手をとって踊りましょう
「(じーーー…………) 」
私は今、休み時間にリルと廊下の角に隠れてとある人物を覗き見していた。その人は碧眼で金色の髪をした、通れば誰もが思わず振り返ってしまいそうな美少女だ。
可愛らしい見た目の一方で、腰まで届く長い髪を揺らしながら他を寄せ付けず歩く姿は上品そのもの。
陽気に照らされながら靡く髪が可愛らしさを通り越し、美麗にまで昇華する。
いつ見ても敵わない人だ……。
「姉ちゃん………かっこいい~~~!!!」
「しーーっ!声が大きいわ!私たちの目的を忘れたの!」
「はっ!そうだった……ありがと、ユリアちゃん……!」
「いい?自然によ、自然に言う事が重要なのっ」
「うん。私、ガンバル!ふぅー…………よしっ!」
リルは胸に手を当て気持ちを落ち着かせると、その人のもとへと駆けて行った。
「よ、よー姉ちゃんじゃないか!元気しとるかねー?」
どこが自然なのよ!不自然すぎて呆れ顔になってるじゃない!
「はぁ………リル、あなたは私の妹であり、もう一人の王女でもあるのよ。もう少し節度を持てといつも言っているでしょう。三年生にもなったのだから、いい加減一時でも落ち着きを覚えなさい」
「うぅ、ごめんなさい……」
あ~もう!説教まで受けてしまってるじゃない!これじゃ先に進まないわ!
私はリルに身振り手振りで目的の事を言い出すように促した。
「あ、あのね姉ちゃんっ。実は姉ちゃんに言いたいことがあって……!」
「悪いのだけど、後でもいいかしら?本を返しに行かなければならないの」
「そ、そっかー。それなら仕方ないね~……うん!またあとでね!」
リルは大きく手を振って見送った。
そして見えなくなると、こちらに涙を浮かべて走ってきた。
「うわ~ん!だめだったよ~、ユリアちゃん~!」
リルは何事も前向きで、その陽気さで一つの頼み事くらい容易に解決できると思っていた。でも現状のリルはこうして難攻している。
きっとリルの純粋さが足枷になっているんだ。
純粋だからこそ”好きな人”に伝えるとき、どういう態度で言えばいいのかが分からないんだ。
だったら、リルの性格を生かして伝えるには………!
「リル。次の作戦に移るわよ!」
☆
リルは放課後に人があまり通らない校舎の中庭に呼び出した。
「それで?さっきの話って何かしら……」
「えっと、ね…………そのー…………」
リルはもじもじしながら必死に言葉を探している。
何年も一緒にいた姉妹でも、意識してしまうと言い出しにくくなるのは姉妹のいない私でも分かる気がする。
私はリルの背中を見つめながら心の中で声援を送った。
「姉ちゃん…………私、ね……?」
「…………?」
あぁぁぁもうっ!!!見てるこっちがどきどきするっ!!!
この状況は恋愛小説で何度も見た告白も同然じゃない!!
さぁ、リル!言うのよ!!!
「…………っ!姉ちゃんっ!!!」
「何?」
「わ、私と、ここ……っ今度の舞踏会で踊ろうぜ~!!!」
しばらくの間無音状態が続き、風が吹くとクロエさんは腕を組んだ。
「…………はぁ……………………仕方ないわね」
「ほんと!!?やったぁーーー!!!」
はぁ~~……やっと言えたわね。
よく頑張ったわ、リル……!
私は子を見守る親の気持ちで拍手喝采を送った。
「でも、やるからには一番を目指すわよ、リル…………」
「え…………?」
そうだった、私たちは大事なことを忘れていた。
クロエさんは、大の負けず嫌いだった……………




