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もう逃げ出してもいいですか?

 休日の残り2日は町でショッピングや観光所巡りを楽しんだ。

 途中、ケイのスキンシップが今までよりも多かったような気もしたが、不思議と恥ずかしさよりも嬉しさのほうが大きかった。



 ヘンリーさんには最終日までとてもお世話になった。

 ただ、別れ際にハグをした時に「あなたもこれから大変でしょうけどがんばってね」と言われたのは驚いた。

 まるでこの3日間の出来事を見られていたかのような気がした。

 ヘンリーさんが一体何者なのか少し気になったが、笑顔を見ていると疑念がすっと消えていった。


 たった3日。でもこの休日で私は何かが大きく変わったような気がした。





 ☆





 同時刻、城ではとある重要な会議が行われようとしていた。

 会議場には国全ての議員や大臣、国の有力な貴族、さらに周辺国の外交官らまで顔を揃えていた。

 会場は非常に厳かな空気で満たされ、外では騎士たちの厳戒な警備が敷かれている。



「…………そうか。よし、下がれ」


 使用人から耳打ちで何かを聞いた王は椅子から立ち上がった。


「皆、此度の緊急招集にもかかわらず、欠員なく集まったこと誠に感謝する。さっそくだが本題に入ろうと思う」


 

 王はにやりと口角を上げた。



「議題は、児童教育に関してだ!」



 言い放たれた瞬間、会場はどよめいた。

 王からの緊急招集ともなれば国家レベルの重大な議題だろうと考え覚悟を決める者もいた。

 それが児童の教育に関することと言われれば拍子抜けする者も少なくない。

 当然のように大臣や貴族から説明を要求する声が上がった。


「まあまあ落ち着いて聞いてほしい。我々王族や一部貴族の児童は古くから座学は家庭教師、交流は公務とごく限られた領域でしか活動していない。私はこれを由々しき悪習だと懸念している。そこで!子どもたちの知見と英知のさらなる成熟を目的として、学び舎いわゆる学校へ所属させたいと考えている!」



 その後各議員らによる白熱した議論が行われたが、なかなか意見が収束しなかった。

 始まって3時間、もはやこの議題は一日で片付くものではないと一部から諦めの声が聞こえ始めた。


 その時、突如バンッ!と扉を開く音が会場中に響いた。


「おいっ!現在会議中だ………っ!?貴方様はっ!!」


 議員はその人物を視界に入れるや否や萎縮し、黙り込んだ。





   ☆





 私たちが城へ戻ると、多くの馬車が止まっていた。

 何事かと思いお父様のもとへ行こうとするもメイドたちによって止められた。

 部屋に戻るように促され、納得はいかなかったが疲れもあったため、一先ず自分の部屋に行くことにした。



「私たちがいない間、一体何があったのかしら…」

「分からないけど取り敢えずは旅の疲れをゆっくり癒そう?」


 確かにケイの言う通り、今色々考えたところで仕方ない。

 それに…


「はぁ~~~~~つ~か~れ~た~~~」


 私はベッドに身を投げた。

 疲れのせいか体の至る所が緊張しているように感じる。


「ふふ、ユリアったら、だらしがないよ?」

「いいのよ、私たち以外この部屋には誰もいないんだし。あ~あ、これからまた忙しくなるわ~」

「また王様にお願いして旅行に行きたいね」

「そうね、今度はどこに行こうかしら。楽しみだわ~!」



 今後のことについて話をしていた途中で、メイドの一人が扉を叩き知らせを伝えに来た。

 どうやら会議が終わり、お父様に私たちを呼んでくるよう言われたそうだ。

 案内されるまま会議場に向かうと、お父様が一人で会場の中央に立っていた。



「お、来たか!旅行楽しめたようで何よりだ!」

「それより何の会議をしていたの?馬車がたくさんあったけど」

「あ~っと…せっかくの旅行から帰って早々悪いんだが二人に報告しないといけないことがある」




 あ……この感じ、覚えがある。いや~な予感しかしない…………




「お前たちには春からリーリオン学園に入ってもらう!」





 ……………………ん?





