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大切な存在を託す者

 現在アラノーラにて民家が次々と襲われる事件が発生。我々は今回の一件を山賊によるものと見て調査中。詳細は班長より伝えられる。学園側には事情を伝達済みである。ユリア様には代理をつけることとなった。3日後の夜、例の場所に迎えを手配する。貴君は速やかに先行班と合流するように。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――



「……ふぅ」



 昨晩渡された手紙には新たな任務の伝達が書かれていた。去年以来の久しぶりの任務だ。前回よりは早く戻れそうだけど、どうしても拭いきれない懸念がひとつある。


 ユリアを学園に一人にして置いていくこと…


 私の代わりは誰なのか分からない。もしかしたら王国の人間じゃないかもしれない。仮にそうだとして、そいつがユリアに手を出したらどうする…!




 ……机に当たっても仕方がないじゃないか…落ち着け私…!




「くっ……」



「ケイ~、何か物音がしたようだけど何かあったの~?」

「何でもないよ~、大丈夫~」




 せめてここを出る前に誰が私の代理なのか探らないと。本部のことだからおそらく直前になって学園に入れるようなことはしないはず。そうしないと明らかに不自然だから。

 よって既に学園内に代理の騎士が潜んでいる…私が直接会って、本当にユリアを守れる実力の持ち主なのかを確かめる…!


 まずは……




「おはようございます、ユリアさん!今日もおかわいいですわ!」

「おーい、ユリアが困ってるだろー。ケイに何されるわからんぞー」



 イヴェル・アンフィニ。カトレアさんのナイトで、見た目に反してかなりの実力とカトレアさんが前に言っていた。だけど私がそれを実際に確認したわけじゃない。

 少し観察してみるか……



 そして私は誰にも悟られないように警戒しつつ、イヴェル・アンフィニの調査を行った。

 まずは廊下に罠を仕掛け、昼食には辛味スパイスを混ぜてみた。

 しかしイヴは全ての罠にはまった。


 こんな姑息な手で技能を図るのは間違いだったかな。次はもっと直接的な方法でいこう。



「イヴ、少し付き合ってもらいたいんだけどいいかな?」



 私はイヴを林の少し奥へ誘い、組み手と称して実力を確かめた。


 なるほど、カトレアさんの言っていたことは嘘ではないようだ。

 小柄なのを利用して俊敏に動き、相手を攪乱させ隙を確実に狙い攻撃する。これなら少しの間だけならユリアを任せられそうだ。



「イヴはお城ではどんなことをしていたの?」

「うーん、基本寝るか遊ぶかだなー」



 ……は?



「もっとやることなかったのかい!?カトレアさんの護衛とか部隊に協力するとか!」

「いや~、イヴはいつもカトレアの横にいることがお役目みたいなもんだったからなー。そんな厄介事は関わったことがないぞ」



 ということはイヴは代理じゃない、か…。

 にしてもそんな生活でよく上から咎められなかったな。私にはできない芸当だ……



 その後私は他の生徒も徐々に絞りながら、次の日も同様に探してみたものの見つからなかった。




 そしてあっという間に3日目になってしまった。

 今日中に探し出さないと任務に集中できない。

 一体どうすれば……




「ケイ、ここのところ顔色が変よ?具合でも悪いの?」

「え、あ、ううん!大丈夫、心配してくれてありがとう…」

「そう、なら私今日は日直だから先に行ってるわね」

「待って、私も行くよ!」



 短期間とはいえ私の何よりも大切なユリアを任せるんだ。絶対に見つけ出すっ……!!




「あ、ユリアさんにケイさん、おはよー」


 教室に入るとクラスメイトの一人が軽く挨拶をしてきた。


「おはよう、元気がないようだけどどうしたの?」

「それがさー、先輩に剣術がすごい子を連れてこいって言われてしまって……」


 その生徒は私を見つめ、何かを思い出したように表情を変えた。


「あぁ!!そうだケイさん、私たちのクラブに助っ人として来てくれないかな~お願い!このとおり!」

「え、でも……」



 私には代理の騎士が誰なのか探さないといけないという大事な優先事項があるし……



「いいじゃないケイ。私も久しぶりにケイが闘っているところ見てみたいわ!」


 ユリアが目をきらきらと輝かせている、かわいい……。


「わかったよ……」

「わぁーありがとう!よかった~、じゃあ放課後に闘技場に来てね!」



 ユリアはいつも私の心を惑わす、どうしようもないくらいにかわいくて、ずるくて、その全てが愛おしい。

 こういう時でもユリアに弱い自分の軟弱さが憎い……。





 ~放課後~


 結局ここまで目ぼしい人間を見つけられなかった。

 これも私の洞察力がまだまだ未熟ということだ。もっと鍛錬を積まないと……



「あ、ケイさ~ん!こっちこっちー!」



 私は闘技場に着くと今朝の子に先輩を紹介され、闘技場のクラブメンバー用の観客席で待機するように促された。


 相変わらずこちらの人数も多いけど、一般の生徒の観客席もかなりの生徒で埋まっている。

 中には席が空いてなくて立っている生徒に……ファンクラブだろうか?横断幕を複数人で持っている生徒までいる。もはやちょっとした大会だな。




 …………やっぱり剣術クラブだけあってどの子も持ち直しや切り替え、基本的な動作がスムーズに出来ている。

 上級生ともなれば訓練学校の先輩たちにもいい線までいけるかもしれない。


 次は……っ!?そんな…まさかっ!!



 クロエ王女……多少なりとも剣技に嗜みがあったとは思っていたけど、このクラブの上級生と闘える実力があるというのか…!



 私がここまで驚いているのは彼女が単に王女がそれほどの実力を持っているからという理由ではない。

 そう遠くない未来にユリアと剣を交えることになってしまった場合、今のユリアではクロエさんに到底敵わないからだ。

 しかもクロエさんはユリアに対してかなり敵視していた。


 王女とはいえユリアに何も仕掛けないとも考えにくい。どれほどまでに仕上げているか分析し、ユリアの鍛錬に生かす。


 ユリアには悪いけど、少し無理を強いてしまうかもしれない……





 参ったな……これは相当なレベルだ……確実に隊長クラス、いや、それ以上か…?

 まだだ、もっと分析しないと…………っ!?



「いたたた、あ、ユリア!いつからここに…?」

「今来たの。声かけたのに返事の一つもないなんて……」


 私は集中するあまりユリアに気づけなかったなんて…こんなことで嫌われたら本末転倒じゃないか…!


「そんなにクロエさんのことが気になるの……?」


 ユリアが私に嫉妬している……?あぁ、かわいい、かわいすぎるよユリア…君はどこまで私を惑わせば気が済むんだ…


「あ~もう、抱き着かないで暑いから~!」



 この後リル王女がやってきて、いくつか会話を交わしたところで私の順番が回ってきた。




 肘と膝に軽装備を着けられ、薄暗い通路を抜ける。



 相手は……そうきたか。

 ふぅ……あの目、間違いない。強い……!

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