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ドキドキ!ふたりの旅行!(2)

「ここ…どこかしら…」



 部屋に戻ろうとしたがケイが戻ってきたときにどう接すればいいかがわからず、迷路のように入り組んだ路地を一人でとぼとぼと歩いていた。


「はぁ……」


 私、どうしたらいいんだろう。

 ケイのことは嫌いじゃない。いつも優しく接してくれて、私の事も一番に考えて、ちゃんと理解してくれる人。

 そう思っていた。

 でもさっきのケイはいつもとは明らかに違っていて、すごく強引で、私が嫌がる素振りをしても何かに取り付かれたように度外視だった。



 …………やっぱりあんなのいつもと同じケイじゃない。きっと何かあったんだ。

 だとしたらこんなところで悩んでいる場合じゃない、早く探してあんなことをした訳を聞かないと!


 でも私、道に迷ってたんだった……。


  いや、今の私は少し前とは違う。鍛錬で教わったことを発揮するときだ!

 とりあえず……



 しばらく考えたが妙案は思いつかなかった……。




 ☆





「ユリアーッ!…ハァッ、ハァッ……ユリアーッッ!!!」


 ケイは街中を全力で駆け回り、必死にユリアを呼びかける。

 本来、王女であるユリアの名前を公で叫ぶことは禁止されている。

 しかしこの時のケイはそれを忘れるほどに冷静を欠いていた。


 自分がこの世で最も愛する人。そのユリアの気持ちを忘れ、自分の欲望に任せてしまった結果、彼女を怯えさせ泣かせてしまった。

 初めて会話したあの月光の下で『ユリアは私が必ず幸せにしてみせる』と誓ったはずなのに。

 そんな自分のしでかした過ちに深い後悔とユリアへの懺悔を何度も繰り返しながら、ケイは最愛の人の名前を叫ぶ。




 と、そこに一人の女がケイの口を塞ぎ、路地裏へ連れ込む。




 路地裏には他に四人の女たちがいた。



「ケイ・イリアス・ベルカ、貴様の今回の愚行は重罪に値する。よって貴様には後日、君主より改めて裁かれるだろう。貴様を今から王都へ連行し――――」



 ケイは懇願するように女の服にしがみつき、目を見つめた。


「お願いします!あともう一度だけっ…もう一度だけ、私にユリア様と面会する機会をいただけませんかっ!!せめて謝罪の言葉だけでも………」

「承服しかねる。貴様は己の罪を理解していないようだ。……連れて行くぞ」



 ケイの必死の訴えも虚しく、両腕を他の女に掴まれる。




「待て」


 路地の奥から現れた一人の女が止めた。

 ケイはその騎士からは他の女たちとは違う雰囲気を感じ取っていた。

 その女はケイに近づくと前髪を掴み上げ、ケイの瞳の奥を覗き込むように鋭い目で睨んだ。



「ケイ・イリアス・ベルカ。貴様は姫のなんだ?」


 ケイは思いもしなかった質問に一瞬固まった。


「私はユリア王女の婚約者候補……いえ、結婚する者です……!」

「ほう……にもかかわらず、貴様はこのまま抵抗虚しく城に送還か?貴様の姫に対するそれも、せいぜいその程度のものだったというわけだ」

「違うっっ!!私はユリアを世界で一番に愛しているんだ!!」



 女は目を瞑りしばらく沈黙した。



「ならば……暮れまでに姫を坂の上の公園に連れよ」

「隊長!?」


 他の騎士の動揺を他所に女は続ける。


「貴様の言う愛が真のものならばこのくらいのことは出来よう?」

「必ずっ!」

「では行けぇっ!!」


 力のある声と同時にケイは掴まれた両腕を振り払い、路地の暗闇へと駆けた。



「………部隊長、よろしいのですか?このことが知られてはあなたにも…」

「奴の目……一切の曇りがなかった。なに、奴の答えに運命とやらがどう転ぶか見てみたくなってな。それに()()()()ならきっと同じことを申していただろう…」





 ☆





「うぅ、寒いわ……」」


 あれから少し上の方まで来てみたものの、私は依然として路地裏にいた。


 空は赤く染まり、狭い路地は真っ暗。

 この街は日中は年間を通して温暖な気候だが、時期によっては夜になると大きく気温が下がり、寒暖差が激しいことでも有名だ。

 加えて今は冬の季節。日が沈むのが早いうえに、影のある場所は冷たい風が追い打ちをかける。


 寒さばかり意識すると体が震え、温かいもの、人肌が恋しくなる。

 薄着のまま勢いで飛び出てきたため、この注意点を忘れていた。

 体温がどんどん奪われていくのがわかる。

 


 寂しさを少しでも紛らわそうと人通りのある道に行くと、大人たちが大声で楽しそうに酒を酌み交わしていた。

 しかし私にはその光景は初めて見るもので、怖さと同時により一層孤独感に襲われた。


 この感じ、前と同じ感覚……。

 ケイに会いたい……。

 会ってまたいつも通りに戻りたい!


