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これが、最後のデート

「あっ、お姉ちゃーーん!」


「待たせてごめんね、エミル。じゃあ、行こうか」


 

 差し出されたお姉ちゃんの手に引っ張られて、私は学外にある街へ行く馬車に乗った。


 一方的に私が決めたデートの約束に、お姉ちゃんは来てくれた。

 それだけでも嬉しいのに、これまでの騎士風の装いとは違って、デートにぴったりな着こなしをして来てくれた。

 

 どうして今日は普通の服なんだろう……。


 それに…………


 

「お姉ちゃん、手……っ」


 お姉ちゃんは馬車に乗ってからもずっと私の手を握ってくれている。


「エミルの手はまだ小さいね。幼少の頃と比べると大きく成長しているから、何だか寂しく感じていたんだ。でも、少しだけほっとしたよ……」


 そう言って安心したような表情を私に見せると、お姉ちゃんは私の頭に首を傾けた。


 こんなことをされて、通常なら鼻血を出して天に昇るはずなのに、今日はそういう発作が出なかった。

 代わりに、片思い中の相手に初デートで手を握られたような嬉しさと恥ずかしさで、心臓がどきどきした。


 普段は私が積極的に動くから、それが逆の立場になって、いつもの調子が狂ってしまった。


 

「あ、そろそろ着くみたいだね」



 目をつぶって甘い時間を噛み締めていた私に、窓の外を見ていたお姉ちゃんが到着を知らせてくれた。

 お姉ちゃんの意識はもう街の景色に向かっている。


 あと少しだけ、お姉ちゃんと肩を並べていたかったな……。

 



 街の地面に足をつけると、お姉ちゃんはもはや当然のように指を通して握ってきた。


「どこか行きたい場所はある?」



 どうしよう、ユリアさんに対抗心燃やすばかりで、大事なデートプランを考えるのを忘れてた!

 せっかくお姉ちゃんと久しぶりのデートなのに……!



「ふふっ、それじゃあ、今日は私がエミルをリードしようかな」



 お姉ちゃんは子供のように無邪気な笑顔で私に言った。



 好きな人と……お姉ちゃんと一緒にいると、安心できる……。


 お姉ちゃんといれば、私はなんだってできてしまうように錯覚する。それほどにお姉ちゃんは頼りになる。

 

 こうして街を二人で歩いているだけで、小さい頃に臆病で泣き虫だった私に、優しく手を差し伸べてくれたお姉ちゃんとの思い出が浮かんでくる……。

 



「あらまあ~、お嬢ちゃんたちカップルかい?」


 通りすがりのお店のおばあさんが私たちに声をかけてきた。




 って…………カカカカカ、カップルッッッ!?!?!?




「はい!!私たち結婚するんです!!」

「嘘を言ったらだめだよ、エミル。すみません、私たちは姉妹なんです」

「あら、ごめんなさい。仲良さそうに手を繋いで歩いていたから勘違いしてしまったわ」


 

 はあ……、やっぱりお姉ちゃんにとって私は姉妹でしかないんだ……。



「いえ。ですが…………『妹が恋人だったなら……』と考えたことは何度かあります……」



 ~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!



 私は声にならない無言の彷徨を放った。



「何せ私の自慢であり、唯一のかわいい妹ですから……」




 あっ、もうだめ……鼻血が…………ぐふっっ!!




「あら~、この季節にお熱い姉妹だね~。これ、やるから持っていきなさい」


 渡されたのはお揃いの花柄のついたネックレスだった。


「それをつけていれば、あなたたちにはきっといいことがあるわ!」


 おばあさんは笑顔で私たちを見送った。




 おばあさんと別れ、またしばらく街を歩いていると。


「エミル、あれ……」


 お姉ちゃんが指さした先には、中央広場で街の人たちが陽気な曲に合わせて踊っていた。街の中で流れる音楽と踊る人たち、実家の町でも同じような光景を見てきた。懐かしい……。



「エミル、私たちも踊ってみない?」

「うん!!」


 私たちは昔踊ってた記憶をたどり、懐かしみながら踊った。

 すると、私たちを囲むように周りに人だかりができ始めた。


 踊っている最中に合いの手や指笛を鳴らして、広場は今日一番の盛り上がりを見せた。


 このまま時間が止まったらいい、ずっとお姉ちゃんと楽しい時間を共有していたい、そう思った。



「あんたたち最高のパートナーだよ!!」

「こんな楽しそうな踊り、あなたたち二人にしかできないわ!」



 街の人たちに盛大な拍手と称賛を送られた。

 こんなに注目されるのは初めてかもしれない。



 でも、これ以上は…………



「ねえ、お姉ちゃん。私、お姉ちゃんに言いたいことがあるんだ……っ!」

「ん?えっ、エミル!?」



 私は今日初めてお姉ちゃんの手を強く引っ張り、広場から走って抜け出した。



 走って、走って…………そして止まったのは、湖のほとりにある桟橋。



「どうしたのエミルっ、はあ…、急に走ったりして……」


 お姉ちゃんは若干戸惑ったように呼吸を整えた。


「お姉ちゃん。私、今までお姉ちゃんに好きって言ってきたよね。それは嘘じゃない、本当のことだよ」

「うん……」

「私ね、お姉ちゃんがユリアさんと結婚するって聞いた時、本当に悔しくて、悔しくて……泣いちゃったんだ」



 お姉ちゃんは申し訳なさそうな顔で私を見つめる。



「でもね、私お姉ちゃんがユリアさんのために、一生懸命に母様に教えてもらってたの知ってるから。私も諦めないでお姉ちゃんに好きって事伝え続ければもしかしたらって思ったんだ。だけどだめだった……っ」



 だめ、まだだ…………



「お姉ちゃんが一度決めたことを曲げないことくらい、自分が一番知ってるのにね……。ばかだなー、私って………………っ」



 お願いだから、まだ出てこないで……!!



「だからね、私決めたんだ!お姉ちゃんが大大大大っっっ好きだからっ、ユリアさんと幸せになるのを応援しようって!!…………んっ」




 だからお姉ちゃん、幸せになってね………!




「エミルっっっ!!!!!!」




 私はまた走り出した。今度は一人で。


 お姉ちゃんがいる場所とは逆の方向。


 雨は降っていないのに、目元はひどく濡れていた。


 こうなることくらいわかっていた。


 それでも、けじめとして必要だとずっと前から考えていた。それが今日だっただけの話。



 もう、これで終わりなんだ。

 全部、私の初恋は――――――




「エミルちゃん…………」




「…………………うぅ……………ぐすんっ…………あぁ、ぁああっ、嫌だ、嫌だよおおおおおおおおおおおおお!!!!!うわああああああああああああ」




「エミルちゃん、本当にすごいよ…………よく頑張ったねっ…………本当にっ…………」



 私は泣き続けた。声と体の水分が枯れるまで…………

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