?」


「そ、そうね!ちゃんと休まないとだめよね!あはは……」


「……………」




 ケイは至って変わらない、いつものケイだ。やっぱり本気というのはただ単に好きかどうかという事で、別にそういう事も含めた本気ではなかったんだ。


 旅行に行った時みたいに抱きしめてくれたりするかと思ったけど、あの時拒絶反応見せてしまったから、ケイは今も気を使って手を出さないようにしてくれているんだ。でも、今の私はあの時とは違う。



 ケイにもっと触れてほしい。もっと強く私を求めてほしい。もっとケイの想いを感じたい。

 頼んでみたらきっと応じてくれる。でも情けないけど私にそんな度胸はない。こうして向こうから来てくれるのを期待して、眺めるだけ。


 すぐ隣に、少し手を伸ばせば触れられるのに、伸ばすどころか背中を向けて自分の手を握っている。




 ……………何勝手に盛り上がってるんだろう。こんなこと考えてても虚しいだけ。

 早く寝るように言われていたし、夢と一緒に流してしまおう…………





 眠りにつこうとした時、温もりが私を包んだ。





「嫌だったらすぐに離れる。でも我がままを言うとこのままでいたい…………」



「ううん、嫌じゃない………嬉しい。私もこのまま、いや、もっと…………」



 体を反対側に向けると、ケイの顔がそこにあった。薄暗くてよく見えない目に吸い込まれるように顔を近づけていると、いつの間にか唇が触れていた。


 離そうという考えは一切思いつかず、むしろずっと触れていたい、少しも離したくない、そう思った。


 ケイは優しく唇の感触を確かめるように押し付けてくる。私もそれに応えようとした時、舌が触れ一度引いた。でもケイは追いかけるように舌に触れ続け、不規則に絡める。


 呼吸が荒くなり、心臓の音が耳に届くと、今度は手の指を絡ませてもう片方の手を心臓の場所を探るように動かす。


 体が熱くなり、乱れていく服に意識を配る余裕はなかった。それよりもケイの体と直接触れる箇所が増え、ケイの鼓動さえも感じられるようになった。


 私と同じくらいに激しく高鳴っている鼓動に嬉しさを感じつつ、流れ込んでくるそれを咳き込まない様に顔をずらしながら奥へと運んだ。




 その後どのくらい続いたのだろう。

 目が覚めた時はカーテンの隙間から光が差し込み、顔を上げるとケイの顔があった。




「おはよ、ユリア……よく眠れたかな?」



「おはよ、ケイ…………」



 その時の服はしわくちゃで、体はべたついていた。

 でも、不思議と気持ちよさの方が感じられた。

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