王様の悩み事
俺はアルバート・ノア・ルイス。一応一国の王だ。
俺には最近悩み事がある……
「はい、ユリア、あ~ん」
「もぅ、お父様の前で恥ずかしいわ……あ、あ~ん」
あ、あのユリアが受け入れた!?
「ほら、口開けなさい………アーン」
しかも自分からも……!!
「アーン…………うん、美味しいよ。ありがとう」
一体何がどうなっているんだ。
少し前までケイが食べさせようとしても、怒って全力で避けていた。それが俺の前でも仲の良さを見せつけるほどに……。
「……なあ、お前たち」
二人は手を止めこちらを見る。
「旅行から帰った辺りから、その……随分と仲が良くなったんだな……」
聞いた瞬間、ユリアの顔が一気に赤面していった。
「お、お父様!?ききき急に何をっ!!」
ユリアは慌てた様子で席を立った。
「いや、旅行前までは静かに食べていただろう。それが今は………旅行で何かあったのか?」
「なっなにもなかったわよっ!!ねぇケイ、そうよね!!?」
「そうだね、『二人で』仲良く旅行しただけだよね」
二人の部分が強調された、何か意味を含んでいそうな言い方に思わず口の中のコーヒーを吹きかけた。
「ちょっとケイ~~!!」
「え、私何も間違った事言ってないよ?」
「そうだけどそうじゃないのっ!!!」
旅行に同行させた騎士たちの報告では、ユリアたちは充実した時間を過ごしたと聞いていたが、想像以上に距離が縮まったようだ。
まさかユリアたち、12の歳にして一線を越え―――
いやいや、考えすぎだ。第一、今でも顔を真っ赤にして動揺しているユリアがそんなことをするとは考えにくい。
だからといって将来的に結婚が約束されている二人だ。今から仲が深くなることに越したことはない。ただ段取りが早いだけのこと……。
だがしかし、二人は一般の子でいうところのまだ初等部だ。
ここは一人の父親として……
「仲がいいことに越したことはないが……ほどほどに、な……?」
ユリアの顔はイチゴを思わせるほどに赤面し、そんなユリアの頭を撫でながらケイは微笑む。
すっかり夫婦仲だな……
そうだ、あれも聞いておかなければ。
「ついでに話しておきたいことがある。今はとりあえずでケイを婚約候補と呼称しているが、そろそろ適した呼称を決めないといけない。だがこれがなかなか決まらなくてな~、悪いんだがお前たちからも案を出してもらいたい」
ユリアはのぼせたように椅子にもたれかかっており、代わりにケイが真剣に話を聞いている。ケイよ、本当にユリアのこと頼んだぞ…とケイに託すように言葉に重みを入れる。
「あの、そのような重要な事を私たちが決めて本当によろしいのでしょうか…?」
「会議で議論を重ねたところで今の調子では決まるのは数年後だ。それに、お前たちならきっといいものを作ってくれそうだからな」
それに候補者を身分の関係なく集めた時点で異例なんだ。今更呼称を誰が決めたところで大した問題でもないだろう……
「それじゃあ頼んだぞ、ケイ!あ、あとユリアのこともな…」
「はいっ!」
ケイは力のこもった返事で忠誠の構えをとった。
ケイは本当によくできた子だ。自分で認めたとはいえ、こんな子がユリアのパートナーで嬉しい一方で、隣で虚空に顔を向けているユリア…。
がんばれよ、ユリア……。
俺はケイと対照的な姿のユリアを見て涙をこらえ、食堂を後にした。
自室に戻るとエメラダがソファーに座っていた。
「ねぇ、ユリアは今のままで大丈夫なのかしら…」
「ん?どういうことだ?」
「12になってからあの子に色々と無茶をさせているんじゃないかって。前なんて手の甲に擦り傷があったわ。もしユリアが無理にやっているのだとしたら、私…」
相変わらずエメラダは心配性だ。
「そうでもないみたいだぞ」
俺は下を向くエメラダの横に座った。
「確かに聞く限りでは不満を言っていることも多いようだ。だが、ケイが傍にいることでユリアは今も逃げずに頑張れている…。ケイと出会ってから、ユリアの笑顔が増えたようにも感じる。いや確実に増えた。あれはケイ・イリアス・ベルカという少女の存在あってのものだ」
「えぇ、そうね」
「心配する気持ちもわかるが、もう少しユリアを、あの二人を信じてみないか?」
そうだ。俺たちは王女である以上に一人の大事な娘として、いつもお前の事を見守っているからな…頑張れよ、ユリア……そして任せたぞ、ケイ…!




