お姉ちゃんは私のです!!
馬車から下車した私は、およそ4か月空けた城を懐かしむように眺めた。
たった4か月、だけど私には、城に置いている本では知りえなかった事や見たことない景色、友だちや他人との直接的な衝突など数多くの初めての体験があった。
私にとってその期間は、今までの人生を大きく変える期間でもあった。
こうして感慨にふけていられるのも、今も隣にいてくれるケイの存在あってのものだ。
学園に行くことを不安がっていた私を勇気づけ、常に私を傍で見守ってくれたケイがいたから……。
私はケイに何をしてあげられるだろう…。
ケイは私以上にできることが多く、私にはできないことが多い。
いつも尽くされてばかりで、きっとこれからも同じように続くだろう。
考えるとむず痒く顔が熱くなりそうだが、私は将来ケイと結婚する……。
だから私もケイを支えられるようになりたい。ケイが安心して頼れる存在になりたい。
ケイと同じ目線で、同じ歩幅で歩める私になりたい……。
学園では忙しく一人で落ち着いて考えること難しかったが、久々に帰ってじっくり考えることが出来る。
この休みの間にケイにしてあげられることを1つでも多く見つけて、私自身も成長しなければならない。
「いこうか、ユリア。両陛下が待ってるよ」
ケイは私に手を差し伸べた。
「うんっ!」
でももう少しだけ、このままケイに引っ張られていたい気持ちもある…………
☆
お父様の部屋に行くと、お母様も一緒にいた。そして二人は私とケイをおかえりと言って抱いてくれた。
照れくさくはあったが、久しぶりに二人の顔を見れたことに喜びを噛み締めた。
私たちが部屋に行こうとすると、お父様がとケイに客が来ていると引き留めた。
ケイに客?もしかして訓練校の旧友とかだろうか?
ケイの部屋にいると言うので早速向かった。ケイにわざわざ会いに来るのはどのような人物なのか気になって、わくわくしながら扉を開けた。
と、そこにはケイと同じポニーテールで、しかし栗色髪の女の子がいた。
「エミル!どうしてここに……!?」
エミル……?
「お姉ちゃーーん!!!」
お、おおおお姉ちゃん!?!?
「………あなたがユリア王女ですね、名乗り遅れまして申し訳ありません。私はこちらにいる清く!優しく!華麗な!ケイ・イリアス・ベルカの『実の』妹、エミル・イリアス・ベルカと申します。以後お見知りおきいただけると幸いです………」
所々強調されていたのが気になったが、スカートの左右を摘まみ丁寧に自己紹介を受けた。
「まあ、よくできた妹さんですこと。紹介を受けた後で悪いのだけれど、少しだけ席を外しても?」
私はケイの袖を引っ張り部屋を出た。
「ケイ……妹ってどういうこと!!?あんなかわいっ……んん、よくできた妹がいるなんて聞いてないわ!!」
「落ち着いてユリア。だって別に聞かれることもなかったし、実家に行った時にでも紹介しようと思ってたから……」
「もしかして、まだ私に隠し事してないでしょうね~?」
ケイは今までも城の騎士になっていたことや、私が寝ている間に任務に行っていたことなど秘密にされたことが多々あった。だからまだ私に言っていないことがきっとあるはず…!
「そんな、隠し事なんて…」
「いつまで席を外しているのですか……」
僅かに開けた扉からじっと目を覗かせていた。
「だめじゃないかエミル、私たちは今大事な話をしているんだよ?盗み聞きは感心しないな」
「違うのお姉ちゃん!私はただお姉ちゃんがどんなお話をしているのか気になっただけなの!」
大きな瞳を潤ませながら必死に誤解を解こうとしている。
「それにね?私もお姉ちゃんと話したいことがいーーーっぱいあるの!!」
ケイに接する態度と声はとても明るく元気いっぱいの良い女の子だ。
……さっきのケイを立てるような言動といい、良く見られようとするかのような態度といい。
この子、もしかしなくても……
「わかった、エミルの話は後でちゃんと聞くから今は部屋にいて、ね?」
「わーい、お姉ちゃん優しいー!お姉ちゃんだーーいすきっ!!」
ケイへの姉妹愛…?が強すぎる!!!
「おっと、急に飛びついたら危ないよ?ほら部屋に戻って」
「はーい!…………ふっ」
…………え、最後の嘲笑顔は何?
今のは明らかに私を意識していたものだった。
いやいやありえない、だってさっきはあんなに丁寧に挨拶してたはず……。
「ケイ、エミルちゃんはその…いつもああいう感じなのかしら…?」
「エミルは昔から人付き合いが苦手みたいで、いつも私にくっついていたんだ。そのせいか、今もその癖が抜けてないみたいで、驚かせてごめんね…」
ケイは解釈を間違っている。
確かに過剰にくっつくのが気になるのもあるが、それ以上にあの子がケイに見せる反応がただの妹には見えないのだ。
と、言いたかったがケイは違和感も何も気づいていない様子だ。
それどころか……
「ユリア、もしかして嫉妬してるの?」
「ななっ何でそうなるのよ!!」
「かわいいよー!かわいいかわいいかわいい!!」
ハグをしてペットを扱うかのように頭を撫でられた。
どうして長年一緒にいただろう妹の違和感には気づかないのか…。
私の事をわかってくれるのは嬉しいが、ケイってそういうのを察知するのここまで疎かったただろうか……?
部屋に戻るとエミルちゃんは「遅い!」と頬を膨らませて不満を言い、ケイに歩み寄った。
ケイが謝りながらと頭を撫でると手を両頬に当て、満面の笑みを見せた。
あ、あざとい……
「それで、エミルはどうしてお城に来たの?」
「お姉ちゃんってば、家を出て行ったっきり帰ってこないんだもん!しかもお母さんたちに聞いたら今度は学園に入ったって……だから今日戻るって聞いて居ても立っても居られなかったの!」
「それならお城に来なくても近々戻るつもりだったのに……」
「ううん、私がここに来た理由はもう一つあるんだよ……」
にこにこ顔で小さくスキップをしながら隣に来た。
「ユリア王女……いえ、ユリアさん♪」
何だろう、笑顔の筈なのにすごく怖い。
エミルちゃんは私の腕を引っ張り耳元で囁いた。
「お姉ちゃんを一番愛しているのは私ですから……………」
ひぃっ…!
「これから仲良くしていきましょうね、ユリアさん!」
「2人とももう仲良くなったみたいで嬉しいよ」
ケイよ、どうして気づかない。ここに小悪魔がいるというのに!
「……私、お姉ちゃんが学園に戻るまでの間こちらでお世話になるので、よろしくお願いします☆」