「ユリア…ユリア……?固まってるけど大丈夫?」


 はっ!今とんでもない聞き間違えをして無意識に現実逃避しようとしていた。

 気を取り直して。



「ごめんなさいお父様。今私が外の学び舎で学ぶと聞こえてしまったわ。もう一度言ってもらえる?」


「なんだちゃんと聞こえてるじゃないか。今度は専任の家庭教師じゃなくて他の同年代の子たちと一緒に勉強していくんだ、わくわくするだろ~!ケイもそう思わないか?」


「はい、ユリアと鍛錬だけでなく勉学も共にできるなんて感激の至りです!」



 終わった~~~…………



 外の学び舎で教養を培うのはまだいい。

 でも同年代の子なんてケイ以外でまともに話したこともない。

 馴染める気がしない。

 それならまだ慣れ始めてきた鍛錬をやっているほうがずっとマシだ。




「…ヵ…」


「ん?何か言った…………」




「お父様のバカーーーーーッ!!!」



 私はその場から全力で逃げた。





「ユリア?開けるよ?」


 ベッドのクッションに顔を埋めていると、ケイが部屋に入ってきた。


「さっきはびっくりしたね。鍛錬を始めたと思えば今度は学園だって。混乱するのも無理ないよ」


 ケイは私の頭を撫でながら励まそうとしてくれる。


「ユリアは私と学園に行くの嫌かな?」


 私は無言で首を横に振る。


「お城の外に行くのは旅行もあったし、もう大丈夫だよね?」


 同様に首を縦に振る。


「…学園に行くの、不安?」


 続けて首を縦に振る。


「ふふ、私がユリアの傍にいるから、ちょっとだけでも行ってみようよ。もしかしたら想像しているよりもいい所かもしれないよ?」


 ゆっくりと顔を上げると、ケイが穏やかな目で私を見ていた。


「うん…ありがとね、ケイ。こんな私を励ましてくれて…」

「ううん、こうしてユリアの傍にいられるだけで私は幸せだから…」


 私はケイに促されお父様のところへ行き、学園に行くことを受け入れた。




 私たちは部屋に戻る途中、廊下の窓から見える広場に停められた多くの馬車を横目にした。

 外にいる人らもわざわざ子どもの学園に行く行かないを決めるために城まで呼び出されて大変だ。

 お陰で私は最高の学園生活が送れそうですよっと………



「はぁ~~~…………決めたこととはいえ、やっぱり不安しかないわ…」

「私も不安だよ。ユリアと一緒にいれる時間が減るんじゃないかって…」

「もうっ、私がまじめに悩んでるのに!」

「ふふっ、ごめんごめん。だからそんなに顔膨らませないで」




「あら、あらあらあら~~??これはこれはユリア王女ではありませんの~~!!」




 ぐっ……この人をいかにも高貴を強調するような口調と声は……!!



「あら~、カトレア王女ではありませんか。こちらにいらしていたのですね~」


 条件反射的に口調を合わせてしまった。


 カトレア王女は隣国の王女様で、幼少より式典などで何度か一緒になる機会があった。

 髪は金髪で上に盛られており、つり目でまつげが長く、無駄に派手な化粧と赤いドレスを着ている。

 初めて会った時から派手好きと上から目線の態度は変わらない。

 私の中で会いたくない人リストでも指折りの数に入る子だ。


 とにかく、めんどくさい………



「えぇ~、こちらで少々面白いお話をされていると小耳に挟みましたので急遽参りました次第ですわ~」

「まぁ~そうでしたの。またお会いできて光栄ですわ」

「えぇ全くですわ!わたくしとしても……」


 カトレア王女は私の後ろを見て固まった。


「あら?あらあらあら~~~~!!貴方がお噂の?」

「はい、ケイ・イリアス・ベルカと申します。お見知りおきいただければ幸いです」

「えぇえぇ、もちろんですわ!」


 先程よりもさらに笑顔になり、ケイにぐいぐいと近づいていった。


「あ、そうですわ!今度わたくしのお茶会にご一緒しませんか?ぜひともお話をお聞かせ―――」



 話している途中に構うことなく、すっと二人の間に割って入り、笑みを見せつけた。


「カトレア王女、そろそろ戻られたほうがよろしいのでは?きっと使いの方もお探しになってますわ」


 カトレア王女は私の顔を見て手持ちの扇で口元を隠した。


「あら、そうですわね、それではわたくしはこれで失礼いたしますわ!」


 これでようやくカトレアさんともお別れだ!


 と勝利したような達成感を噛み締めていると、カトレア王女が少し歩いたところで「そういえば」と振り向いた。早く行けばいいものを!




「わたくしも春から同じ学びの園へ入園することになりましたの…………」

「なっっ!?!?」

「ふふ、またお会いできるのを楽しみにしておりますわ。では……」




 な、ななななんですってえぇぇえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!

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