それぞれの思惑
檻の外から聞こえてきた足音にケイは顔を上げた。
「住み心地も随分とよくなっただろう、ケイ・イリアス・ベルカ」
ニヤつきながら近づいてきたのに便乗して、ケイも小さく歯を見せた。
「ああ、ひんやりとしていて眠る環境として悪くないよ」
ケイの反応はエリザが期待していたケイのそれと違った。
ケイはひんやりと言うがそれは床や壁が石だから。
実際は枕や毛布などない、ロウソク一本の灯りと時間が止まったように静かな異様な場所。
常人なら泣きわめいて解放を懇願するような場所におよそ一週間いるにもかかわらず、悠然とした態度で振舞うケイ。
ついさっきユリアに侮辱され、思わぬ来訪者が現れ、そしてケイに舐められたように感じたエリザは腹の底から一気に沸きあがったものを足で柵にぶつけた。
「貴様らの如きの雑種が何故私の上を行くことがあろうか!!否っ!!断じてあるはずがない!!!私が、私こそが人の上に立つべき唯一の存在なのだ!!!貴様らが笑みを浮かべるのも今だけのこと。私を侮辱したことを大いに悔いるがいいっっ!!!!!」
怒りの言葉を吐き散らしたエリザは最後にもう一度柵を蹴り、その場から立ち去って行った。
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~~女王の部屋~~
椅子に座る女王の前でエリザは片膝を床につけ、頭を下げていた。
「女王様、これからの件ですが…………」
「ええ、わかっています。あなたならきっと良き指導者になれるわ」
「こっ……ありがとうございます……」
ここで近くにいた使用人が女王に耳打ちをした。
「それではユリアを頼みましたよ、エリザ」
「お任せください…………」
女王は使用人や騎士たちを連れ部屋を後にした。
エリザは広い大部屋に一人だけ残された。
廊下から気配がなくなったのを確認すると、振り返り、ゆっくりと椅子に向かって歩き始めた。
そして体重に身を任せて腰深く座り、肘をつきながら足を組んだ。
「もうすぐ…………あと少しだ…………」
☆☆☆
「ユリアさん、今伝えた通りに事を運ぶの、できるわね?」
「わかりました……。でも私、クロエさんほど心の強さがないですし、ケイ以外の人となんて耐えられるか…………」
「わかる。すーーーーーーっごくわかるよユリアちゃん!!私は頼りないかもだけど姉ちゃんがいるから安心して!!私もできることは何でもやるから!!!」
両手で手を取り熱意を伝えてくるリルにユリアの口元は僅かに綻んだ。
「あーっ!ユリアちゃんやっと笑った!よかった~~」
「緊張がほぐれたようね……」
リルたちのおかげでもう一度笑顔を作れたことで、二人への感謝の気持ちを噛みしめていると、クロエがユリアの肩に手を置いた。
「ユリアさん。ここから、ここからが本当の勝負よ。ユリアさんとケイさん、二人の思いの強さが物事を大きく動かすわ。そして全てが終わったら、誰も見たことのない最高の結婚式を挙げなさい……!!」
クロエの力強い言葉に目から熱いものを感じながら、ユリアは覚悟を決めた。




