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二人の出発

「私ね、お母様と話してから考えたんだけど、花の名前を呼称に充てたいと思ったの。どうかしら…?」

「うん、すごくいいと思うよ。もしかしてその花も決まってる?」

「ケイにはお見通しね。昨日の夜ずっと考えたの。お陰で少し寝不足になってしまったわ」

「そっか、そこまで真剣に考えてくれてありがとう、ユリア。ただ……」



 ……?…っっ~~!!



「私が見てないからって夜更かしは関心しないな~」


 ケイは不満気に頬を膨らませ私の両頬を指でつねった。


「そんな夜更かしをするユリアは、私が一緒に寝ないといけないね…」

「ぐぉめんにゃひゃい、ぐぉめんにゃひゃい!!まぅひにゃいから~!!」

「約束だからね~?」


 うぅ、確かに日頃から早く寝るように言われているのに夜更かししてしまったのは悪かったけど……



「私たちの将来のことなんだからいいじゃない…………」


「ん?何か言った?」


「っ……!!な、なんでもないっ!」


 自分の言った事が恥ずかしい事に気づいた時には顔がひどく熱くなっていた。





 後日、私とケイは呼称についてまとめた書類をお父様に渡した。


 書類に目を通すとお父様は満足げな表情で私たちの頭をわしゃわしゃと撫で、「よくやった、ありがとう」とお礼を言った。



 ケイの呼称はローズ、私はアザレア。二人を指す時はアイビーに決まった。



 この呼称の話題が世間に広まるのは数日も要さなかった。

 しかしどういうわけか、国内の同性カップルの間で告白した側がローズ、受けた側がアザレア、その同性カップルをアイビーと指すように浸透していった。


 これを聞いた国側は即座に誤解を解こうとした。

 しかし、私たちとしては問題ないように伝え、最終的に形を変えたまま広まった。


 事態を聞いた当初は私もケイも困惑した。でも自分たちの考えた呼称が使われることに不満はなく、むしろ受け入れてもらえたという嬉しさがあった。


 後日わかったことだが、国民の間で私たちの考えた呼称が浸透したのは単に憧れや面白みで真似たことが原因だとか。





   ☆





 二人の呼称の話は周辺国にも広まり―――――



 ~南の国~


「あらあら、うふふ、面白いことを考えますわ。あなたもそうは思いませんか?」

「すぅー……すぅ…………にゃぁ~…」


 派手な装いの少女が問いかけると、もう一人の少女は膝を枕にして眠りついてた。


「まったく、少し目を離すとすぐ寝てしまうんですから、この子は……。うふふっ、入園が待ち遠しいですわ…!」



 ~西の国~


 一人の少女が広い廊下を足早に駆け、立ち止まった部屋の扉を勢いよく開く。


「姉ちゃん姉ちゃん姉ちゃん!!例のやつ見た!?」

「入るときはノックしろといつも言っているでしょう…」

「この子たち、私たちと同い年だよ!!ねえねえ、私たちも呼び合おうよ!愛してるぜ…愛しのマイシスターッ!!」


 少女は本を読んでいた見た目が瓜二つ少女に抱き着こうとしたが、本でおでこを軽く叩かれた。


「うるさいと言っているでしょ。早く出て行きなさい……!」


 少女は廊下に追い出すと、静かになった部屋にある机上の紙に目を落とした。


「………はぁ、よくもまあこんなものを、ますます入園が嫌になってきたわ……」





    ☆





 入園当日の朝、私とケイはいつも通りに朝食を済ませ、学園に持っていく私物の最終確認をした。


 学園は城から遠い場所にあるため、私たちは寮に入ることになった。

 離れるとはいえ必要なものがあればいつでも従者が学園まで運送すると言われていた。

 しかし、私は出発ギリギリまで自分の本を収めた本棚を前に唸っていた。


 仕方ないでしょ、全部私の大事な宝物で少しでも多くの本を傍に置いておきたいんだから!


 そんな私の様子を見かねたお父様がケイに命令し、私はケイに両腕で抱えられて強制的に馬車に乗せられた。

 私は必死に抵抗したが、ケイにはほぼ効果がなかった……。




 そして今、私はケイを睨みつけている。


「あれは仕方なかったんだよ…。お願いだから機嫌なおして、ね?」

「ふんっ!ケイはお父様の命令ならアザレアである私の言う事もお構いなしなのねっ!」


 ケイは困ったような顔をしながら私に説得を試みる。


「うーん、どうしたら許してくれるかな……?」


 正直、私はケイに対してもう怒ってはいない。

 けど、普段困った顔を見せないし、何だか最近、ケイといると胸のあたりがモヤモヤしたり、チクチクしたりしていた。だから少しケイを困らせてやりたかった。


 これがどういう感情なのか私にはまだはっきりとわからない。でもケイともっと一緒にいたい。もっとケイに触れたいと思ってしまう。



 だから……




「え、いまなんて………?」


「……だから、私が好きってこと、証明してよ……」


 ケイは驚いた表情でしばらく固まった。


「ユリア、私にそんなこと言って、どうなるかわかってて言ってる……?」


 ケイはゆっくりと私との距離を詰めてくる。


「それは、その……」



 私は必死に言い訳をする言葉を探し、そんな私の姿にケイは溶けそうな目を向ける。

 私の髪を耳にかけ、優しく頬に触れながら顔を自分に向けさせる。



「ふふ、赤くなってかわいい……好きだよ、ユリア……」


 ケイは静かに私と唇を重ねた。


 前に一度した筈なのに妙に緊張して、瞑っていた瞼に力が入る。

 目じりがぴくぴくと動き、唇は小刻みに震えていた。

 ケイはそっと手を取り、頬から頭の後ろに手の位置を変え唇をやや強めに押し付けてきた。


 触れている間、鼻呼吸したくても鼻息がケイに当たってしまったら恥ずかしい。そう思い私はほとんど息を止めていた。


 しかし、流石に息を止めるのにも限界が近づき、思わず握る手が強くなる。

 ケイはこれを察してくれたのか、顔を離した。


 ほぼ息を止めていたから正直結構きつかった。そのせいで顔も熱いし涙も出そうになった。

 でもそんなことどうでもよく思えるほど触れている時間が幸せに思えた。

 今もどきどきしている。これは呼吸の荒さによるものなのか、嬉しさによるものなのか。



 また、したいかも……。



「ごめんユリア、辛かった?」

「ううん、大丈夫………」


 心配そうに私の顔を伺うケイに軽く笑顔をつくり誤魔化した。

 ケイは手を握ったまま隣に座り抱き寄せた。


「私の事、許してくれる?」


「……うん、私もわがまま言ってごめんなさい……」


 ケイはいつだって私に優しく、私の事を想ってくれる。今はとりあえずそんなケイに甘えたくなった。


 私はケイの肩に頭を預け目を瞑った。

 ケイは何も言わずに私が眠りにつくまで頭を撫で続けてくれた。


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