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結婚前夜

 結婚式の延期により、諸外国の要人らも一時的にそれぞれの国に戻ることとなった。

 当然クロエさんやカトレアさんたちもそれぞれの公務などがあるため同様に戻っていった。


 結婚式の延期については、エリザとお婆様の企てによるもの……

 ではなく、ケイの体調不良ということで理由になった。


 でも二人の処罰はなくなった訳ではなかった。


 エリザに関しては国家反逆罪、不敬罪、脅迫罪……などなど、

 幾つもの罪をつけられ、具体的な処罰が決定されるまでの間地下牢に閉じ込められることとなった。


 お婆様は女王の座とその全ての権利の剥奪。

 王の地位と全権はお父様に帰属され、特別な理由がない限りは王都への出入りを禁止された。




 お婆様が城を出る時、どんな顔をして送り出せばいいだろうと悩んだ。

 城にいるお婆様の姿を見るのは実質その日が最後だったから……。

 

 

 しかしその悩みは、驚きの表情で結果がついた。

 お婆様は悲しむどころか、笑顔だったのだ。



 そしてお婆様の隣にはヘンリーさんの姿があった。



 どういうことか説明を求めると、城を出る前日にヘンリーさんと共に暮らすことが叶ったそうだ。

 驚きで言葉を失う私にケイが耳元で囁いた。

 言われた通り見てみると、見つめ合う二人の左手の薬指には、同じ指輪があった。


 そう、お婆様が笑顔だった理由は、そういうことだ……。

 

 二人は号泣するイリアスさんに見守られながら、

 城内の聖堂で静かに取り行ったという。



 長い時が流れてしまったけれど、最後には愛した人と一緒になれて嬉しくない人なんていない……。

 私達はイリアスさんと共に、馬車に乗って城から去っていく二人を見えなくなるまで笑顔で見送った。




 ~~結婚式前日の夜~~


 

 あの騒動から二週間。

 ケイの怪我も完治し改めて結婚式の日程が決まったのだ。


 昼間は大教会で本当の儀式をしたけど、警備の数が尋常じゃなかった……。

 そのせいで終始集中できなかった……。


 あんなことがあった後とはいえ、お父様も極端が過ぎる。

 お母様も顔を合わせる度に私とケイの体調を聞いてきたりして、

 元々の心配性の性格に拍車がかかった。

 二人が前のようになるまでにはしばらく時間がかかりそうだ。



  

 いよいよ明日、今まで私とケイが待ち続けてきた結婚式。

 今度は本当に行われる。

 

 会って間もない人とするわけでもないのに、『結婚』というだけで体がざわついて落ち着かない。

 目にクマを作るわけにもいかないからと早めにベッドに転がったけど、落ち着かない状態で眠れるはずもない……。


 活字を読めばそのうち眠気が来ると思い部屋にある本を読み返しても、内容が頭に入らなかった。

 しかもこういう時に限ってケイはいない……。

 

 

(もぅっ! どこに行ったのよ私のローズ様は!!)



 膝の上に置いていたクッションをベッドに向かって投げつけた。

 最近は外の気温も下がってきて余計に温もりが恋しいというのに……。

 

 

(っ…………)



 ふと窓から入る光に目を向けると、夜空に大きな月が浮かんでいた。

 前にケイが月を見上げる理由を聞いてからは、私も月を見上げるのが好きになった。

 私が月を見るのはケイと同じ理由ではなく、ケイが好きなことを私も好きになりたかったから、それだけだ。


 

 気づけば私は外に出ていた。

 風が冷えた空気を肌にかすらせ、私の体温を奪っていく。

 何も考えずに外に出てしまったから薄着で来てしまった。

 月も雲で隠れてしまったし、そろそろ戻ろ―――――――



「んっ――――!」



 その時、強い風が吹いた。

 思わず目を瞑り、手で髪を押さえた。

 風を背中に受け城がある方向に体を向けると、大きな岩の側に一つの人影があった。

 


 こんな夜更けに誰だろう……

 暗闇でよく見えない中、恐る恐る少しずつ近寄った。



 すると、さっきの風のせいか雲の流れが速くなり、

 雲の裂け目から大岩の所に月明かりが照らした…………

 


「ケイッッ!!」


「ユリア……っ。こんな時間に出歩いたらダメじゃないか」


「その言葉そのまま返すわよ! 明日の事で眠れなくて困ってるのに、ケイったら部屋にもいないんだからっ」


「ごめんね。月が綺麗だったから直接見たくなって」


 

 月明かり照らされ風になびく背中に束ねられた黒髪が、

 私の中で何かを思い出させようとしているのを感じた。



 何だろう。さっきから変な感じがする。

 前にも今と同じようなことがあったような……



「ユリア、大丈夫?」



 考え事から意識を戻すと、目の前にケイの顔があった。



「きゃっ! も、も~びっくりしたじゃない!」


「何を考えてたの?」


「べ、別に。何でもないわっ」


「ふふっ、そんなこと言わずに教えてよ、ユリア……」



 甘く優しい言葉をかけながら、ケイは私のあごを指ですくい顔をさらに近づけた。

 少し前に動かせば唇が触れる距離……。



 そうだ、思い出した……! 

 今の状況はケイと初めて会った日の夜と同じ状況!


 あの時もケイに同じことをされて、そのまま……



 あの時は突き飛ばしてしまったけれど、

 今はあの時とは違う……



「っ…………!」



 私は少しかかとを浮かせ、ケイの唇にそっと当てた。



「さっき私をびっくりさせたお返し……っ」


「あはっ、これは予想外だったな。ユリアからしてくれるなんて」



 ケイは嬉しそうに私の腰に手を回し、額を合わせた。



「これからも、ずっと、ずーっと一緒よ、ケイ…………」

 

「うん。この温もりがいつでも感じられるように、君の側に添い遂げるよ、ユリア…………」

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