波乱の幕開け
「初めまして皆さん、私はこのリーリオン学園学園長のゾーイです。今日、このとき、この場にいる計四百人の入園を心より歓迎いたします。皆さんは既に知っているとは思いますが、我が学園では身分や出身に関係なく、全ての女性に門戸を開いています。故に、全生徒は平等な関係であり、学年の違いを除く一切の階級区分を認めません。私たち教員も誰であろうと一生徒として隔てなく接し、皆さんの学園生活を支えますので、どうぞ存分に自身の成長に励んでください。これから皆さんの学園生活が有意義なものになることを私たちは願っています」
学園長の挨拶が終わると盛大な拍手の音が会場に響き渡った。
その後各担当講師と学園歌の紹介、そしてメインの晩餐会が行われた。
真っ白なテーブルクロスに空腹でなくても食欲を刺激させられるような香りを放つ豪華な料理が次々と運ばれ、目の前が彩られていく。
全ての料理が出揃うと会場にいる全員で感謝の祈りを捧げる。祈りが終わると、みんな思い思いに料理へ手を伸ばした。
さて、私も頂くとしよう。
まずは目に飛び込んでくる肉!といきたいところだが、その前に軽くサラダをお腹に入れ、これから負担がかかる料理を食すという合図をする。
そして飲み物で残ったサラダの味をリセットし、いよいよお待ちかねの肉!
ビーフステーキの上から香ばしくも重いイメージを感じさせないソースの香りが、早く食べろと言わんばかりに強く主張してくる…
それでも私は口に入れる前の過程も楽しむ。
一口サイズにカットする際に肉の弾圧を確認して、口に入れた時のイメージを膨らませる。
そして口へと運ぶまでに肉の僅かな揺れと近づいてくる香りに高揚感をピークにまで上げて…………ぱくり。
はぁ~~~っ!!ステーキなんてここしばらく食べてなかったから余計に美味しく感じるわ~~!
あぁいけない、手が止まらない…。
せっかく体づくりのために控えていたのに~!
「ふふ、ユリアってば、とても美味しそうに食べるね」
ケイは頬杖をついて何か面白いものを見るかのように私を眺めていた。
ケイが視線を移した先に私も見ると目の前の子が、それだけじゃない、周りにいた子たちが私に注目していた。
そしてみんな、私の食べる様子を羨ましそうに目を輝かせていた。
「……ユリア様、とても美味しそうに召し上がるのですね!思わず見惚れてしまいました!!」
「私も…!ユリア様の上品さについ目を引かれてしまいましたわ!!」
「…どうも、ありがとう……?」
予想外の反応に驚いてしまい、何故か疑問形で返答してしまった。
「あの、もしよろしければ私とお友達になっていただけませんか…?」
「ずるい!私もぜひユリア様と……!」
二人は前のめりになって私に友だちになるように頼んできた。これに便乗したのか、後から次々と私と友だちになりたいと声を上げる子たちが集まってきた。
まさか、こんなことが起こるとは誰が予想できただろうか。
私に友だちと思えるような存在は今後ケイだけだろうと思っていたはずが、今、会ったばかりの子たちから友達になりたいと言われている。
それも2、3人どころではなく大勢。
夢だと疑いたくなるような出来事だけど、現実なんだ…!
「わ、私のことは…ユリアと呼んでもらっていいわ…。それと、敬語とかも大丈夫よ、私たち同じ学年の仲間なんだからっ…!」
「……っ!!よ、よろしくねユリアさん!」
みんないい子みたいでよかった…。
最初はあれだけ来たくないと思っていたけど、ケイの言う通り実際に来てみないとこんなことわからなかった。
少し緊張がほぐれ、肩を撫で下ろすとケイが「よかったね!」と耳もとで囁いた。
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晩餐会が終わり、私たちは寮の部屋に戻ろうとしていた。
明日からいよいよ本当の学園生活が始まる…頑張らないと!
