ラーキングナイト
「愛してるよ、ユリア…」
ケイはそう一言だけ呟き、私のおでこにキスをして夜中に部屋から出て行った。
ケイはこの頃深夜1時前になると静かに部屋を出ていく。
しかも黒いローブに身を包んで…
明らかに怪しい。何か隠し事でもしているのだろう。
私は今夜、ついにケイを尾行することにした。
深夜の寮内はしんとしていて真っ暗で気味が悪い。雲の間から時々出る月明かりが唯一の頼りだ。
そんな視界が制限された黒の世界をケイは足音も最小限に留め、平然とどこかへ歩いていく。暗闇でほとんど音も出さず、黒いローブを着て移動するケイも気味が悪く感じてきた…
ケイはとうとう寮を出ると辺りを見回し、林の中へと入っていく。
よくもまあ夜中の林に入れるものだ。こっちは部屋を出るのもかなり躊躇っていたというのに…
しかしせっかく出てきたのにここで引き返すのも惜しい。
私は覚悟を決めて林の中へケイの追跡を続行した。
深夜の生暖かい風と葉っぱが擦れ合う音が、真っ暗な視界と相まって余計に恐怖心を煽る。
出来る限り何も考えずにしばらくついていくと、学園の敷地の端、2mはある壁が見えてきた。
ケイは剣の鞘で不規則に複数回壁を叩いた。すると壁の向こうから紐で結ばれた1枚の紙が飛んできた。
そしてケイも紐で結ばれた何枚かの紙を壁の向こうへと投げた。
私の前で一体何が行われているのか。
何かの企て?ケイはまだ私に言っていない隠し事でもあるのだろうか。
隠し事するということは、ケイは私を信用していないのでは…?
……だめだ、推測しようとするとつい否定的な考えをしてしまう。私の悪い癖だ。とりあえず今色々考えてもどうしようもない。明日にでも直接本人に聞いて―――――
「――――んっ!?」
突然、背後から何者かに口を塞がれた。
「悪い子だ~れだ?」
「ほのほへはへいへ(その声はケイね)!」
「ふふっ、正解!」
ケイは嬉しそうに私を抱き頬にキスをした。
「夜中にこんなところにいたら危ないよ?誰かに襲われるかも…こうやって…」
そう言って抱きながら私の両腕を掴んで固定すると、首元を甘噛みしてきた。
「っ…!!ちょっとケイっ!!やめっ……!!」
「ふふっ、かわいい…ユリアは甘くておいしいね…」
私は調子に乗り始めたケイの頭を強めに叩いた。
「それで?ケイはどうして最近夜中に部屋を出入りしていたの?」
「うん。ユリアの近況や学園内の環境をお城の情報班とやりとりしていたんだ」
学園には私以外にも王女や貴族の生徒も多くいる。そのためいざという時のために密な状況把握が必要なのだろう。
待てよ……。てことは……!
「それじゃ、お父様たちにも今の私のこと知られているってこと!?どうしてそういう大事な事を私に言わなかったのよ!」
「そんなに怒らなくても、ユリアは十分頑張ってるから何も問題ないよ」
「…あとその真っ黒なローブは何?怪しすぎるわ」
「あぁ、これは……しっ…」
ケイは私の唇に人差し指を添えると、木陰へ誘導し私ごとローブで覆った。
しばらくすると園内の見回りの人が通り過ぎていった。見えなくなったのを確認するとフードをとり、「こういう事」と言いたげに私に微笑んだ。
少しかっこいいと思ったら今度はかわいい表情を見せる。
ケイは本当にずるい私の騎士だ。




