秘密の理由
「状況は把握していますわ。しかし、よくもわたくしのユリアさんをここまで痛めつけてくれましたわねぇ、あなた……」
「いやいやっ、ユリアはお前のじゃないからな!!」
カトレアさんとイヴちゃんがどうして、
到着は明日になるって聞いていたのに。
それに状況を把握してるって、カトレアさんたちはいなかったはずなのに。
カトレアさんは周囲に倒れる騎士たちを見回したあと、
壇上で腹を地面につけ何とか顔を上げているケイに目を移した。
「まともに水と食料を与えられず地下に閉じ込められていましたのに、たったお一人でここまで……ほんと、同じ人間であることを疑いたくなりますわね」
少し微笑すると一息つき、立ち上がろうとするエリザに銃を構えた。
「エリザ・ハウブリッド。わたくしたちの友好国であるこの国を混乱に陥れようとした国家級犯罪者として、あなたを処罰いたしますわ」
微笑した表情は変えず、落ち着いた調子で話し、
ぶれることなく真っ直ぐに銃口を向ける。
その姿に初めてカトレアさんを恐ろしいと感じた。
代理とはいえ今のカトレアさんは一国の女王。
それゆえなのか元々の性格によるものなのか分からない。
自信と冷静さを備えた今のカトレアさんは、まさしく女王に相応しい。
カトレアさんが味方で良かったと心から思う。
今更だけど、カトレアさんといいクロエさんといい、
私はとんでもない人たちと今まで一緒にいたんだ……。
「犯罪者だと……ふざけるな!!! 真の犯罪者は今の王家ではないか!!!」
「? あなた、何を仰って……」
「先祖が光ある未来を築こうとしていた裏で、当時側近だったルイスの先祖は狙っていたかのように先祖を殺したのだ!!!!」
はて……?
と、首を傾げるカトレアさんはお婆様に顔を向けた。
「ご機嫌麗しゅうございますわ、デイジー女王。挨拶は後程改めてさせて頂くとして……」
瞬間、カトレアさんの雰囲気が変わった。
「悠久の友として聞く。良いのだな……?」
「…………えぇ」
お婆様は数泊の後に答えた。
今の簡潔な問答は何だったのだろう。
でも、何か大きな秘密の鍵が開かれたような気がする。
永年に渡って誰にも知られなかった、
誇りを被った箱がゆっくりと開いていくような……
「エリザ。貴女の先祖であるホーリー女王は民に慈愛深く、如何なる時も、その底なしの寛大な心であらゆる人を包んだ。そうよね?」
「あぁ、そうだ。それを貴様らの先祖が殺したんだ!!!!」
お婆様は静かに首を振った。
「では、ホーリー女王は生まれ持っての持病を抱えていたという話は聞いたことはあるかしら……」
「…………何、を……」
「ホーリー女王が当時の西国との大戦を憂いて、動き出そうとした矢先に持病が悪化したの。そしてホーリー女王はそのまま……」
「嘘だ…………嘘だ噓だ噓だぁっっっ!!!!! それ以上デタラメをほざくなら今ここで貴様を殺す!!!!!」
「デタラメではありませんわ」
横からカトレアさんが入ると、
興奮状態のエリザに銃口を向けたままゆっくりと近づいていった。
「かつてホーリー女王と親友の仲にあったわたくしの御先祖もそれを把握しておりました。
しかしホーリー女王は持病について王家の方々に一切情報を明かさなかった。
では一体何故なのか…………」
カトレアさんはお婆様に目配せをした。
「『家族に悲しい顔をしてほしくない』それが、ホーリー女王が隠すことを望んだ理由よ……」




