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私たちの夏休み!

「いけない!借りてた本図書館に返さないと!」



 ユリアは本が大好きで、暇を見つけてはすぐに読み始めてしまう。学園に来てから借りた本の数は本人も把握できていない。


 図書館の関係者たちは、生徒で借りていった本の数はユリアが一番多いだろうと口をそろえる。

 ユリアに好かれる本たちには嫉妬しちゃうな………



 そして、長期休みの直前になると、幾つもの借りていた本の返却を思い出して慌ただしく図書館に駆け込む。この光景はすっかり学園の風物詩となってしまった。

 当然、そういう少し抜けたところも、私は大好きだ。



「そんなに持つと危ないよ?図書館はまだ開いているわけだし、もう少し分けて運んだほうが…………」

「だって………図書館まで遠いし…………面倒じゃないっ…………だから………きゃぁっ!!」



 積まれた本のバランスが崩れ、立て直そうとしたユリアはよろめき倒れかけた。

 私はすかさずユリアを本と一緒に支えた。



「無茶はしないって約束忘れたの?私がいるんだから、遠慮しないで頼ってもいいんだよ?私はユリアの役にたてることが嬉しいんだから……」

「ケイっ………うん、ありがとう………!」



 図書館までは校舎を通り抜け第二校庭横の通路を通らなければならず、寮からとなるとかなり距離がある。

 これを今の暑い時期に何冊もの分厚い本を持ち歩くのは、もはや何かの修行に等しい。


 それを最愛の人が行おうとしているのを、ただ見守るなんて罪深いこと誰ができるだろう。実際に私が持ってみても、それらはまるで重石を想起させた。



 こんな重労働、出会ったばかりのユリアなら真っ先に私に運ぶように命令して、自分は部屋で優雅にハーブティーを飲みながら読書をしていただろう。

 それが今や私に手伝ってもらうどころか、気を使って一人でこなそうとしている。


 他から見れば立派に成長していると思われるかもしれない。けど、私からすれば頼ってほしいときに頼られないのは、自分では力不足なのかとへこんでしまう。

 例えそれが思いやりだと分かっていても。



 ユリアは感情表現を表に出すことが苦手だったり、不器用さが目立ってしまうだけなんだ。きっと人や環境次第で素直さが出てくるはず。


 だから私は、ユリアが自分から思っていることを伝えられるようになるのをただ待つだけ。急かしてしまったら頭の中が混乱して、逆効果になる可能性があるから。


 時間はこれからもたくさんある。


 焦らず、ゆっくり心の氷を溶かしていこう…………





       ☆





「あとはこの2冊だけだね」

「あ、待ってケイ。あとは一人でも持っていけるわ」

「でも………」

「いいからいいから!それより荷物整理しててちょうだい。そっちのほうがケイにしか出来ないことが多いわ」



 確かに帰りの荷物は多いし、ユリアには重いものがたくさんある。時間もかかりそうだし、ここは言う事に従っておくほうがいいかな。



「ねぇ、ケイ………?」



 ユリアは本を抱えたまま扉の前で立ち止まり、私に問いかけた。

 私も手作業を止めてユリアの方向に視線を移した。



「ケイはその…………私の事が好き、なのよねっ…………?」


「もちろん好きだけど…………?」


「そっか…………そうよね…………っ♪」



 ユリアは照れくさそうに笑みを置いて、部屋を出て行った。

 その唐突な出来事に私は数秒固まった。


 ふと我に返ると、再度ユリアが私の想いを確認した時の嬉しそうな表情を思い出し、顔が熱くなった。

 そしてふらつきながらユリアのベッドに倒れた。




 あのかわいすぎる反応は一体なんだ?ユリアは私を悶々とさせて一体何が目的なんだろうか?分からない最近のユリアが何を考えているのかわからない。わかるのは私を好いてくれていること、それと今の実力をもっと上げたいということ、それだけ。もしかして誘ってる?誘ってるのか?今のユリアなら私が襲っても抵抗されないのでは?いやいやいや、もし私の勘違いでそういうつもりじゃなかったとしたらアウトだ。そもそも最近のユリアの超かわいい態度はなんだ?誰かが裏で手引きしているのか?仮にそうだとしてその首謀者の狙いはなんだ?とにかく私の弱体化が狙いだとしたら私のことを熟知していてあまりにも強敵すぎる。あぁ、ユリア好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き♡♡♡♡♡♡♡♡




