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西と南の会話

 クロエたちも、ユリアたちと同じく冬休みに帰国していた。

 

 学園からの長距離で疲弊しきっていたにもかかわらず、帰国して早々にメイドによって言い渡されたのは公務の話。

 しかも、リルにはまた別に国外での公務が言い渡され、クロエは一人で公務に臨まなくてはならなくなった。

 

 

 リルは自分と別々に行動することに大反対するだろう、クロエはそう予想していた……




 が、




 なんと、常日頃から「姉ちゃん大好きーっ☆」と言って、結婚してからは毎日時間や場所を気にせず腕を組んできていたリルが、呆気なくその公務を承諾したのだ。


 そしてリルは、何故かケイの妹であるエミル・イリアス・ベルカも共に連れ、公務の目的先となる北の国へと向かった……。


 

 この時、クロエは妙な苛立ちを覚えた――――



 クロエの公務は一日後からの出発だったため、自分さえわけのわからない苛立ちは城中の人間の知るところとなり、城全体が大昔の戦後始まって以来の緊張に包まれた。


 

 そんなクロエに新人の王族専属騎士が、気晴らしに剣でも振ってみてはどうかと提案した。


 しかしこれが、軽はずみな言動だったとその騎士は深く後悔することとなった。


 城内の草原でクロエは自分の剣を握るや否や、その苛立ちの剣先ぶつけるいい獲物を見つけたと言わんばかりの笑みを見せ、対峙した騎士たちを次々と無双した……。

 

 


 数時間後、落ち着いたクロエの周囲には倒れた騎士たちの光景が広がり、クロエは一息ついて自室へと戻った。


 のちにこの出来事は『剣姫(けんき)の御乱心』と名付けられ、以降何があってもノーブレット姉妹を引き離すなという暗黙の条項が城内で決められた。



 

 そして、クロエが向かったのは――――――




「学園の外でこうして会うのは初めてね」


「ええ。クロエ王女とは一度時間を忘れゆっくりとお話ししたいと思っておりましたので、このような形で希望が叶い嬉しいですわぁ」


「私もよ。せっかくだから、王女としてではなく、学友として語らいましょう」


「ええ、ええ……っ!もちろんですわ!クロエさん!!」



 



  ~サンカレッド連邦国王城内 カトレアの部屋~



 カトレアによって案内された部屋には、イヴェル・アンフィニがニャ~と寝息をたてながらベッドの上で気持ちよさそうに寝ていた。



「まあっ!少しばかり目を離すとこれですわ、まったく。起きなさい、イヴ!クロエさんが遠方のところをわざわざいらっしゃったんですのよ!」


 イヴは声に反応して眉をひそめ体を小さく動かした。


「私のことなら大丈夫だから、そのまま寝かせてあげて……」


 カトレアが静かにすると、イヴは再び寝息をたて始めた。



「お優しいんですのね……」

「これも、()()()()()()の影響かもしれないわね……」





 国内でも選りすぐったという銘茶を口にしたクロエは、喉に優しく流れていくそれを感じながら一息ついた。



「流石ね、こんなに上品で味わい深いお茶を口にするのは初めてだわ」

「当然ですわ!ユリ……こほんっ……来賓のためにと用意していた、わたくしが実際に現地を足を運んで茶葉から厳選したものですのよ!」



 自慢げに語る様子にクロエは微笑した。

 再びお茶を口に入れ、カップを皿に静かに置くと、クロエはカトレアの方を向いた。



「カトレアさん、私ずっと気になっていたのだけれど、あなたのユリアさんを見る目は何だか……友人と呼ぶには不十分な、もっと大きなものを感じるわ。ユリアさん特別視するのには何か理由があるのかしら?」



 聞かれると、カトレアはふっと笑みをこぼし、窓の外に目を向けた。



「あれは、わたくしが幼少の頃に初めて東の国を訪れた時の話です…………」





――――――――――――――――――――――――――――――――




 当時のわたくしはまだ人との接し方に慣れておらず、メイドの後ろに隠れてばかりの子どもでした。


 見知らぬ人間が大勢いるパーティー会場が嫌になり、わたくしはメイドたちの目を盗んで一人で外へと抜け出してしまいました。


 下を向きながら庭園を歩いていると、突如目の前に小さなカエルが跳び出してきました。

 カエルを見たのはその時が初めてだったわたくしは、変な鳴き声で鳴く未知の生き物として恐怖感を覚え、その場から立てなくなりました。


 カエルは小さく飛び跳ねながらわたくしに近づき、わたくしは今にも泣きそうになりました。




 そんな時―――――




「あーっ!女の子だー!」



 声がした方向に顔を向けると、一人の少女がわたくしに指をさし、まるで宝物でも見つけたように瞳を輝かせていました。

 

