イリアス家⑵ /新たな決意
任務期間はおよそ3か月間に及びました。
彼女と出会う前の私であれば苦もなく任務遂行に尽力出来ていたことでしょう。しかし、その任務期間中だけは感じたことのない程に辛苦しました……。
「隊長!一体どうしたというのですか!普段の貴方ならあんな敵の攻撃難なくかわせたはずです!それがどうしてっ……!」
「ふっ……私も落ちたものだな………うっ……」
「まだ立たないでください!頭部の出血が止まっていないんですから……」
「……一刻も早く任務を遂行し、彼女の所へ……」
「ぇ……彼…女……?」
任務が終わると私は部下たちを残し、彼女のもとへと馬を走らせました。花屋の前にはいつもと変わらず彼女が花に水を与えていました。
声を掛けるとこちらに気づき、彼女は微笑みながら声を震わせ言いました。
「もう来てくれないのかと、思っちゃいました……」
この時私は確信したのです。
私には彼女の存在が不可欠なのだと……。
そして彼女を腕の中に包み、迷うことなく口にしました。
「私には貴方が必要だ……貴方さえ許すならば、どうかこのまま私のものになってほしい……」
「……っ………はい……」
それから、私たちが人生の契りを結ぶまでに時間を要しませんでした。
私たちが寝食を共にして3年の月日が流れ、私はナイツ・オブ・キングの一人としての階級を授かりました。
しかし就いて間もなく私は身籠り、お父様の寛大な御心によりその地位を退き、同時に騎士としての私も剣と共にお城に置いてきたのです……。
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「そうして生を受けたのがお隣にいるケイであり、恐縮ながら現在までの私になります……」
レイラさんがあのナイツ・オブ・キングの一人だったのは驚いた。
これは 班長→小隊長(隊長)→中隊長→団長→総隊長と階級が続き、それらの頂点の6人によって構成されたのがナイツ・オブ・キングだ。
常にお父様とお母様の傍で護衛し、実力も底が知れないとされる精鋭中の精鋭、言うなれば私たちの国の最後の砦だ。
その一人に僅かの期間でも在籍し、加えてそんな人を師匠とするならケイが大人にも勝る実力を備えているのは合点がいく。
ケイはレイラさんが……この理屈でいくとエミルちゃんは……
「ふふっ、エミルは私です」
ケイとエミルちゃん、それぞれご両親の特徴をしっかりと引き継いでいる。
大人になればよりご両親に似てくるのだろう……。
「あらいけない!もうこんな時間だわ!」
言われて時計を見ると10時を少し回っていた。
「普段でしたらもう少し起きていますので私は……」
「夜更かしはお肌と体調の天敵よ!特にユリアさんはとーっても美人さんなんだから、気を付けないとダメです!」
ぷくーっと顔を膨らませて注意を受けtえしまった。
かわいいお母様だ。
確かにたまには早寝も悪くないと思い、私はソフィーさんの言う通りに早々にベッドに向かった。
☆
コンッ……………………コンッ……………………
………ん~……誰よ、こんな朝早くに…………
時間はまだ早朝の5時。辛うじて空が明るくなり始めていた。
街も眠っているだろうこの時間に、外から何かが当たる音が聞こえ私は半強制的に起こされた。
音の出所を捉えようと窓を開け見回すと、庭の端でケイとレイラさんが木刀で組手をしていた。
どうしてこんな時間に……。
私は静かに階段を降り、庭に出ると組手で夢中になっている2人を家影から覗いた。
ケイは両手で木刀を持ち大量の汗をかいていた。
服が汗で濡れて、息を荒くし鬼気迫る表情で立ち向かう。一方でレイラさんは汗一つ見せず、片手だけで木刀を持ち相対している。
ケイの全力の一振りもレイラさんは難なく受け流し、仕掛る。
ケイのあそこまで苦しそうな表情を見るのは初めてだ。立っているのが限界で、若干ふらついていて今にも地面に倒れそうだ。
そろそろ止めたほうがいいのかもしれない……。
私が踏み出そうとした時、ポンポンと肩を優しく叩かれ、振り返るとソフィーさんがいた。
私が2人のことを話そうとすると、しーっと人差し指を立て微笑んだ。
「止めなくていいんですか……?あのままだとケイが倒れてしまいます……」
「えぇ、そうね。でもケイの目を見て?」
促され私もケイを見る。するとケイの目はレイラさんの動きを必死に捉えようとしていた。
もはやいつもの軽快な動きが見る影もないが、その目からはケイの強い執念のようなものを感じた。
「あの子ね、昔からああやってボロボロになっても『諦めない』『強くなるんだ』ってレイちゃんに向かっていたのよ?私も最初は止めようとしたけど、言う事聞かなくて………誰に似たんですかな?ふふっ」
ケイがあんなにまでなって強さを求める理由、私にはわかる。だからこそ辛い。
私がもっと強くなればケイの負担も減らすことができるはず。
私だっていつまでも頼られっぱなしでいられない。
………決めた、私もレイラさんに鍛錬をつけてもらおう…!
ケイのためにも、これからの私のためにも!




