レイラさんからの課題
「ユリア様に何かあってはお父様に面目がございません。どうかご再考を……」
「そうだよユリア、怪我でもしたら大変だよ!」
ケイは戸惑いの表情で私を見る。
「それでも構わないわ。ケイ、私は今のままは嫌なの。我がままを言っているのは分かってる。それでも私は成長したいの!」
強くなって、ケイに守られるばかりの私を卒業したいっ!!
「……………………承知致しました」
「母様っ!」
「ですが、序盤から私の指導では、今のユリア様のお体が許容範囲を超える可能性が高いです。まずは一年間ケイと基礎準備を整えてください。ケイには私が知りうる基礎を全て習得させてあります。そして一年後、改めてユリア様の実力を確認したところで、不足無しと判断した場合に私から直接指導することにしましょう」
私はレイラさんの提案に従うことにした。
指導内容は今までとは多少異なり、私がやってきた鍛錬はケイが私用に手を加え簡単にしたものだったらしい。ケイには感謝しなければ……。
易しめにしたということは、レイラさんの指導はそれほどに厳しいということ。
自分で言い出しておきながら不安になってきた……。
ケイはしっかりサポートすると言ってくれているが、それでは今までと変わらない……。
ここが頑張りどころよ、私…!
「ほらみんなー?お話の続きは朝食の後にしてくださ~い♪」
☆
「それじゃあまずは私がやってみせるから、ユリアはそこで見てて」
ケイは見ているように言うと、直径30センチはありそうな材木を剣で一刀両断した。
真っ二つに切られた材木の断面は歪みが見られずきれいな断面になっていた。
ケイが容易く切ったため柔らかい材質なのかと叩いてみたが、石のように硬く、切られた片方を持ち上げようとしても重くて持ち上がらなかった。
「キャー!お姉ちゃんカッコイー!キャー!」
「大げさだよエミル、これは手のブレを極力なくして、刃先に力を集中させる鍛錬なんだ。ユリアこっちに来て」
剣を渡されると、ケイは後ろから私を覆うようにして一緒に剣を持ち、動きのコツを教える。
ケイが話す度に吐息が耳を打ち腰のあたりがむず痒く感じてしまう。
それでも今のケイは真面目に教えてくれているのだから私も集中しなければ……
ふとエミルちゃんに目を向けると、案の定というか私を睨みながら歯ぎしりをしていた。
「えっと……エミルちゃんもレイラさんに特訓つけてもらってたりしていたのかしら……?」
「いえ、私は汗を流すのは好きではないので。でもお姉ちゃんが汗を流している姿を見るのは別なのです!」
どうだと自慢げな顔で答える。
「エミルはあんな風に言ってるけど、昔少しだけやってたんだよ?母様にも筋がいいって言われていたから、続けてたらそこそこの実力はあったと思うけど、可愛くないからってやめてしまったんだ」
やっぱり血筋なのか潜在的能力もある程度備わっている、ということなのだろう。
汗を流したくない、か……私も最初はそんなこと考えてたな……
少し前の自分とエミルちゃんを照らし合わせていると、玄関からレイラさんが出てきた。
「今日は遅くなると思う」
「うん、わかった。はいお弁当、気を付けてね」
「行ってくる……」
レイラさんはキスをするとどこかに出かけて行った。
「レイラさんはどこに行ったの?」
「町はずれにある学校だよ、母様は昔の経歴から推薦を受けて特任講師をしているんだ」
確かにナイツ・オブ・キングだった人をただ放置しておくのは余りにも惜しい。そういう所から声がかかってもおかしくはない、むしろ自然なことだ。
「ということは学校は騎士を志望する子とかがいるの?」
「うーん、実は私もその辺よく分かっていないんだ。せっかくだし見学できないか母様に相談してみるよ」
夜9時頃にレイラさんは戻り、落ち着いたところで私たちは学校見学の許可をもらえないか交渉した。
結果は問題ないとのこと。学園以外の私と同年代の子がいる場所に行くのは初めてということもあり、少々気持ちが高揚した。
しかしその時のレイラさんは怪訝そうな表情をしていた。
翌日、私はこの時のレイラさんの表情から特に考えもせず、安易な気持ちのまま動いたことに後悔しようとは思いもしなかった……。




