前日祭の幕引き
「く……!!貴様、どこの人間だッッ!!」
ローブの人間は投げられた問いにも答えず、周りの騎士たちまでも同時に相手にしながら着実にこちらに近づいてきていた。
大教会の中が声や音が反響し騒然とする中で、私を呼ぶかわいらしい声が近づいてきた。
「ユリアちゃん!大丈夫っ?」
連れの護衛騎士たちと壇上に上がってきたリルは心配そうに私の手を握った。
「ええ、私は大丈夫よ。それより……」
「うん。誰なんだろう、あれ……」
顔はフードで隠れていてここからでは確認できない。
ここにいる騎士たちは部隊の中でも上位クラスが揃っていたはずなのに、その圧倒的な強さで、一人、また一人と倒していく。
誰ともわからないローブの人間。
私たちの味方なのか、それとも……。
ここにはお父様やお母様、それにリルだっている。
いくらクロエさんが強いからって、私と同じ王女なんだから、頼るわけにはいかない。
数多くの王国騎士がいたにも関わらず他国の王女様に助けてもらっただなんて外の世界に知られれば、国と王家に対する忠誠と信頼が失墜する。
結婚のこともあるけど、今はあのローブの人間を何としても止めないと!
「っ――――!」
クロエさんが私の肩に手を置いた。
こんな荒れ乱れた状況なのに、その顔は妙に落ち着いていた。
「ユリアさん、もう安心しても問題ないわ」
「クロエさん?何を言って……」
戸惑う私にクスッと笑うと、フードの人間に目線を移した。
「ほら、あのしなやかな剣の動きと、まるで羽が生えているような軽やかな身のこなし。あなたが一番に見覚えがあるはずよ……」
言われて私も前を向いた。
すると自然にケイとの思い出が浮かん、で…………
ああ……本当だ…………。
今まで何度も見てきた光景が目の前にある……。
動きが目で追えなくても、次はどう動くのかがわかる……。
顔が見えなくても、思い出の中で何度も同じ動きを誰よりも近くで見せてくれた、世界でたった一人の人…………。
「…………ケ……イ…………っ……!!」
口が勝手に動いていた。
その名を口にすると一気に世界がぼやけ、体を支えていた足は脱力した。
悲しさ、寂しさ、悔しさ、嬉しさ……
色んな感情が入り混じり、ただ泣く事しかできなかった。
リルはそんな私をそっと抱きしめてくれた。
次第に耳を荒らすような音は消え、金属のようなものが落ちる音が聞こえた。
そして、歩み寄ってくる足音が、地面に顔を下げる私の前で止まり、影を作った。
「遅くなってごめん…………迎えに来たよ、ユリア………………」
私が顔を上げるとフードを取り、膝を折って目線を合わせた。
フードを取ったのは何となくわかっても、視界がぼやけて顔までははっきり見えなかった。
それでも目の前にいる人間が誰なのかははっきりとわかった。
「ケイッッ!!!!!!」
私は強く、強く抱きしめ、その後ろで自分の手を結んだ。
「もうどこにも行かせない!! ケイがまた連れて行かれそうになったら私も行く!! 殺されるって言うなら私も一緒に死んでやるんだからっっ!!!!!」
しがみつく私の手をゆっくりと解き、ケイは私の肩に手を置いた。
「ふふっ、気持ちはものすごく嬉しいけど、もう二度とユリアからは離れないし、ユリアを危険な目に遭わせないよ。このキスに誓ってね……」
長らく触れてなかった懐かしい感触。
そして今キスをして、乾いていた世界に潤いが戻った。
「ケイ、私……」
「大丈夫だよ。さあ、早くこの前日祭を終わらせて、私たちの結婚式を挙げよう!!!」




