2人の町デート
「ユリア様、まさかこちらにいらしていたとは………大きくなられて……」
女性は私を懐かしむような目で見てきた。
「積もる話もありますが……ケイ、荷物を部屋に運んだらユリア様に町を案内して差し上げなさい」
「はい…」
ティータイムで一段落したところで荷物をケイの部屋に置いて、私はケイと二人きりで町を周ることにした。
エミルちゃんも一緒に来ようとしていたが、女性に家事を手伝うように阻止させられていた。
町中を歩くと馬車からとはまた違った景色が見られた。
すれ違う人達は意外にも家族連れが多く、そのためか日中はお酒を取り扱っていなかったり、閉店時間が早い事を記す張り紙が散見された。
宿場町と言うからには大人用の店が多いのかと思っていたが、そういう店はほとんど見られない。
王都とは違いゆったりとした時間が町を包み、歩いているだけで楽しい気分になる。
将来生活するならこういう場所に住みたいかも……。
「………ねえ、ケイ、さっきの人……」
「うん、私たちの母様だよ」
親にしては少し余所余所しく感じられた。それと御母様の私を懐かしむような眼差しと言動、あたかも昔の私を知っているかのような……。
「……!」
ケイは指を私の指に絡ませて手を握った。
「また余計なこと考えてるでしょ。大方検討がつくけど話してくれる?」
「……ケイは御母様に対してちょっと他人行儀じゃない…?」
「そうかな?母様とは昔からあんな感じだけど。まあ、私と母様はただの親子ってだけじゃないんだけどね」
「どういうこと?」
「母様は私の色んな基礎を作ってくれた師匠でもあるんだ。昔、お城に騎士として奉仕してたらしくて、その筋に長けててね」
「えぇっ!!ケイの御母様が…!?」
言われれば確かに騎士たちと似たような雰囲気がある人だとは感じていた。でも昔と言っても本当に騎士だったとは……。
ということはもしかして御母様は厳しい人……?
「ケイの御母様って、怖かったりするの…?」
「ううん、普段は優しいよ。お母さんと家事も一緒にするし、私とエミルがいる時もお母さんと仲良くしているところをよく見たから」
「そうなのね…よかったぁ~」
「家族の事はまた夜にでも話そ?今は久しぶりに二人きりのデートなんだし」
「デ、デートって!町の案内じゃなかったの!?」
「デートと同じだよ!さ、行こう!」
半ば強引に引っ張られた私はケイのおすすめの店や場所を案内された。
ケイが昔から聴いていたという路上演奏に耳を癒され、よく昼寝をしてたらしい公園の木陰で一休みし、噴水の横でイチゴのクレープを堪能した。
どれも勧めるだけあって有意義な時間を過ごせた。
それに、こうして回っていると昔のケイが分かるような気がして結構たのしい。
にしても、勧められた場所が多かった。
昔のケイは今よりも遊ぶのが大好きな女の子だったのだろうか…?
気付くと夕方になっており、夕空と同じ色の街灯が点き始めていた。
最後にせっかくだからと、私は時計塔に連れられた。
展望階に着くと町の夕景が一望でき、その宝石のような輝きと美しさにしばらく言葉がでなかった。
馬車の中で言っていたことから観光客がたくさんいるのかと思いきや、人がまばらだった。こんなに少ないことは滅多にないという。
「神様が私たちだけの時間を作ってくれたのかも」
「もぅ、何言ってるの」
「でもこの景色も、ユリアの魅力には敵わないね……」
「はぁっ!?も、も~!変なこと言わないで!」
「あははっ、私は本当の事を言っているだけだよ?」
ケイは息を吐くように恥ずかしいことを平気で言う。そして私だけがいつも恥ずかしい思いをする。やり返したいのにやり返す隙がない。
ケイはほんとにずるい婚約者だ。




