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奪還

 初めて目にした時には、自分の目を疑った。




 まさかこの世に完璧なほどに美しいという言葉に相応しい人間がいることに。




 そして誓った。




 必ず自分のものすると…………




 

 しかし、思わぬ邪魔が入った。



 平民出身の一回りも年が離れた奴が突如として現れた。



 私ばかりか他の愚族も切り捨て、()()の目的を奪取した。





 私の全てを…………私の全てを…………!!!





 だから、全てを取り戻すため、まず、プライドを捨てた。



 あとは簡単、次に、手段の選択をやめた。



 そんな私の姿を見た周りの人間には、気持ちが悪いなど、悪魔に魂を売ったなどと言われもした。


 

 それでも不思議と苦痛など微塵もなかった。



 むしろ、その目的に近づいているとわかり、愉悦に浸り込んでいった…………




 


 そして、ようやく手にした。



 


 目の前で真っ白なベッドで静かに眠るのは一国の王女。


 その眠る姿は清廉で何よりも尊く、周りにある百合の花でさえ生を与える。

 

 艶やかな髪、透き通るような白い肌……。


 潤いのある唇、絵画の中の人間も思わず下唇を噛んでしまうような愛らしい顔……。


 どれもどれもが素晴らしい…………



 

 指にその髪を通し、香りを楽しむ。





「はぁ………………すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~………………」





 ああ………………脳がとろけてしまいそうなほどに甘美な香り…………




 よだれが…………止まらない…………


 

 



「………………………………おいじいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」






 舌に絡みつく髪が私をさらに狂わせる!!!!


 

 私から離れたくないと言っている!!!!



 私の唾液が髪に浸透していくのがわかる!!!!




 もう無理もう無理もう無理もう無理もう無理!!!!!






「ユリアぢゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――――」








 ――――――っっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!





 

 音のない風が、私の垂れ下がった僅かに髪を仰いだ…………



 扉が開いている…………?

 私は確かに閉めていたはず……。


 外にはベランダがあるが、そこまでには何十メートルもの高さがあり、人はおろか、動物でさえも来ることは不可能。


 

 となると、やはり閉めていたと思い込んでいたか……。



 これからが最高に盛り上がるところだったというのに…………



 

 自分の勘違いに舌打ちをし、ガラス扉に足を進めた。



 と、ここで外の景色が白い光に照らされていく。


 雲に隠れていた月がゆっくりと出てきた。


 なんだ、まるで私たちがひとつになるのを祝福しているようではないか……




 悦楽の境地を噛みしめ、ガラス扉を閉める…………






 閉まりかけたその時、ガラスはいるはずのない何かを、私の背後に映していた………………






 無意識にその場から飛び、転がり起きた。


 私が今いた場所には、無数のガラス片が飛び散っていた。




 ここまで…………どれだけの苦労を強いてきたと思っている……。


 

 私が、どんな思いで身を削ってきたと思っている……!



 私が……お前をどれだけ憎んだと思っている!!!!





「ケイ・イリアス・ベルカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」




「…………次は…………外さない…………」





         ☆      





 目を開けると、薄暗い天井があった。


 手に何か温もりを感じ、目を映すと、ケイが 手を握りながら私を見つめていた。


 いつもより暖かく感じるその瞳は、冷えた体を包んでくれるように感じた。




「…………ケイ……私、怖い夢を見たの…………何かにさらわれて、襲われる夢…………」


「…………でも、もう大丈夫。私がついてるから、ゆっくりおやすみ……」



 ケイは私にキスをした。


 そして、私が寝付くまで手を握ったまま見守ってくれた……。





        ☆





 次の日、アルテ先生が教室の扉を開けることはなかった。


 代理の先生によると、アルテ先生は実は家出をしていた貴族の令嬢だったらしく、強制的に連れ戻されたのだそうだ。


 ケイは事情については何も聞いていなかったようで、残念だね……とだけ言った。


 

 先生が新しくなってからは、ケイから緊張は消え、前までの穏やかな表情が見られるようになった。


 

「さあ、寮に戻ろう、ユリア……」


「うんっ!」

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