 しばしの間、私は枕を抱きかかえながら、ユリアのベッドの上で激しく悶えた。





 ――――――――――――――――





 忙しい帰りの準備から一夜明け、学園の中央広場では各地域行きの馬車が多く停まっていた。私たちの迎えの馬車もあと少しで到着する予定だ。



 あそこにいるのは、カトレアさんとイヴちゃんと…………メイド服の女の子………?



 あ…………



 カトレアさんがこっちに気づいて走ってきた。



「ユリアさん~!また長らくお会い出来なくなると思うと……ひっく……………か"な"し"い"で"す"わ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

「夏休みが終わればまた会えますから……」



 大粒の涙を流しながら私の手を強く握り縦に振る。寂しく思ってくれるのは嬉しいけど、いちいち大袈裟なのよね、カトレアさん…………



 と、カトレアさんに後ろに先程のメイド服の女の子が話しかけたそうに顔を覗かせていた。

 私はその子に声をかけてみると、スカートの端を摘まみ、丁寧に頭を下げられた。



「お初にお目にかかります、ユリア・グレース・ルイス王女。私はカトレア様の専用メイド、ミリー・アルツィヒと申します。常日頃、カトレア様と仲良くしていただき感謝この上ございません」

「まぁ!なんてかわいい子なの!ケイ、今の見た!??もう天使よ!天使がいるわー!」



 銀髪で目が大きく、小柄で一つ一つの動作が小さく動いて可愛らしい。

 思わず私が抱き着くと、慌てた様子で私の腕に手を添えた。抱くとわかる。柔らかくもふもふとしていてとても落ち着く………まさに癒しだ…………



「そ、そんな!私なんかが天使様なんて恐れ多いお言葉っ………!」

「ユリア、彼女が困ってるじゃないか。早く離れてあげたら?」



 ケイは少しムッとした表情で私に促した。



「カトレア様、早く城にお戻りになりませんと、公務が山のようにございますので」

「はぁ…仕方がないですわね。ではユリアさん!またお会いできるのを楽しみにしておりますわ~~~!!」



 イヴちゃんとは手を振って別れた。

 ほんっっと、カトレアさんはいつも元気なんだから……。



「ユ~リ~ア~ちゃぁーーーん!!」

「きゃあぁっ!!もー、リル!!」



 背後から急に抱き着き私を驚かせたリルに続いて、後からクロエさんもやってきた。



「リル、挨拶くらいしっかりとしなさい。ユリアさん、リルがごめんなさい……」

「いえ、そんな。私とリルの仲ですからこれくらい……」


 クロエさんは申し訳なさそうに頭を抱えて謝罪した。


「ふぇ~ん!嬉しいよーユリアちゃーん!!ところで二人もこれから帰るの??」

「うん、そろそろ迎えが来るはずよ」

「それならさ!一緒にユリアちゃんのお城に遊びに行ってもいいかな!私たちの公務まで一日空くし、いいよね姉ちゃん??」

「そんなのだめに決まっているじゃない。ユリアさんたちだってやるべきことがあるでしょうし、迷惑になるだけよ」

「え、でも…………」


 

 私の公務は一週間後だから一日くらい余暇に費やしても問題ないはず。確認のためケイに目配せをすると、にこりと笑顔を返した。



「ううん、ぜひ遊びに来て!私たちの国をいっぱい案内するわ!」

「やったー!!わー何しようかなー!楽しみー♪」



 リルは歓喜して踊り始めた。それを横目にクロエさんが手招きして、耳に口を近づけた。



「本当によかったの?突然訪問なんてして騒ぎにならないかしら……」

「大丈夫ですよ。せっかくですから、クロエさんも楽しんでいってください!」

「そこまで言われたのなら、お言葉に甘えるしかないわね……」



 クロエさんの了解も得たところで、私たちの馬車がちょうど到着した。

 クロエさんたちの従者には事を伝え、私たち四人は城へと出発した!

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