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惚れて、惚れられ、舞踏会!

「さぁーやってまいりましたぁ!皆さんお待ちかね、真の淑女を目指す少女たちが早咲きでありながら美しい舞いを披露する舞踏会っ!!司会進行はワタクシ、フラン・バーレンが勤めさせていただきます!それでは早速Aブロックから始めていきましょう!」




 淑女とは………?


 そんな疑問を抱かせるような、舞踏会のイメージとはかけ離れた司会の言葉から舞踏会は始まった。


 この舞踏会はA~Ⅾまで1ブロック5組で分かれている。

 リルたちはAブロック、私たちはCブロックだ。

 最終的に各ブロックで選ばれた5組が決勝に進む。

 舞踏会って勝敗も何もないのだけど…………まぁこれはこれで楽しそうだからありとしよう。

 最後は参加者でなくても自由に参加できる時間があるらしい。

 せっかくだしここでケイと踊れたら……


 などと考えていると早速リルたちの名前が呼ばれた。



「行ってくるね!ユリアちゃん!」

「うん、頑張って!」



 気持ちを切り替えよう。

 リルはこの時のために頑張ってきたんだから応援しないと!


 クロエさんはピンクのドレス、リルは黄色のドレスだ。

 他の生徒も華やか且つ可愛らしいドレスを身に着けているが、2人の異彩は多くの注目を集める。


 音楽が流れ始めると、二人は華麗なステップを踏む。周りの生徒はただ美しく舞踏する姿に見えているようだ。

 けど、私にはわかる。あの二人がやっているのはかなりの技量がいる。現にリルはクロエさんのステップに追いつくのに精一杯のようだ。


 とはいえ、少し前に練習を始めたのにここまで仕上げてくるのはやっぱりすごい。

 二人の圧巻の舞踏は、審査員の高評価も添えられてAブロックを制した。



「ユリアちゃーん!やったよー!できたよー!」

「おめでとうリル!」


 リルは手を上に挙げて喜び、私の所へ走ってきた。


「おめでとうございます、お二人とも!わたくしも見惚れてしまいましたわぁ」

「どうもありがとう。さすがに疲れたわ……リル、私は奥で休んでいるから」


 クロエさんは手で顔を仰ぎ、重い足取りのまま私たちの横を通り過ぎていった。


「さぁ、次が終わればいよいよわたくしたちの出番ですわ、ユリアさん!わたくしたちもノーブレット姉妹にも引けを取らない情熱と愛の舞で会場を驚嘆させましょう!!」

「えぇ、練習の成果を見せましょう!」



 私たちも無事にCブロックを通過し、最後の舞踏を全力でやりきった。

 しかし、惜しくも最優秀ペアはリルたちが選ばれた。

 でも悔しさはなかった。リルがクロエさんと何かを成し遂げようとする努力を近くで見ていたから。



 そして今回の舞踏会の最後は自由参加のダンスタイム。

 生徒たちが仲のいい友だち同士だったり、想い人に誘ったりして次々にダンスホールに入っていく。


 私はカトレアさんに手を引かれて行きながらケイを探した。

 さっきまで確かにそこにいたのに……



 ねぇ、ケイ。私はあなたとペアになりたかったのよ?

 あなたが誘ってくれたら、私は何も言わず手を取ったのに。


 ケイが学園に戻ってから初めてのイベント。

 ただケイと楽しみたかった。それだけなのに………




 音楽が流れ、始まりかけたその時―――――





「失礼――――」





 カトレアさんと私の間に颯爽と割り込み、繋いでいた手を取って代わったのは、黒のタキシード姿のケイだった。



「もぅっ何ですの!!ムキ―ッ!」



 ケイは一度も私と練習をしていないのに、リズムの取り方も私の癖も全てカバーした。


 ………できるなら最初から私を誘いなさいよ、ばか……。



「ふふっ、怒ってる……?」

「怒ってなんかないわよ」

「じゃあどうしてそんなに顔を膨らませてるのかな?」

「言わないとわからないの……」

「私と踊りたかったから?」



 私はケイから顔を逸らした。



「ふふっ、その顔は正解だね。ごめん、初めからユリアが私とペアを組みたそうにしていたのはわかってたんだ……」

「ならどうして参加しなかったのよ!」



「だって……………」



 するとケイは急に頬を赤色に変えて、照れくさそうに……




「一年越しのユリアが、私の知っていたユリアよりももっと綺麗になっいて、惚れ直してしまったんだ。だからあんまり密着していると、悪い私がまたユリアを傷つけてしまうと思うと、どうしたらいいのか分からなくて…………」



 てことは何……ケイは私に惚れ直して、また旅行に行った時のような事態を防ぐためにわざと私を避けていたってこと……?



「ぷふっ………何それっ………」

「あっ、私が真剣に悩んでいるのに笑うなんて酷いじゃないか」

「だってケイが、惚れ直したって………ふふっ、そんなケイが私を襲うなんてことありえ――――っ!」




 ケイの心配していることを否定しようとしたとき、ケイは突然私と顔の距離を詰めてきた。

 私は驚いて顔を後ろに引くと勢いが余り、そのまま背中を反らした。

 それでもケイは私の背中を腕で支え、顔は唇が触れてしまいそうな位置にあった。




「私は本気だよ……ユリア……」




 真剣な眼差しを向けながら、添えていた指をゆっくりと絡ませていく。私の鼓動は一気に跳ね上がり、意識がケイの瞳の中に吸い込まれていった。


 こんなに呼吸が苦しくなるほど鼓動が激しくなったのはいつぶりだろう。体を起こされ再び踊り始めても、ケイを直視できない。


 顔が熱くて触れている手がくすぐったい。

 私、今どんな顔をしているのだろう……。きっと笑われてもおかしくない顔になっているに違いない。

 それをケイが目の前で見ている。

 こんな屈辱が他にあるだろうか……。



 もうしばらくは、この動悸は収まりそうにない……………

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