私に子ども!?
「そこでどうして香辛料を入れるんですかっ!!」
「だって調味料がいっぱいあって~……」
「だってではありません!お姉ちゃんと結婚する以上、最低限の料理は覚えてもらわないと!」
学園に戻ってからというもの、私は毎日のようにエミルちゃんに指導を受けていた。
料理だけならまだよかったが、ケイを支える者として身の回りのことをできるようにする必要があるといい、裁縫、掃除、洗濯、癒し方……?まで付きっ切りで教わっている。
私を見てケイが口出ししようものなら容赦なく「あっち行ってて!」と追い払ってしまう。
少し前までのケイに甘々だったエミルちゃんが様変わりして反抗的になってしまった。
二人の間に何があったのか私は知らない。ケイに聞いてもあはは………と濁された。
そして何故かエミルちゃんとリル、そしてアリスちゃんの仲が以前より親密になっていた。
私がエミルちゃんに指導さえている途中でリルとアリスちゃんが来て、労いに来てくれたのかと思っても、「ユリアちゃんがんばってねー♪」とだけ……。
うぅ………私は何か罰が与えられるようなことをしましたか、神様……
「ユリアさんっ、入れすぎ!!!」
「は、はいぃ~~~!!」
☆
慣れない料理道具で指を軽く切ってしまった……
幸い今日はエミルちゃんが用事で来れないというから、久しぶりに読書でも!と思ったら、教えた所をちゃんと復習するようにと課題を出されてしまった。
保健室、まさかこんなことで来る羽目になろうとは思いもしなかった……
私はため息をついて保健室の扉を開けた。
「失礼します……」
「あ、ユリアさんっ、ちょうどいいところに!」
「先生、その子は……」
そうか、前に聞いた話だと、保健室の先生は結婚されてて子どもはいつも近所の人に預けていると言ってたっけ。
「いつもお世話になっている近所の人が一日不在で仕方なく連れてきたんだけど、私これから教員会議があるの。一時間もかからないと思うから、その間この子の事を見ててもらえないかしら!」
「そんな……わっ、私、赤ちゃんのお世話なんてどうすればいいか……!」
「ユリアさんなら安心できるの~。それに今、この子寝付いたばかりだから、しばらく起きることはないわ。お願い……っ!!」
強く手を結んで先生にお願いされたら断れるはずもない。
それに、保健室の先生には普段何かとお世話になっているし、恩返しができるいい機会にもなるだろう。
「…………わかりました」
「本当!?ありがとう~!それじゃ、お願いね」
先生はそう言い残すと白衣をひらひらとなびかせながら軽快に走っていった。
そうだ、指の傷の処置しないとだった……
・
・
・
赤ちゃんは小さなベッドの上で静かに眠っている。
肌がシルクのように真っ白で、髪の毛もまだ薄っすら……
短い腕はロールパンを彷彿とさせるようにふっくらとしていて…………
少しだけなら…………
じっと見つめていると、私の中の触れてみたいという欲が顔を出した。
起こさないように極力音を出さないようにそーっと手を伸ばす……
ふにっ…………ふにふにっ………
~~~~~~~っ柔らかい!!!!
しかも、顔を近づけているせいか、ほのかにミルクのような甘い匂いもする……!
そのまま指を赤ちゃんの手の方に移動させると、赤ちゃんは力なく私の指を握った……
赤ちゃんは天使と聞いたことがあるけど、そう比喩したくなる気持ちが今なら痛い程わかる!
…………抱いて、みたい………
私は先ほどよりもさらに細心の注意を払いつつ、その背中に手を潜り込ませた。
そして、ゆっっっくりと持ち上げて……………
はぁ~~~~~っ!!!!!
私、いま、赤ちゃんを、抱いているっっ!!!!
…………赤ちゃん……か………
やっぱり赤ちゃんを育てるのって大変なんだろうな。
一応今まで読んできた本のおかげで、母親が何をする必要があるのかは把握しているけど、その仕事量の多さと大変さに想像しただけで滅入ってしまいそうになる。
先生も含め世の中の人たちは私のようにメイドとかいないだろうから、余計に育児に苦労していそうだ。
「っ…………!」
もしかして、エミルちゃんが最近私に厳しく指導しているのは、結婚してからのそういった苦労も見越しての行動?
だとすれば、エミルちゃんのは単に厳しいのではなく、私を思っての優しさ……!
明日、エミルちゃんにお礼を言おう。
そして、教えられたことを頑張ろう。
将来、ケイを支えられるように……!
「あ、ユリ――――」
「しーっ、静かに……」
ケイはゆっくりと扉を閉め、そーっと私たちに近づいてきた。
「先生の子よ。教員会議の間預かるように頼まれたの」
「そうだったんだ……ふふ、小さくてかわいいね……」
ケイは微笑ましく笑みを浮かべ、赤ちゃんのほっぺたを指で触れた。
「本当にかわいいね…………私たちの赤ちゃん………」
「うん………………いいいいいい、いまっ、いま!!!」
「しーっだよ、ユリア…………ふふっ」
ケイは嬉しそうに笑顔を向ける。
「もう……あとで覚えてなさいよぉ……」
私が自由に身動きがとれず、声も出せないのをいいことに言って!
また私だけ恥ずかしい思いさせられたじゃない……ケイのばか。
「ごめんなさい……あら?ケイベルさんも来てたのね」
入ってきた先生の髪はぼさぼさになっていた。
息も少し荒めで、走ってきたに違いない。
「お子さん。とてもいい子ですね」
「ええ、私たちの自慢の子なの。にしても……」
先生は口元に手を添えて、私たちを睨んだ。
「あなたたち…………まるで家族みたいね!」
「なぁっ!?先生!!」
思わず声を出した瞬間、抱いていた赤ちゃんは大声で泣き始めた……。