「もう、こうなったら………」



 私は大通りの坂を駆け上がった。




 坂の上の公園に着くと人影は見当たらず、オレンジ色のランプ灯が公園各所を点々と照らしていた。

 ずっと歩き続けて足の疲れが限界にきていた私は、海を臨めるベンチに腰を落とした。


 とうとうケイと会えなかった。

 日が沈みかけている。

 もうヘンリーさんのお家もどこだったかわからない。



「ケイ…………」





 小声で呟くと後ろから見覚えのあるコートがかけられた。



 振り向いた先にはよく知る少女がいた。


「はぁっ!ケィッ――――」


 名前を呼ぼうとしたのも束の間、ケイは静かに私を包んだ。


「ごめん、ユリア。私は君にとんでもないことをした……。許してくれなくていい。でもどうか、私がつけた心の傷の償いだけでもさせてくれないかな……」

「ふふ、も~いつものケイはどこにいったの?らしくないじゃない……」


 私は首元に巻かれた腕に手を添えた。



「ユリア様…」


 公園の奥の方から軽装を身につけた騎士たちがやってきて、私の前で膝をついた。


「この度、ケイ・イリアス・ベルカの浅はかな行動がユリア様に与えた不遜な危害、心よりお詫び申し上げます。つきましては………」

「いいわ」

「はい?」

「聞こえなかったの?私はそのことはもういいと言ったのよ」

「しかし此度の問題は………」

「いいから下がりなさい!これは命令よ!」



「どうかお静まりを、ユリア姫……」


 奥から今度は部隊長がやってきて、他の騎士たちの前に出てきた。


「イリス部隊長。あなたの隊は再教育が必要のようね!」

「此度の部下の非礼も含め、わたくし目からも謝罪いたします」

「ふんっ!まあいいわ。その代わり、“ケイは今回私と休日を享受した。それ以上もそれ以下もなかった”という報告が条件よ。これで非礼も見逃してあげる」

「姫の寛大な御心に感謝と敬意を……明日より別部隊をお就けいたします」


 イリス部隊長は特に反論する様子も見せず、部下を引き連れて私たちの前から立ち去っていった。


 騎士たちが見えなくなるまで見送ると、私はべンチに座るようにケイに促し、二人で沈んでいく夕日を眺めた。

 しばらくして、私は躊躇いながらも覚悟を決め、ケイに聞いてみた。


「それで、その………今日はどうしてあんなことを…?」


 ケイは私の目を避けるように下を向いた。


「私、こうしてユリアと出会うまでずっとユリアのことを想ってきた……。そしてようやくここまで来た。だから自分の気持ちを何とか形にしようって……」


 ケイの拳に力が入る。


「だけど、ユリアの私との接し方は恋人以前に友だちのように感じられてっ」


 ケイの声は時々上ずり、肩が僅かに震える。


「だから私がどれだけユリアのことを想っているのかをわかってもらおうとして、それで――!」


 ケイの声はだんだんと落ち着きがなくなり始める。



「私ね、今まで『ともだち』というものを持ったことがないの。それでケイとこうして出会って、最近ともだちってどういうものかがわかってきたような気がしてたの」


 私は目の前の柵に向かって数歩歩き、手すりに手を置いた。


「でも、実際のケイと私の関係はともだちなんかよりも特別な関係で……。私、ケイとどう接すればいいのかわからなかったの」



