二つの国の王女たち
私たちは城に到着後、すぐにお父様とお母様にノーブレット王女姉妹を紹介した。
突然王女姉妹が訪問して二人とも驚いていたけど、快く歓迎した。
挨拶を済ませると私の部屋へと案内した。
「わー!ユリアちゃんの部屋かわいいー!」
「リル!ベッドから降りなさい!」
「ふふっ、いいんですよ。クロエさんもどうぞくつろいでください」
とは言ってみたものの、どうも落ち着かない様子で部屋をきょろきょろと見回すクロエさん。対称的にリルはいつの間にかベッドで気持ちよさそうに寝ていた。きっと疲れていたんだろう。
双子の姉妹なのにこうも性格の違いが出ると、改めて面白おかしく思ってしまう。
ケイはリルにタオルケットをかけて、そのままベッド横に座った。
「……………ユリアさんは本当に本が好きなのね。私の部屋の倍以上はあるわ……」
「はい、昔から私が唯一落ち着くことが出来たのが読書をしている時間だけだったので……」
「でも今となってはその唯一の時間も変わったというわけね…………」
そう言ってクロエさんはケイを見ながらクスッと笑った。
「そそそんなことっ!!………っ…………はい……」
「ふふっ、ユリアさんは面白い人ね。ケイさんが弄びたくなる気持ちもわかるわね」
「もぉー、クロエさん!」
クロエさんに弄ばれていると、ケイが私の肩に手をおき抱き寄せた。
「クロエさん、気持ちは十二分にわかりますが、私のユリアをあまりいじめてあげないでください」
わかるな!!
「あら、ごめんなさい。面白くてついからかってしまったわ………」
クロエさんはあらあらと微笑ましい目で私とケイを見る。ケイは怒っているわけではなさそうだが、何だか不服そうな顔をしていた。
「ユリアも大きな声を出すと、リルさんが起きてしまうじゃないか」
「うっ、ごめんなさい………」
自分のせいじゃないけど、リルを起こしそうな声を出してしまったのは事実。少し納得のいかない気持ちを残しつつ謝ると、私の頭を撫でてにこっと笑った。
「お茶菓子を用意してくるけど、ユリアはいつものでいいよね。クロエさんは何か欲しいものはありますか?」
「お気遣い感謝するわ。そうね……コーヒーをお願いしてもいいかしら……」
☆
ケーキスタンドにはイチゴやリンゴ、ブルーベリーなど果物がふんだんに扱われたケーキが並べられていた。
昼食でお腹が満たされていたけど、お菓子は別腹というやつよね!果物のさっぱりとしたいい匂いが食欲をそそるわぁ……。
「ユリア、口空けて。あーん……」
「こ、これくらい一人で食べられるわよっ!」
「ふふ、仲がいいのは問題ないけれど、ケーキをこれ以上甘くしないでちょうだいね」
色々と話していると流れでリルの話題になった。ここで初めて知ったのがリルが元々病弱体質だったということ。
私も体が弱いほうだけど、リルは幼い時から風邪をひくことはよくあることで、悪い時は高熱を何日も出して意識が薄れることもあったとか。
現在は処方されている薬を飲みながら健康的に過ごせているようだけど、またいつ発症し始めるのかは不明だそうだ。
リルが実技で剣術や体術を免除されているのはそういうことが理由らしい。
ずっと傍で共に過ごしてきたクロエさんは、これともう一つの事が理由で幼少期から強さを追い求めたという。自分を、リルを守るために…………
「あーっ!!みんな何食べてるの!?私だけ仲間はずれなんて酷いよ~!」
「ふふっ、リルのもちゃんとあるから安心して」
「わーい!おいしそー!」
確かに、もし私が同じ立場だったなら、この笑顔を守るために自分を犠牲にすることも躊躇わなかったと思う。
そしてリルは、常に自分を守ってくれるクロエさんのことが、姉妹としても、恋の相手としても大好きなんだ。
いつも守られるという点で言えば、私とリルは似ているかもしれない。だから私は、リルのことを全力で応援したい。
☆
夕食は他国の王女がいることを考慮してか、この国の伝統料理や地方の郷土料理が中心にテーブルに並べられた。
料理の何点かは私でも初めて見るものもあった。この国の王女としてその手の知識も求められるため、私にとってもいい機会になった。
食事中、リルはとても楽しそうに食べていた。クロエさんが横で品がない注意していたが、そんなの忘れたくなるほどに私たちも楽しく食事することができた。
たぶん今までこんなに騒がしく明るい食事の時間はなかっただろう。ここにイヴちゃんや他のみんなも連れてきたらきっと収拾がつかなくなりそうだ。
でも、私はそっちのほうが楽しく食事ができそうに思える。
いつかみんなも呼べたらいいな……
この日は私の部屋に四人で過ごした。
時計の針が頂点で重なるまでゲームで遊んだり、語り合って、とても有意義な時間を過ごせた。
今度はカトレアさんたちも誘ってみよう……
~翌日~
「元気出して、また学園でも会えるじゃない」
「でもまだお城の中見てないところいっぱいあるし、街だって行けてないんだよ!せっかく来たのに…………」
「はぁ………本当に我がままなんだから……」
クロエさんは呆れたように言葉を残し、一人だけ馬車に向かって歩いて行った。
「姉ちゃん…………」
そんな、せっかく気持ちよくお別れできると思っていたのに、最後に気まずい空気のまま終わってしまうの……?
