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君を傍に感じていたい

 任務完遂は移動時間も含めておよそ3日もかかってしまった。ユリアのもとへ一刻も早く戻らないといけないのに…!


 部隊長曰く、当初の計画では2週間は予定していたという。

 私が大暴れしたというのはどうにも納得いかないが、私の不審者を見つけ次第取り押さえていた行動が、部隊が認知した時には一件に絡んだ敵全員を討伐していたようだ。


 隊長は大いに喜び、町長からも感謝状を贈りたいと言われたが、私にとってはそんなのはどうでもいい。私にとって何より喜ばしいのはユリアと一緒にいる時間だ。

 ユリアに早く会いたい、ユリアを抱きしめたい、キスしたい、それだけだ。


 私はちょうど学園の馬術クラブに送る手配のあった馬に乗り、ユリアのもとへと急いだ。

 それから学園に着いたのは夕暮れ時だった。




「ユリア!ただい……!?」



「……うっ…ケイ……」



 寮の部屋に戻るとユリアが静かに涙を流していた。



「ユリア何があったんだ!!……まさかクロエさんが……くっ…!」



 私が部屋を出ようとするとユリアは「何を言っているの?」と不思議そうな顔をして私を止めた。



「見てケイ、図書館に新しく入った恋愛小説なんだけどこれがすっっごく泣けるの!!これで3周目よ…やっぱり本は素晴らしいわ…」

「え、本……?」


 ユリアは大事そうに本を抱いた。


「ケイにも読んでほしいの!何をしているの?早くシャワー浴びてきて!一緒に語りたいんだから!」


 ユリアは宝石のようにきらきらと目を輝かせて私を急かす。



「…は、ははっ、は……はぁ…」



 私は自分の思い込みとユリアの思わぬ回答の差に笑いがこぼれた。でも疲れのせいで上手く笑えず、その場に膝をついた。


 シャワーを済ませたあと、ユリアがその本の魅力を語り始めようとしたが、長くなる予感がしたため先に夕食を提案した。




「それじゃあユリアが薦めるその本を読んでみようかな……と、その前にユリア…」


 私はベッドに座り壁に背を着け、小さく開いた足の間をぽんぽんと叩いてユリアを誘った。ユリアは顔を赤くして、自分がそこに行かなければならない理由を私に必死に求めた。

 しかし私にとってその声は、木の葉を優しく撫で、窓から入ってくる夜風に等しい。



「ふーん、それなら読むのやめておこうかな~?」



 軽く煽ってみると、ユリアは羞恥と屈辱が入り混じった表情で私を睨む。私はユリアのこの表情を見るのが狂おしいほどに大好きだ。


 重たい足取りで近づき、私の足の間にゆっくり座る。そして私はユリアを抱き寄せて腰から手を伸ばし、手を重ねて本を持つ。

 目の前にはユリアの頭、体を密着させ息が耳に当たる度に僅かに震える。


 できることなら今すぐ本を置いて、このまま朝まで一緒に寝ていたいけど、ユリアは怒るだろうな……


 そんなことを考えている間、ユリアは本の世界に入ってしまったようだ。

 さっきまでの様子は無くなりとても嬉しそうにおすすめの展開場所や登場人物について語る。

 もちろん私も読んではいる。

 それでも、最愛のユリアの眩しくかわいい笑顔に目が惹かれてしまう。



 私は幸せ者だ。

 この世の価値あるとされる財宝をかき集めても比較にならない程に麗しく、脆くて儚い、でもだからこそ命を賭して守りたいと思わせてくれる尊い存在を、こんなにも間近で独り占めにして触れていられるのだから……




 ユリア……改めて、私の傍にいてくれて……ありがとう……




 私…は……、かな……ず…、……リア……を…………





「……あら?ケイったら寝てしまったわ。………ふふ…よっぽど疲れていたのね。……いつも私を守ってくれてありがとう、おやすみ、ケイ……………」




 この日の夜、ユリアが私に労いの言葉を添えつつ、その唇で私の額に触れる夢を見た。

 恥ずかしがり屋で頑ななユリアがそんなことするはずないのに、願望を夢で補うなんて……


 しかし、その夢は妙だった。

 数日経っても夢の記憶が鮮明に残っていた。


 さらに妙なのは、私の脳内だけで完結した一時的な空想のはずなのに、まるで現実での出来事のように体が感知している。


 ここまでとなると私も重症だな…………

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