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女王の帰還

 パルデ王国から戻り馬車を降りると、私は城内に全力で走った。

 帰りを迎えるメイドや騎士たちに見向きもせず、ケイさえも後方に置いて息を切らした。


 上階へと続く階段を駆け上がり、その大きな扉を開ける。





「お婆様っっーーー!!!!」


「あぁユリア、しばらく見ない間にこんなにも立派に成長したのね……。成長したあなたの姿が見られて本当に幸せだわ…………」



 お婆様は今までの状態が嘘とでも証明するようにしっかりと話し、ひとりで立っていた。

 


「ユリア、()()()をあまり無理させるわけにもいかないから、話はあとでゆっくりしなさい」

「エメラダさん、見ての通り私はもう何も問題ないのよ」

「何を言っているんだ母さん。つい数日前にようやく立てるようになったばかりじゃないか。ここで虚勢を張って元に戻ったらどうする……っ!」


 

 お父様とお母様は眉をひそめてお婆様を説得する。

 そんな二人を見て、お婆様は呆れたようにため息をついた。



「ユリア、あなたの両親は揃いもそろって心配性ね……」


 

 お婆様は私を見て、少しの間のあと、一緒に笑いをこぼした。




        ・

        ・  

        ・




 お婆様は私が幼い時に病を患い、王都から離れた療養所にいた。

 一時は病も治りかけていた。

 しかし、闘病期間中の弱っていた体に新たな病が襲い、療養所の生活がさらに伸びた。


 病はお婆様の体をむしばみ、ついには立つのも困難なほどに陥った。

 それ以降、周囲の人やお父様たちでさえ回復に希望を見いだせず、最悪の場合を想定して物事を進めた。


 その結果お父様は歴代としては若くして国王となり、女王だったお婆様の人望を損なわないようにと奮闘し、今に至った。


 

 そしてお父様の人柄が世に知れ渡り、私が12歳になった後は、現在の通りだ。




「ケイ、もしかして緊張してるの?」



 私たちは女王室に向かって廊下を歩いていた。

 ふとケイを見ると、表情と拳を固くして、いつもの悠然としたのと比べて不自然な歩き方をしていた。



「だってデイジー・ルイス王女と言えば、国同士の争いをいくつも収めて、乱れた国勢を正したという王女にして功労者じゃないか。そんな御方と対面するんだから、緊張するなと言う方が無理な話だよ……」



 気を置いた状態のケイは、廊下を曲がる度にため息をついた。


 こんなケイを見るのは珍しい。

 今までにないくらいに緊張したケイをもう少し見ていたいけど、今はしっかりしてもらわなければ。


 なぜなら、お婆様に私の婚約者であることを紹介するのだから。



「さあ、開くわよ」

「う、うん……っ」



 扉が左右にゆっくりと開き中に入ると、式典などで今までお父様が座っていた椅子にはお婆様が、お父様とお母様はその傍らにいた。


 こうしてお婆様が女王として座っている姿を見るのは幼少期以来だけど、随分と昔のことだからあまり覚えていない。


 そのため、実感としてはこのお婆様を見るのは初めてに近い。



 お婆様が見下ろす距離に近づくと、ケイはすぐさま片膝を地面につけ、顔を伏した。


 

「お連れ様は随分と緊張されているようね。ユリア、この方を私にも紹介してくれる?」

「うん。この子は私の専属騎士で婚約者のケイ・イリアス・ベルカよ!」

「イリアス…………」



 ケイの名前を言った時、ほんの一瞬だけ、にこやかだったお婆様の表情が曇ったように見えた。

 


「ケイさん、と言ったかしら。貴方のお婆様のお名前はイリアス・フレイラ……かしら?」

「はい……祖母の名はイリアス・フレイラですが……?」



 聞いたお婆様の表情は驚いたように固まり、手で顔を隠した。




「また…………私の邪魔をするの…………イリアス……」




 何か言ったようだったがここまで聞こえなかった。




「ユリア…………ケイさんとの結婚は、私は反対です……」

「っ………!?」

「お婆様…………嘘でしょ?…………どうしてっ―――――」



 お婆様はそれ以上何も言わず、奥の部屋に入っていった。

 その後ろ姿は、何か逃げるように見えた。



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