私は何とかできないかと思い、ケイと目を合わせた。
するとほんのしばらくして、クロエさんがこちらに戻ってきた。
「クロエさん、あのっ――――」
「悪いのだけど、もう少しだけお世話になってもいいかしら…………?」
「え、それじゃあっ…………!!」
「姉ちゃんありがとーっ!!だいすきー!あははっ!!」
リルは何とも嬉しそうな笑顔でクロエさんの胸に飛び込んだ。クロエさんは離れるように言いつつも、まんざらでもなさそうに微笑んだ。
公務について聞いてみると、内容の一部にこちらの国との交流があったことを思い出したクロエさんは、今回の訪問を公務に兼ねる事を考えたそうだ。
そして従者にそのことを自国に伝えるように伝令を下したという。私たちがこの説明を聞いた直後、従者が乗った馬車が城から出て行った。
「そうとわかれば、早速街に出ましょう!案内したいところがいっぱいあるの!」
「うん!!レッツゴー!!」
「あ!待ってユリア!おと…王様にまず伝えないと!」
うわーそうだった。めんどくさい…………
面倒に思いつつも二人の滞在期間が延びたことを説明すると、お父様もお母様も大いに喜んだ。
公務については内容が交流のため、「ユリアと思いっきり遊んでやってほしい!」と……。
お父様はまだ私を子どもか何かと勘違いしているんじゃないかしら!
街に出るのもケイとクロエさんがいるから大丈夫とお父様は言っていたが、心配性なお母様の頼みで目立たないように何人かの護衛の騎士を就けることで納得してもらった。
ノーブレット姉妹には私の変装用の服を着てもらった。
試着の時、二人はやたらと胸元を押さえそれぞれ反応をしていたが、私は見て見ぬふりをした。
これでばれないだろうと自信満々で城の外に出てみた。しかし、街に入ってすぐに子どもにばれてしまった。
子どもの警鐘のような大きな声が大人たちも引きつけ、一時人だかりができたが、愛想笑いで流しつつ何とか脱出できた。
それからは四人でウィンドウショッピングをしたり、西の国にはない物品を扱うお店を回ったりしてケイとのデ―……買い物とは違う楽しみが感じられた。
楽しい時間が過ぎるのはいつも早い……気付いた時には夕刻になり、門限が近づいていた。
でも私はどうしても二人を連れて行きたかった場所がある。
そこは私とケイにとって忘れられない思い出の場所……
「おーっ!すっごくきれー!!」
「本当ね……壮観だわ…………」
街全体が見渡せるそこは涼しい風が吹き抜け、大木がちょうどいい背もたれになる。
「あ!あの花、私たちの国で見たことない花だ!」
「ケイ!リルをお願い!」
坂になっている場所に走っていったリルをケイに追いかけてもらった。
「全く、落ち着きがないんだから……」
「ふふっ、そこがリルのいいところですよ」
「…………ユリアさん、私たちがここに来てよかったのかしら。あなた達二人にとって特別な場所なのでしょう?」
「…………なぜだかわからないんですけど、クロエさんとリルにはここからの景色を見てほしくて
…………」
「…………そういうことなら、これ以上は無粋ね…………」
クロエさんはそれ以上私に詮索をかけようとはせず、日が暮れるまで丘からの眺めを目に焼き付けていた。




