友だちというのは難しい…
近頃は本格的に暑くなり、朝でも少し歩けば汗が出てしまう。
しかし木陰に入ると涼しい風と草木の音色が感じられ、暑いのも一興に思わせられる。
今日はいつも以上に天気が良くて気持ちがいい。
カトレアさんとも友だちになれて、今日は何かいいことがありそうな予感がする…!
「ユ~~リ~~ア~~~さぁぁ~~~~~んっ!!」
「きゃあっ!!カ、カトレアさんっ!?」
私を呼ぶ声の方向へと振り向こうとすると、満面の笑みを浮かべたカトレアさんが後ろから盛大に飛び込んできた。
「おはようございますユリアさん!ケイさんも!今日はとても良い晴天に恵まれて、まるで私たちの新たな一日を祝福してくれているようですわね!!」
え、なになになに、この人だれ!?
カトレアさん、よね…??
いくら新しく友だちになったからって、少し前まであんなに偉そうで…私には微塵も興味なさそうにしていた人が、本当に別人じゃない!!
「ユリアさん、お顔が優れないようですが何かございまして…?まさかお体調がっ!!一大事ですわ!早く保健室に!!」
「だ、大丈夫ですからっ!私は何ともないのでどうぞ落ち着いてください!」
「本当ですか?何かございましたらいつでも私に仰ってくださいませ!私たちは『お・と・も・だ・ち』なのですから!」
ぐぅっ……やっぱり最近まで特に苦手意識があった相手ということもあってなかなか慣れそうにない…
この後カトレアさんは教室に着くまで私と腕を組んだままだった。
私はカトレアさんが一時的に友だちになれたことに高揚しているだけだと思い、初めこそ驚きはしたもののすぐに平常時に戻る、そう思っていた……
しかしこの調子は数日続き、その間少々不満気な様子を見せていたケイがあるときカトレアさんの前に立った。
「カトレアさん。ユリアと仲良くしようとしてくれるのは私としても嬉しいです。ですが私のユリアが困っている顔をしているのに見過ごせません。友人であればもう少しユリアの気持ちも考えてください」
「ケイ…っ」
「そんな…ユリアさんは迷惑に思われていた…。ですのにわたくしは、ユリアさんのお気持ちも考えず自分のことばかり…お友だちなのに…っ…」
カトレアさんは下を向き肩を震わせる。
ケイもこの反応には予想外だったようで、顔に若干の焦りが出ていた。
「お友だちとして失格ですわぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
カトレアさんは教室から勢いよく泣いて飛び出していった。
「悪ㇼな~、カトレアは昔から不器用なところがあってさ~」
「イヴちゃん…」
「あいつも悪気はなかったんだ。だから許してやってくれないか?」
このとき、私は今のカトレアさんがどこかほんの少し前の自分に似ている気がした。ケイと仲良くしたい、でもどうしていいか分からなかった私に……
「ありがとう、イヴちゃん。私、カトレアさんを追いかけないと!」
「ユリア。カトレアさんはもしかしたらあそこに…」
ケイの一言で私は心当たりがある場所がふと脳裏によぎった。
その場所に向かうとカトレアさんが椅子に座って下を向いていた。
「カトレアさん……?」
「はっ…っ……ユリアさん…ここ数日ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。わたくしったら、あまりの嬉しさについ舞い上がってしまいましたわ。私はもはやユリアさんとお友だちの資格は…」
「カトレアさん!」
私はカトレアさんの手を取った。
「友だちでいるのに資格とか必要ないの!私も学園に来るまで友だちと呼べるような人はいなかったから、カトレアさんとの付き合い方がよく分からなかったの。だから自分を責めたりしないで、これからも仲良くしていきましょう?」
「ユリアさん……、ユリアさぁんっ!!ありがとうございます…このようなわたくしですが、これからもよろしくお願いいたしますわ。ユリアさん、大好きですっ!!」
ふぐっ…!だ、だからカトレアさんはハグが強いのよ!……苦しい…
陰から様子を見ていたケイも近づいてきた。
「カトレアさん、私も思わず強く言ってしまいました。ごめんなさい…」
「いえ、ケイさんは何も非などございません。よろしければ、ケイさんもわたくしとお友だちになっていただけませんか?」
「はい、もちろんですカトレアさん。でもその前に…『私の』ユリアを離してもらえませんか?」
ケイがにこやかな表情で私の腕を掴み引っ張ろうとすると、カトレアさんは私をハグしたままケイに抵抗するように後退りした。
「申し訳ありませんが、もうしばらくこのままでいさせてください…ユリアさん、柔らかくて良い香りがして可愛らしくて…はぁ…抱擁が癖になりそうですわぁ…」
カトレアさんは私の頭を撫でながら頬擦りした。
この間、ケイの顔には苛つがき見えていた。
いつも温厚なケイが苛ついているのを見るのは初めてかもしれない。
「カトレアさん…確認ですがユリアとはあくまで友人、なんですよね…?」
「えぇ、ユリアさんはわたくしの大事なお友だちですわっ!」
その後もしばらくカトレアさんは満面の笑みで私を離さなかった。




