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恋する女の子

「どうだユリア。なかなかよさそうな候補者が集まってるだろう」



 腕を組み歩み寄ってきたお父様。

 私はすぐに女の子に指をさした。



「お父様! あれ、候補者の中に女の子がっ!」


「あー、あの子か。前に申し出に来た時はびっくりしたなー、あはははっ!」


「あははじゃないわ! 女の子なのよっ、いいの!?」


「ん? ユリアは嫌だったか?」



 娘である私の必死な訴えをお父様は何も問題がないと言わんばかりに振舞い続ける。

 これだからお父様もいつもお母様にも怒られるんだ……。



「別に嫌ってわけじゃ……じゃなくて! 

 あんなに小さい子が大人を相手にするなんて危ないわ! やめさせないと!」



 駆け下りようとした私にお父様は、待てと言われて止められた。



「今やめさせてあの子の決意を踏みにじるつもりか?」


「そ、そんなつもりは……」


「まあ見てろ。なぜ俺が候補者として許可したのかすぐに分かる……」



 私が見た時、お父様はニヤついていた。まるでこの状況を楽しんでいるようだ。

 今のお父様が一体何を考えているのかわからない。

 私と年が変わらないだろう小さな女の子が、いくつも離れてる大人たちを相手に勝てるはずがないのに……。




 各対戦相手はくじによるトーナメント戦で行われる。

 第一戦目は、相手は公爵家の息子。


 相手は剣技に長けていることで貴族の中でも有名だ。

 他の貴族は女の子を小馬鹿にしたような目で見ており、完全に不利な空気が漂っている。

 しかし、それに気づいているだろう当の女の子は落ち着いた表情で立っていた。



「はじめっっ!!!」



 審判の合図と同時に女の子が仕掛けた。

 瞬間的に距離を詰め、横に一振り。

 相手は焦ったように剣で凌ぎ、反撃しようとした。


 しかし、女の子はとても軽くしなやかな身のこなしでそれらをかわす。

 流れるようなステップから繰り出される正確な攻撃に相手の成す術がない状態が続く。



「くっ……この俺を、なめるなぁっ!!!」



 相手もとうとう本気を出さざるを得なくなったのか、息を荒げながら猛攻撃を始めた。

 そこには先程までの余裕の顔は全く残っていなかった。


 それでも女の子は蝶のように剣で流してはひらりとかわし、一瞬の隙を見逃さない。

 そして最後に首元で剣先を寸止めした。


 勝敗は誰の目から見ても女の子の圧勝だった。

 審判も驚いた様子で少しの間のあと、女の子側に手を上げた。

 あまりに想定外な出来事に、お父様を除いた誰もがしばらく呆然とした……。




 その後も女の子は次々と勝ち進んだ。 

 結果、予定よりも大幅に早い時間で剣闘は終わり、このトーナメント戦を制した。


 剣闘が終わった頃には私は女の子を目で追っていた。

 こんな予想もできない結末は初めて推理小説を読んだとき以来だ。



「これをもって、ケイ・イリアス・ベルカをユリア・グレース・ルイスの婚約候補内定者とするっ!!!」



 こうして波乱の誕生日、

 もとい婚約者選定戦はお父様の宣言をもって幕を閉じた――――――――




    ☆☆☆




 夜も更け、色々と疲弊しきり重くなった体をベッドに投げ、

 クッションに顔を埋めた。



「何なのよぉ、もぉぉぉぉ~~~!!」



 当事者である自分の意志は全部無視!

 いつもこれだ。一人の人間なんだから、選択する権利くらいあっていいはず。

 過去に出会ってきた人たちがどうあれ、流石に一人くらいは気になった人がいるはず……。



「いない、か……」



 本の中のお姫さまは素敵な王子さまと巡り合って幸せになるのに、現実だとこれだ。

 所詮は本の中の作り話ということか。


 今日はとても眠れそうにない。

 いろんなことがありすぎた。

 落ち着いていられるほうが変だ。


 

「…………っ」





 私は特に理由もなくこっそりと外に出てみた。

 外では風が夜の冷えた空気を体に当てつけ、体が小刻みに震えた。

 最近は公務だったり、稽古が忙しく、夜が肌寒くなっていたことさえ気づけなかった。


 何か羽織ってくればよかったと後悔しながら、街に向かって若干坂になっている城壁内の原っぱを歩く。


 すると、少し強い風が吹き思わず目を瞑った。

 やっぱり寒い。そろそろ戻ったほうがいいかもしれない。 


 城の方向に体の向きかけると、原っぱにあるの大きな岩の側に人影が。

 びっくりして声を出しそうになるも両手で口を押さえて何とか最小限に抑えることができた。

 

 早々に帰ろうとした時、さっきの風のせいか月を隠していた雲が流れ、

 人影が徐々に月明かりに照らされ、て…………っ!




「あなた、候補者の……!!」




 今日の剣闘で勝利したポニーテールの女の子がそこにいた。

 長く艶やかな黒髪が月明かりによって鮮明に見ることができる。

 剣闘の時とは違うとても穏やかな表情をしており、まるで別人のよう。


 初見は離れていたこともあり分からなかったけど、私より少しだけ身長があるようだ。

 相手に気づかれないように一瞬だけかかとを上げてみた。

 それでようやく同じ目線になった。何だか悔しい。

 私は下唇を軽く噛んだ。



「こんばんは、王女様。いや、ユリア」


「なっ、呼び捨てするな! あっ、んんっ……しないでくださる?」



 何この子、いや、コイツ!

 初対面の相手に、しかも王女の私にこの馴れ馴れしい態度!!



「ふふ、私の前では気を張らなくてもいいんだよ。でも、そんなユリアもまたかわいいけど」


「っ~!!そ、そんなことよりあなた、ここで何をしていたのかしらっ」


「あぁ、今日は一段と月が綺麗だったから直接見たくなって……」



 女の子は目を細めて月を見上げた。



「それで、王女様はどうして?」


「別に、あなたには関係のない事よ」


「ふふ、そんなこと言わずに教えてよ、ユリア……」



 女の子は私の腕を引っ張り、下あごを指ですくい上げた。

 少し前に顔を動かせば唇が触れてしまうそうな至近距離にまで顔を近づける。

 若干頬を染めた女の子の瞼は徐々に垂れ――――




 しかし、私は触れる直前で女の子を強く押し飛ばした。



「いい加減にしてっ! 私は認めない! あなたも他の人もみんな大っっ嫌い!!」



 私は女の子をひとり置いて城に戻った。

 こんなことならもっと早く城に戻るべきだった。

 私はとことんついてない……




「……ユリア、私が必ず……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] あらあら、何だかユリアちゃんもケイちゃん?のもじもじ初々しい態度に堕ちそうになっちゃって!これは脈ありと見た! それにしても、同性同士も全然オッケーな感じのお父様素敵!こういう理解のある…
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