初めての告白
それからも私は、自分のケイに対する素直な気持ちを伝えようとその時が来るのを待ち続けた。
でも、ここで予想外なことが起こった。
いざその時が来ると、途端に口が私の意志に反して動かなくなるのだ。
今までケイと長い時間を共にしてきたのに、好きの一言が言えない。
言おうとすると、その時まで黙っていた心臓が激しく動き出し、私のそれを喉元で制止させる。
これは無意識によるものなのか、それとも本当は私が奥底で僅かでも躊躇っているのを察して止めてくれているのか。
どちらにせよ、今の私はちゃんとケイに思っていることを言いたい。
気持ちが強くなるほど焦りだけが独り歩きして私を置き去りにする。
これに襲われるたびに一人だけ先に部屋に戻って、枕に顔を押し付けて叫ぶ。
「ケイがすきぃいいい~~~~~!!!!!!!すきなのぉおおお~~~~~~!!!!!!」
一人で叫ぶのも奇妙な行動だし、客観的に自分を見た時に羞恥心で悶え苦しんでしまう。それでもケイに直接言う事に比べると幾分かマシに思えた。
せっかくリルと話して、これなら私にもできると思ったのに、現状がこの有り様。
私はケイにまともに言葉を送ることもできないというの………
考えに耽けているところにケイが戻ってきてしまった。
「ユリア、最近口数は少ないし、部屋には先に戻ってしまうし、どこか調子悪いの?」
ケイに心配かけさせてる………
「ううん、わっ私は大丈夫よ!ほら!」
私はベッドから起き上がって軽快に回って見せた。
それでもケイは心配そうな表情を変えない。
すると、ケイは私の傍に寄り、顔を近づけてきた。
「…………………」
え、もしかして………!?
だめだめ!!今のケイにそんなことをされたら、私…………っ!
強く目を閉じ立ち尽くした私に、ケイは前髪を上げて額を合わせた。
「……………風邪ではないようだけど、一応今日は早めに休んだほうがよさそうだね。食欲はあるかな?軽食持ってくるから、ユリアは休んでて」
そう言ってケイは部屋を出て行った。
またケイに余計な心配をかけさせてしまった……
でも、私に対する特別な優しさを改めて感じられて喜んでいる自分もいる………
「もぅ、そういうところよ、ケイ…………」
私は体重に身を任せてベッドに体を投げた。
☆
結局、昨晩は私が寝付くまでケイは隣にいてくれた。
悩みがあるのか聞かれたりしたけど、『ケイに好きって言いたいけど言えなくて悩んでいる』なんて話せるわけがない。
でもいつまでもケイを心配させるわけにもいかない……
今日は、今日こそは言ってみせるんだから!
と、意気込んでみたのはいいけど、どのタイミングで言えばいいのかが分からない。
だって、前に一度言った時は流れというか、落ち着いてたし……
休み時間?食事中……?は流石に違うか……。
部屋は完全な二人だけの空間だけど何か言える自身がない。
私が落ち着いてかつ一番自然な流れで口が開けそうな場所。
となると…………
「ふぅ~…………ふふ、今日は実技の授業があったし疲れたよね。鍛錬はこのくらいにしようか」
「うん……」
本当はまだ体力はあったけど、ケイの提案に乗った。日が傾いて林の奥にいるため、影になっている場所は夜も同然の暗さになっている。
もうすぐで一日が終わってしまう。でも、このまま終わらせるわけにはいかない!
今日は言うと決めた。だから………!
「ケイ、あの――――」
「ユリア。今ユリアが何かですごく悩んでいるのはわかってるんだ」
え………?
「でも私は無理に話してくれとは言わない。ユリアの気持ちが落ち着いた時に話してくれればいいから…………さ、汗流して食堂に行こう」
ケイは道具を手に持ち、校舎側へと歩き始めた。
笑顔で気を使ってくれて、今すぐにでも聞き出したいはずなのに、我慢させて…………。
そんな優しくて、私を変わらない愛で想ってくれるケイだから、私は……!
「っ……? ユリア…………?」
「見ないで……………」
私はケイの背中にしがみつき、ゆっくりと腰に手を回した。
今の私を見てほしくない。だってこんなにも顔が熱くなって、情けなくて、恥ずかしい私を見せたくないから。
「私、ケイが好き。大好き……………心配してくれてありがとう。いつも私のために、ありがとう……………」
「ユリア…………。お礼を言うのは私の方だよ。ユリアがいつも傍にいてくれるから、今の私でいられるんだよ………」
ケイは回した手に触れて、囁いた。
「ほら、お腹空いてるでしょ。私も後で追いつくから先に行ってて」
ケイは私からすっと離れて校舎とは反対側に走っていった。
・
・
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思わずユリアから離れてしまった。
あれ以上一緒にいると、危険だと判断した。
まさかここ最近悩み事をしていたのは、あれを言うか迷っていたから………?
だとしたらそれは、私にはあまりにも効きすぎる。
ただでさえ学園に戻って来てからユリアを見ていると、悪い私が制御できなさそうだというのに。
こんなにもユリアを傷つけたくないと、毎日自分を抑えているのに……。
この胸の苦しみは、いま全力で走っているせいじゃない。ユリアのせいだ。
ユリアが奥底から羞恥心を押さえつけて、絞り出したか弱い声。
私の腰に回す手に力はなく、でも他の誰でもない私に伝えているという強い想いがあった。
周りの草木の香りをかき消すユリアの甘い匂い。
それらだけでも私の呼吸は乱れていたのに、加えて好きの言葉は完全に不意打ちだった……。
好き。
好き…………
すきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすき
すきすき すきすき
すき すきすき すき
すき すき すき
すき すき
すき すき
すき すき
すき すき
すきすき
すき
ユリア、愛してる……………………
「はぁっはぁっはぁっはぁ、はぁー………っ……………それは反則だよ………ユリア……………」
もう、これ以上我慢できそうにない……………