 ケイはお父様やお母様たち以外で初めてできた、私の大切な人だから。

 慣れない付き合い方でせっかくの関係を崩したくなくて、怖かった。



「そんな時に今回の事があって、私びっくりしちゃった…っ」


 振り向くと、ケイは頭を抱えていた。


「本当にごめん、ユリア……。君の気持ちも考えず、自分の気持ちを押し付けてしまった。私、婚約者として失格だ………」


 うな垂れて、今にも泣いてしまいそうなケイ。

 私はゆっくり近づき、両手でケイの手を握った。


「もう謝らないで。私も、ケイが私をそこまで想ってくれる気持ちを考えることができなかったことは同じなんだから」

「でも私は、無理やりユリアを…!」

「確かに最初、普段のケイじゃないみたいで怖かった……。でもこうして理由がわかって、今は…ほら、触れても大丈夫!」

「ユリア…」



 ケイの目じりには涙が溜まり、今にも零れ落ちそうだった。

 


「私はまだケイが望むようなことはできないかもしれないけど。少しずつ、ケイの気持ちに応えられるように頑張るから、もう自分を責めないで…?」

「っ……うぅ……あり…がとぅ……」


 押し込んだものが崩れたのか、ケイは握っていた手におでこをつけ、感謝の言葉を何度も繰り返した。


「ふふ、ケイって結構泣き虫なのね!」

「………泣きたくもなるよ。だって、ユリアがあまりにも優しくて…眩しくて……

 私、ユリアと出会えて本当によかった…」

「そ、そうでしょ!私は王女なんだから!」


 私は照れくさくなり、反対側に体を向けた。



「うん、そうだね…………ユリア……」



 するとケイは後ろからそっと私を抱きしめた。



「…………こんな私だけど、これからも傍にいてほしい…」


「それ、少し前に私がケイに言ったセリフよ?私が断る理由がないわ………」



 あぁ、これだ。

 丘の上でケイに膝枕をしてもらった時と同じ温かい感じ……。

 このまま時間が止まってほしいと思ってしまう。


 これが恋人の感覚、になるのだろうか……。



「……ユリア、あったかい…」

「もぅ、仕方ないんだから……」


 一緒にコートの中に入れると、ケイは涙を浮かべつつも笑顔をこぼした。



「もぅ…ずるいよ……こんなことされたら、私……」


 さっきまではコートを挟んでいてわからなかったが、密着したことでケイの鼓動がすごく伝わってきた。

 私の鼓動も激しいせいで、どっちの鼓動が自分のものなのかわからない。

 ケイを意識すればするほど他に何も考えられなくなる。


 体全体が熱くなっていく…………




「…………ユリア…いいかな…?」



 ケイは私の頬に優しく手を添えて呟いた。


 私は小さく頷きそっと目を閉じる。



「っ……………」



 触れたところに柔らかい温もりを感じる。


 時間が止まったように周りの音が聞こえない。


 どきどきしているはずなのに、物凄く落ち着く。


 今、すっごく幸せ。

 私、こんなに幸せになっていいのかな……………



「……………………私、ケイが好き」



「私も。大好きだよ、ユリア…………」


二人の距離が一気に縮まり、ここからが二人の物語の本当の幕開けです!

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