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面倒な女の子に好かれてしまった…

「はぁ~……ん~っ……ふぁ~」



 まだ昨日の疲れがとれていないようだ。

 動きたくない、眠い……。

 二度寝しようとした時、扉を叩く音がしんとした部屋に響いた。



「ユリア様、ご朝食の準備が整いました」



 偶然のようにタイミングのいいこの流れは、私が起きる時間、それを把握しているメイドあってのものである。

 そして私はメイドに着替えさせるように命じた。



「ホットミルクも用意しておいて」

「承知致しました」



 今日は式典の後日スケジュールが入っているため、正装に着替えなければならない。

 正装は腰にコルセットを身につける必要があり、はっきり言って大嫌いだ。

 その上この後自分が会う人のことを考えると、億劫だ……。



 面会室の扉が開くと既にアイツがいた。

 私が入るとその場に立ち、背中を傾けた。



「改めてご挨拶させて頂きます。ケイ・イリアス・ベルカと申します。どうぞよろしくお願いします、ユリア様」


「ユリア・グレース・ルイスです。どうぞよろしく」


「ではわたくしたちは失礼いたします。何かございましたらお申しつけを……」



 メイドたちは部屋から出ていき、私たちを二人きりにした。



「昨日はよく眠れたの、ユリア?」



 二人きりになった途端に馴れ馴れしく話してかけてきた。



「ふふっ、何か君を怒らせるようなことをしてしまったかな?」



 いけない、つい顔に出てしまっていたようだ。

 いや、気にする必要はない。

 まずは……



「昨日はどうして城内にいたの? どこから入ってきたの?」



 いくら婚約者候補とはいえ、まだ城を出入りできないはずだし聞いておかなければ。



「どこから入るも何も、昨日はここに泊まらせてもらってたよ?」


「…………へ?」



 いけない、つい間抜けな声が出てしまった。

 どうやらコイツの実家はここから少し距離があるらしく、お父様に一泊お願いすると二つ返事で了承したらしい。

 はぁ、お父様は……。



「ユリア、君に会えて本当に嬉しいよ。それも今度は婚約者として会えるなんて!」


「私は全然嬉しくない。あなたはまだ婚約者『こ・う・ほ』なのよ、勘違いしないで!それに……今『今度は』って言ったかしら?」



 私コイツと会った事なんてあったかしら?



「うん、まあユリアは覚えてないのも仕方がないよ。だって私が初めてユリアを目にしたのがパレードの時だしね」



 それなら覚えていないのも頷ける。

 パレードは五年に一度王都で行われる恒例行事で、私たちは馬車から国民に手を振るが、少なくとも私は国民に視線を配っていない。

 何十万人もいるのにそんなこと余計に疲れてしまうだけだ。


 いけない、そんなことより一番聞いておかないといけないことがもう一つあった。



「あなたはどうして今回の候補者選びに名乗り出たの?」


「どうしてって……君のことが好きだからかな」


「なっ!? なな何を言ってるの! バカッ!! そもそも私のどこにその……そ、そうなるところがあったのよ……!」


「そんなこと聞かれても……」



 ほ、ほら見てみなさい!

 所詮私の事なんてそんなものなんだ。

 どうせ王女だったからってだけでしょ……?



 ……ベルカさんは急に顔を赤らめてもじもじしてしおらしくなった。

 さっきまでの態度はどこに行ったのやら。



「その……一目惚れが理由じゃ、ダメ…かな? えへへっ」


「っっっっっ!?!??!?」



 え、何? 今何が起こったの?? かわいいちょっと待って何この子かわいすぎる本当にさっきまで私に馴れ馴れしい態度をとってた子なの?? 嘘でしょこんなにかわいい子なら嫁だろうが全然むしろこっちから―――――



「ハッ―――――!」



 だめだめだめ、落ち着くのよユリア・グレース・ルイス!!

 ちょっとかわいい仕草をしただけじゃない!

 なにも驚くことはない……。


 私は深呼吸して心を落ち着かせた。



「と、とりあえず今日はこの辺りでお開きにしましょう。それじゃ――――」


「あ、待って!」



 早々に退室しようとした私の手を掴んできた。



「また明日、来てもいいかな?」


「ふんっ、好きにしなさい」



 私はベルカさんを一人にして部屋を出た。





 あの子が帰った後、私はお父様の部屋へと速足で向かった。なぜあの子を候補者として認めたのか、すぐに知りたかったからだ。


「お父様、どうしてあの子を候補者の一人に入れたの?」


「なんだ、ユリアはまだわかってなかったのか?あの強さ見ただろ。あれがケイ・イリアス・ベルカという少女を選んだ理由だよ」



 確かにアイツは強かった。

 でも、だからこそわからないことが一つだけある。



「お父様はわざとあの子を候補者に入れたんじゃないの?」



 一人の子どもの申し出を大人が、それも国王がそう簡単に受け入れるわけがない。

 きっと何かあるはず。



「ユリアも大きくなったんだな…」



 感慨深そうに歯を見せ呟くと真剣な表情に変え、淡々と事の旨を話し始めた。



「郊外に騎士の訓練学校があるのは知ってるだろう? 彼女もそこの訓練生で、入って早々に他の生徒を圧倒していたようだ。俺が前に視察に行った時も、彼女は上級生相手に同等以上の実力を発揮していたよ」



 全国から優秀な生徒が集まっていると聞く訓練校の中でも特別優秀だったなら、公爵の息子を追い詰めたのも合点がいく………。



「でもあの公爵の息子なのよ? 仕返しにでもあったりしたら……」


「それについては安心していい。公爵側もただのバカじゃない、これ以上恥の上塗りはしたくないだろう。今回のはただ候補者を絞るだけじゃなく、力を持ち出して調子に乗っている公爵側を牽制するためでもあったんだ」



 やっぱり……。

 でもいくら国の王とはいえ、こちらの事情で利用するのは納得がいかない。



「だからって、お父様はあの子を利用して可哀そうとか思わなかったの?」


「そりゃ俺もいくら剣技に長けてるとはいえ、ユリアと同い年の子にこちらの事情を押し付けるような真似はできないと思っていた……。だが、彼女はいくら事情を説明しても剣闘に参加したいと懇願してきたんだ。あんまり強く言うもんだから彼女を女の子ではなく、一人の騎士として候補者に認めたんだ」



 国王であるお父様に説得してまで候補者に名乗り出るなんて、一体何が目的で……。



 いや、待って、さっき応接間であの子は私の事を……っ~~~!!

 やだやだ、どんどん顔が熱くなってきたっ!!



「にしても、いつも自分の不満を吐いてばかりのユリアが、まさか他人の心配するなんてなぁ! もしかしなくてもあの子の事、結構気に入ってるんじゃないか??」



 お父様がニヤニヤしながら煽ってきた。

 これはいつも私を子どもとして見る時の顔だ。

 これがいつもながら本当に腹立たしい。



「もうっ!! お父様なんて知らないんだから!!」



 私の扉を閉める音は静かな廊下に響き渡った。

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