夏休みの楽しい時間
「懸念していたことがこうも早々に起きようとは………」
レイラさんは事態について最初から把握はしていたようだ。
「初めこそ何かの間違いだと思っていたのですが………収まるどころか彼女たちは熱を帯びるばかりでした。このような事態を知っていたにも関わらず、ユリア様を危険に晒した事に何とお詫びしたらよいか………」
悔いるように歯を食いしばり、頭を落とす。
「もう済んだことですし、それに私は怪我もしてない訳ですから頭を上げてください…………」
と、レイラさんには一応問題ないように私は振舞う。
しかし本音を言うと…………
あぁ~~もうっっ!!!!!!何なのよ一体!!!!
汗かくはずじゃなかったのに服まで汚れて最っっ悪!!
レイラさんも昨日の段階で止めてくれたらよかったのに!!
加えてメイジーさんには弄ばれるし早く帰りたい!!!
私は今まで社交の場で培った自制により、荒れた気持ちを必死に抑え込んだ。
「昨日、ユリアから距離を置いて歩くように言ったのはこのことがあったからなんですね」
「あぁ、しかしながら学び舎も異なるケイを慕うとは……この世はまだ私の計り知れないことばかりだな……」
慕うとは少し違うような気がする……
そこは気づくだろうというところで抜けた解答が出てくる辺り、この2人やっぱり親子なんだなと感じさせられる。
ケイもどうして私の事は意を介さずとも理解できるのに、他人の事となると途端に鈍感になるのかしら……
昼過ぎになっても学校に多くの生徒が残っていた。レイラさんに聞くと部活動というものをしているそうだ。私たちの学園でいうクラブに当たるのだろう。先程までいた校庭からは生徒たちの活気のある声が、校舎や他の建物からは音楽や芝居がかった台詞が聞かれた。色んな音が入り混じり、それぞれの音を聞き分けようと耳が勝手に反応する。外を回っている時にも感じたけど、私はこの学校に流れる独特の空気やゆっくりとした時間は好きなほうかもしれない。
私とケイはメイジーさんの案内で部活動を見て回った。
「先ほどはごめんなさい。王女様の反応が楽しくてつい調子に乗ってしまいました」
「わかります、わかりますよメイジーさん………」
ケイは深く頷きながらメイジーさんに共感した。
この2人は痛い目に合わせないとダメかしら…………
「さっきのは偶然にも熱狂的な生徒たちに見つかってしまっただけで、他の生徒は大人しい人ばかりなんですよ?」
そう言って案内された部活動の生徒たちは熱心に活動に勤しみ、私たちに気づいても驚いたり多少の反応は見られたものの、丁寧に挨拶をしてくれた。
「王女様とケイ様、とてもお似合いで素敵です!」「私お二人が幸せになれるように、これからも応援しています!」「これ、お二人をイメージして作りました……う、受け取ってください!」「ぜひまたいらしてください!」
なんて言葉をかけられたこともあり、羞恥心がくすぐられたけど、途中から優越感と満足感が増していった。お陰でこの学校の印象が少し変わった。機会があればまた来てもいいかもしれない…………
「色々あったけど部活動も体験できたし楽しかったね」
「うん……でもレイラさんが教師と言うから、私はてっきりケイの訓練校やそれ以上の育成学校と思っていたわ。それがまさか普通の学校だなんて……」
「私も気になって母様に聞いたんだけど、『私はお前たち家族と平穏な日常を送りたいと願い剣を置いた。例え王様の命令であったとしても、今の私は再び剣をとる考えはない』だって」
「レイラさん、いい人ね……」
「うん、私の自慢の親であり師匠だよ」
私たちは生徒たちに見守られながらレイラさんの学校を後にした。
☆
ケイの家に戻るとソフィーさんが作ってくれていた夕飯を頂き、10時前だがベッドに身を投げた。というのも明日の朝にとうとうここを離れてしまうためだ。城に着けば学園に戻る準備もしなければならず、忙しい一日となる。もっとソフィーさんたちと話したいことがあったのに、残酷にも楽しい時間は短く感じてしまう………
憂鬱に浸っているとケイが私の手を取った。
「また来年になったら来れるよ。だからそんな悲しい顔しないで?」
「うん、そうね………ありがとう」
出発の朝、ソフィーさんはしくしくと涙を零し、エミルちゃんは号泣しケイにしがみついていた。
「ユリアさん、またいつでも遊びに来てくださいね?今度はしっかり準備して待ってますから」
「うぇ~~~~~ん!!!!お姉ちゃんがまた遠くに行っちゃう~~!!もぅ~私もお姉ちゃんと一緒に行くぅ~~~~!!!」
「別れ際だというのに騒々しく申し訳ございません………」
「いえ、私との別れを惜しんでいただいていることにむしろ感謝しています。レイラさん、来年またよろしくお願いします」
「はい、常日頃ここからユリア様の奮励が良い方向へと進むことを祈っております………」
相変わらず硬い………でもこんなレイラさんだからこそナイツ・オブ・キングにまで上り詰め、その実力をもってケイを強く成長させ、私に巡り合わせてくれたんだ………
私、もっと頑張らないと…………!
「……………………あ、ユリア迎えが来たよ!」
「やぁだ~~!!お姉ちゃん行かないで~~!!どうしてこんなにお姉ちゃんの事を愛してるのにいつも私から離れていくの~~!!!」
「エミル……いつも私の勝手で寂しい思いさせてごめんね」
ケイはエミルちゃんを抱き寄せた。
「…………ぐすっ…………またすぐに会える………?」
「すぐには難しいけど、また帰ってくるよ。だから今はこれで我慢して………」
ケイはエミルちゃんの額にそっとキスをした。
「……え………………えぇ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!ふにゃ~♡♡♡♡」
エミルちゃんは溶けるように力が抜けていった。
「エミルの事は大丈夫よ。2人とも頑張ってね!」
「ありがとうございましたソフィーさん、レイラさん!」
「………………ケイ、わかっているな………」
「はい…………」
☆
「お父様っっ!」
「お?帰ってきたかー!イリアスは元気にしてたか?面白いやつだったろー!」
「も~どうしてご両親のこととか先に言ってくれなかったのよ!!」
「言ったら面白くないだろ?」
その後もお父様はヘラヘラと笑いながら私の話を軽く流した。
私の部屋ではケイが荷物整理をしていてくれた。私も手伝おうと思ったが、その前に愚痴を聞いてほしくなりベッドに飛び込んだ。
「聞いてケイ!お父様ったら私が怒っているのにへらへらと笑うのよ?酷いと思わない??」
「まあまあ、王様もきっと忙しくて疲れてるんだよ。私たちもこれからまた忙しくなるよ?早く準備終わらせてゆっくりしよ?」
「ん~~~もぅっ!!この私の休息を邪魔する荷物たちをさっさと片付けて、読書に浸ってやるんだから!!」
~夜~
「失礼します…………」
「明日も早いのに呼び出して悪いな。ユリアは?」
「本を読んでいる途中で眠りました」
「そうか…………なあケイ、一年って短いようで長いよな………」
「はい…………?」
「………………俺としても悩んだんだが、お前にはこれを頼みたい…………」
「……………………っ!?これって…………!!」
「無理にとは言わん。だが考えておいてほしい………」
「…………追ってまた連絡します…………」