 少女は地面に座っていたわたくしを不思議そうな顔で近づき、目線を合わせました。

 


「どーしたの?」

「あ、あれぇ…………」

「んー?なーんだ、ただのカエルじゃない!」


 

 少女は大きな声で威嚇し、カエルを追い払いました。



「もう大丈夫よ!あなた、お名前は?」

「えっと、その……カトレア・リベ・ブライトです……ぁ、ありがとう……ございます……」

「カトレアちゃん?いいお名前ね!そうだ!いまからワタシといっしょに―――――」

「見つけましたよユリア様!」



 ユリア様と呼ばれた少女はメイドたちを見ると慌てて逃げ出そうとしましたが、間もなく抱きかかえられ城の方向へと連れていかれました。



「さあ、王様方がお待ちですので行きますよ!」

「やーーだーーっ!!ワタシあの子といっしょにあそぶの~~!!」



 僅かに遅れてわたくしのメイドたちも駆けつけてきました。


 しかしわたくしの目にはメイドたちは見えず、()()()()()しか見えておりませんでした。


 

 誰ともわからないわたくしを助け、明るい笑顔とともに手を差し伸べていただいたユリアさんはまさに救世主。いえ、天使に見えました。



 それからのわたくしは、ユリアさんに少しでも距離を縮めようと心を変え、ユリアさんと同じように人前で明るく振舞い、ユリアさんの出席する催事にはほぼ参加致しました……。




――――――――――――――――――――――――――――――――




「そして今、晴れてユリアさんと同じ学びの園で同じ時間を共にしているんですのよ!!おーーーほっほっほっほっほ!!!」


「そ、そう……」



 クロエは何と反応すればいいのかと考えつつ、横で自分の歩みに誇らしく高笑いをするカトレアを見つめた。



「イヴが見てきた限りだと、様変わりしたカトレアにユリアは敬遠してたけどな~」

「お黙りっ!!」


 いつの間にか目覚めていたイヴはベッドの上で座っていた。


「ごめんなさい。起こしてしまったかしら……」

「いんや、軽い昼寝のつもりだったから気にするな」


 ニャーと猫のように背中を反らしベッドから降りると、テーブルに置いてあった茶菓子ひとつ摘まんだ。


 と、ここでクロエがふと何かを思い出したようにイヴを見た。



「イヴェルさん。あなたはいつからカトレアさんといるのかしら?さっきの話の中では出てこなかったけれど……」


 

 茶菓子を飲み込むと、イヴは笑顔になった。



「イヴは道端で生き倒れてたのをカトレアに拾われたんだ。カトレアはユリアのことになるといつも変になるけど、根はいいやつなんだ。だからイヴはカトレアのナイトになるって決めたんだ!」



 他意のない笑顔で話すイヴにカトレアはふんっとクロエとは逆の方向を向いた。

 すると扉をとんとんと叩く軽い音がした。


 カトレアが入る許可を出すと、小さなメイドが一人入ってきた。



「初めてお会いいたします。わたくしはミリー・アルツィヒと申します」

「初めまして……。まだ幼いのに偉いわね……」


 

 クロエが笑顔で話すと、ミリーはショックを受けたように涙を滲ませた。



「うぅ……。こんな見てくれですが、わたくしは今リーリオン学園の一年生なんです……」


「っ……!?」



 クロエは事実を確認しようとカトレアとイヴに振り向くと、二人はクスクスと笑っていた。



「わたくしは、やっぱり子どもに見えるのでしょうか……っ」



 両手で顔を隠し始めたミリーに慌てて駆け寄ったクロエは語弊があったことを説明した。

 そして何とかその頬を濡らすことを回避した。



「はぁ……あなたたちも少しは手伝ってくれてもよかったんじゃないかしら……」

「失礼いたしましたわ。あのクロエ・デ・ノーブレットが慌てている姿をつい見てみたくなりまして……」

「もぅ、カトレア様も意地悪ですぅ……」



 頬を膨らませたミリーの頭にカトレアは手を置いた。



「ふふっ、ごめんなさいミリー。でも、愛くるしいあなただったからしてしまったんですのよ。どうか許してくださいまし」

「カトレア様……っ!」



 その様子を見て今度はクロエがクスクスと笑った。


 そしてイヴが拾われたことも思い出し……



「あなたも、()()()()()()()()()……」


「……?…………ぁ~~~~~クロエさんっっっ!!!!」

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