私がこれからの生活に意気込んでいるのとは対照的にケイは少し暗い顔をしていた。
さっきまで落ち込んでいるような様子は見られなかった。
急にどうしたのだろうか…
「ケイ?元気が無いようだけどどうしたの?」
「うん……自分たちのクラスが明日貼り出されるよね。それでもし私とユリアが違うクラスだったらどうしようって…」
そうだ、すっかり忘れていた。
私たち、もしかすると別々のクラスになってしまうんだった……。
晩餐会で友だちがたくさん出来たとはいえ、やっぱりケイが傍にいないと不安だ。
もしクラスが離れたら、私はケイがいない場所でちゃんとやれるかどうか……。
「ユリア…クラスが離れても、私の事忘れたりなんてしないでね?」
「もう、大げさよ。クラスが別になっても休み時間には会えるんだし、それに寮に戻れば嫌でも会えるわ」
そうよ、別に遠くに行ってしまうわけでもないんだし、これくらいで滅入っていたら鍛錬の意味が無いってものだ。
「ユリアは前向きですごいね、ますます好きになったよ」
ケイは寮へと続く道の真ん中で私を抱き寄せた。
「ちょっとケイ!こんなところ誰かに見られでもしたら恥ずかしいわ…!」
誰かに聞かれないように小声で訴えたが、ケイは抱きしめる腕の力を強めた。
「ふふ、大好きだよユリア…」
「お~っ!見せつけてくれるじゃん!!!」
「まったく、東の国では公で抱き合うことが普通なのかしら…はしたない」
校舎側から歩いてきた2人の生徒が、突然私たちを煽るような言葉を投げてきた。
「ちょっと!急に声をかけてきたかと思えばいきなり失礼じゃない!しかも私たちの国をバカにして…許せないわ!あなたたち、名を名乗りなさい!」
すると、さっきから騒がしい方の子がさらに笑顔になった。
「いいよ!私はリル・デ・ノーブレットっていうんだ!で、こっちが姉ちゃんの…」
「……クロエ・デ・ノーブレットよ………」
ノーブレットって…まさか、西の国の…!
二人とも金髪で、リル王女はショートボブでくせっ毛、クロエ王女は腰まであるロングストレートで少し動く度に髪が揺れる。
どちらも人形のように肌が白くて可愛らしく美しいが、姉妹で性格かなり乖離しているようだ。
しかしそんな姉妹とこんな形で初対面とは、私もつくづく運が悪い。
初めて会ったけど、この姉妹……特にクロエ王女はカトレア王女より苦手かもしれない……。
「二人の話は聞いてたから会えて嬉しいよ!握手握手~!」
リル王女は私たちの手を握ると大きく縦に振った。
強く振られ、握った手が赤くなった。
「ねえねえ!二人は結婚するんでしょ??いいないいなー、話聞かせてよ!初めて会った時のとかさー!」
リル王女は目を輝かせながら私たちに詰め寄り、質問の集中砲火を浴びせる。
「何をしているのリル。私先に戻ってるから…………」
それを横目にクロエ王女は少し通り過ぎたところで、冷たい声で呼びかける。
「あ~ん!ちょっと待ってよ姉ちゃん~!」
くっ……!人を散々煽っておいて帰るですって……!?
そうはさせない!私にだってプライドというものがあるの!!
「もしかして、私たちが羨ましかったのかしら、クロエ王女?」
私は離れていくクロエ王女に聞こえるように、わざと大きな声で言ってみせた。
「…………なんですって……?」
クロエ王女は静かに振り向き、私を睨みつけた。
放たれるその威圧に臆することなく私は続けた。
「だってそうでしょ?無視すればいいものをわざわざ難癖付けていくなんて、余程あなたの気にしていることにでも触れてしまったようねっ!」
「ちょっとユリアちゃん!あんまり言うと姉ちゃんが……」
「…………いいわ、ユリア・グレース・ルイス。今日からあなたは私の獲物よ。徹底的に潰しにいくから、覚悟することね…!」
後ろであわあわとたじろぐリル王女に目もくれず、クロエ王女は怒りと憎しみを込めて私を睨んだ。




