悪魔のいたずら
わたくしはあれに敗し、ここに到るまでに味わったことのない苦痛とプライドの廃れを感じながら、この身を焦がしてきた。
周囲からは疎まれ、敬遠されるような目を向けられ、陰で狂っているとさえ揶揄された。
それでもわたくしはやめることはなかった。
ただ、一人のために…………
☆
ケイったら、また私を放ってクラブの助っ人に行ってしまうなんて。
私を愛しているなら私といることを最優先にしなさいよ!
あーもう!腹が立つ!
「おーいっ。ユリアちゃーん!」
声がした廊下の先には、リルが手を振りながら走ってきていた。
その後ろからはクロエさんが歩いてきた。
廊下を走らないように注意されると、リルはピシッと直立して止まり、今度は早歩きで近づいてきた。
「あのねあのね!姉ちゃんがデートに誘ってくれたんだ~!」
「っ……!私はただ、クラスの人たちから耳にしたお店が気になったからついでにリルを誘っただけで……デートとは違うから勘違いしないでっ」
私に誤解のないように慌てて言い訳をするクロエさん、かわいい。
でもどんなに言い訳をしようと、それはもうデートなんですよ、クロエさん。
「ふふっ。よかったわね、リル。いいお土産話を待ってるわ」
「うん!ユリアちゃんは予定ないの?」
「ふんっ。ケイは私よりも、クラブの助っ人の方が大事なんですって」
クロエさんは何だかんだ言ってリルのお願いを聞くから、リルが羨ましい……。
「…………ユリアさん。ケイさんが周囲の手助けに積極的なのは、きっとあなたのためよ……」
「私……ですか……?」
「王女の婚約者が、分け隔てなくその才をもって周囲に貢献しているとなれば、ケイさんを婚約者にしているあなたの箔も自然とつくというものよ」
その瞬間、思わず口が開いてしまった。
クロエさんはやっぱりすごい。
私はそこまで考えていなかった。
王女としての貫禄は、クロエさんにはまだまだ敵わない……。
「ありがとうございます、クロエさん。私、ケイに謝らないと……!」
「ユリアちゃーん!がんばってねー!!」
リルの応援を背中に感じつつ、私はケイのいる闘技場へと足を進めた。
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闘技場は久しく行ってないから、場所の記憶が曖昧になってる……。
ほんっと、この学園は無駄に広大で疲れてしまう。
本校舎から繋がる渡り廊下だけでも迷路のよう。
油断してると迷子になって部屋にも戻れなくなってしまうかも。
えーと…………
確かこの中庭の廊下を進んで3つ目の角をまがっ―――――――
そこにいたのは、黒いフードを被った何かだった。
「ケイっ…………たすけ―――――――」
最後に見た光景は、真っ暗な黒に包まれていく、もう少しで着くはずだった闘技場だった。
☆
予定より遅くなってしまった。
早く戻ってユリアを食堂に誘わないと。
きっとお腹を空かせているだろうし。
「……?」
中庭に何かが落ちている……。
暗くてよく見えない。
もう少し近づいて…………
どうして、ユリアが持っているはずの王家の鞘が落ちているんだ…………




