他校を見学します!
学校まではレイラさんと一緒に向かい、到着してからは私とケイ2人で校内を回った。
木造の校舎とその他幾つかの建物、広々とした校庭がありこれらは一般的な学校の設備らしい。
現在の学校は私たちと同じく夏休み期間らしいが、今日はちょうど登校日だったようで校舎から生徒や教員たちの声が聞かれる。
ここは来たこともないし見たことない設備も多くある。それでものんびりとした、学園とはまた違ったのどかな雰囲気が私を包む。
授業中にもかかわらず、教室の端で何も考えず外の景色を眺めたくなるような……
「ユリア、そろそろ生徒たちが下校する時間だから裏手に回ろう」
「もうそんな時間になってたのね」
私たちは生徒たちが下校する前に、人影が少ない裏手を通って職員室に来るようレイラさんに言われていた。
………と、早速向かおうとすると後ろから何か物が落ちるような音が聞こえた。
振り返ってみると………
「あ…あ、あああなたは…!!」
一人の女の子が口をおさえてこちらを見ていた…!
私は身を隠すようにケイの後ろに回った。
様子を伺おうと少し覗いてみると、女の子は私を目で追っていなかった。
見ているのは…………ケイ?
「あ、あの……もしかしてあなたがあのイリアス先生の愛嬢のケイ様でしょうか……!」
さ……様?
「レイラ・イリアスの娘ということでしたら私っ……!?」
瞬間、私は無理やりケイの口を塞いだ。
何か嫌な予感がした……
人を見るには不自然な恍惚とした表情、潤んだ瞳、何かを必死に抑えるように口を押える行動。
そして貴族でもない初見相手に、敬称で様なんて付けるのは明らかにおかしい………
そうこうしてるうちに校舎から続々と生徒たちが出てきた。
一人、また一人とこちらに気づくとこの女の子と似たような反応を示す。
そして、女の子と後ろにいた生徒たちは獲物を追いつめるようにじりじりと詰め寄ってくる……
私がケイの手をとり走ろうとすると、ケイは私を両手に抱え、裏手に向かって走った…!
「お待ちくださいケイ様~~♡」
生徒たちが群れとなって追いかけてくる!!
もはやケイしか見えていないようだ……!
にしてもどうしてここの生徒たちは一目でケイだと分かったのか。
一度でも会ったことがあるとか……?
「ケイ!どうしてここの生徒はケイのこと…………」
「静かに!舌噛むよ!!」
「は、はいっっ!!」
勢いに圧倒されて敬語で返事してしまった。
ケイは生徒たちをまこうとしているのか、後ろを伺いつつ辺りに視線を配る。
校舎の裏に回ったところで、一人の女子生徒がいた……!
ついに捕まってしまうと覚悟をしかけた。
しかし、その女子生徒はこちらに気づくと大きく手招きした。
「いいからこっち!!はやく!!」
私はケイと目配せをして頷き、ついていくように促した。
私たちが入口の扉を閉めた直後に生徒たちが追いついたようだ。
「ケイ様ー、どこー?」「あ~ん逃げられた~!」「くぅ~もう少しでケイ様を私の手中にできたのに~!」
扉の向こうで悔しがる声が聞こえるが………怖い………
「何をしてるんですか、早く着いてきてください。ここまで見つかったらいよいよ終わりです」
暗い通路を抜けて扉を開けると、校舎の廊下に出た。
そこからすぐ隣の部屋に入り、女子生徒はふぅ~と一息ついた。
「ここまで来れば生徒たちも入ってこれません。紹介が遅れましたが、私はこの学校の生徒会長をしているメイジー・ヴァレンタインと言います。うちの生徒たちがご迷惑をおかけして何とお詫びをしたらよいか……」
生徒会長さんは申し訳なさそうに顔を下に向けた。
「いえ、驚きはしましたが、助けてもらったので大丈夫です」
「王女様の寛大な心に救われます。私のことは気軽にメイジーとお呼びください」
「それではその…メイジーさん。さっきのは一体……」
「えーと…ですね~………」
メイジーさんが言うにはこうだ。
もともとレイラさんは生徒からの人気が高く、過去に多くの生徒たちが想いを伝えては断られることが続いたという。
しかしある時、レイラさんには既に相手がおり、さらに娘のケイもいたことが判明。
最初こそ生徒たちは純粋に、せめてケイの顔だけでも拝みたいものだと願ったそうだ。
しかし、どこから出た情報なのか、ケイはレイラさんに劣らない超絶美形の容姿の持ち主という噂だけが広がったそうだ。
そしてケイが私との婚約の話を聞いた生徒たちは、各々が妄想上のケイのためだけに遂には『ケイ様応援部』なるものを作りあげたらしい。
で、今日その憧れと希望のケイ様に巡り会えた、と……
いやいやいやいやいくらなんでもありえないじゃないこんなの!!
一度もケイ本人を見たこともないのにただの噂と妄想だけで部まで作るなんて!!
確かにレイラさんは美形だしかっこいいし容姿端麗を具現化したような人だけど……もし期待と違ったらどうしてたのよ!
それにこんな、いつも私を弄んでは笑って、女たらしで、鈍感で、私よりもできることが多くて、優しくて、すぐ助けてくれて、かわいいかと思ったらかっこよくて…………って!私は何をぉおおお!!!
「ユリア、顔赤いよ?疲れちゃった?」
ケイは私を覗くようにして見る……
「ひゃあっ、ケイ!!ななな何でもにゃっ、何でもないからっっ!!!」
いつもならすぐに私の考えていることがわかるのに、こういう時に限ってケイは私の気持ちを感じ取らない!!
こういうとこほんっっっとに腹が立つ!!!!
「ムカつくけどそういうところも大好き………」
「は、はぁああああ!?!?!?なななな何を言って!!!!!」
メイジーさんは私の耳元で囁くと私の反応を見てニヤリと表情を変えた。
「ふふっ、王女様は結構面白い方ですね。顔に出るからすぐにわかっちゃいます」
「も~!からかわないでくださいっ!!」
「先程もケイベルさんに抱えられている時の王女様は、どこか嬉しそうな表情をしていましたね」
「ほんとに、ユリア!」
「あぁあああああもぉおおおおおおお!!!!!!」
私は二度とこの学校に来ないと固く誓った…。




